E2431 – コロナ禍における米国の図書館支援政策

カレントアウェアネス-E

No.422 2021.10.14

 

 E2431

コロナ禍における米国の図書館支援政策

図書館情報学研究者・橋本麿美(はしもとまろみ)

 

  新型コロナウイルス感染症の流行により,図書館および図書館利用者は従来のサービス提供および利用に多大な影響を受けている。このような状況下で,米国連邦政府は法制度を整備し,図書館支援を行っている。本稿では,新型コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(CARES Act)および米国救済計画法(ARPA)に基づき博物館・図書館サービス機構(IMLS;CA2000参照)により行われた図書館支援,および,ARPAに基づき米国連邦通信委員会(FCC)が採択した緊急接続基金による図書館支援の動向を概観する。

●IMLSの図書館支援

   2020年3月27日にCARES Actが成立し,IMLSへも,図書館や博物館がデジタルネットワーク拡大,インターネット接続機器の購入,コミュニティへの技術サポートの提供など,新型コロナウイルスの予防・準備・対応を可能とするために5,000万ドルが割り当てられた。これにより,IMLSは図書館サービス技術法(LSTA)にもとづく従来の図書館支援に加えて上記新型コロナウイルス対策の支援を行うこととなった。2020年度報告書等から,その内容を概観する。同法に基づく資金は,これまで4,500万ドルが州の図書館行政機関と準州等59か所,および83館の図書館・博物館等に配分された。また2021年8月25日に約290万ドルが追加交付され,今後2年にわたり博物館・図書館サービスに関する21のプロジェクトが実施される。また同報告書において,OCLCおよびバテル研究所とともに実施する,図書館・博物館における感染リスク低減のための科学的研究を行い,その成果を発信することで図書館の運営を支援する取り組みであるREALM Projectを通じた情報発信の成果についても述べられている。

   2021年3月11日に成立したARPAは,1兆9,000億ドルを投じる経済政策である。同法に基づき,IMLSに2億ドルが配分された。この資金は,CARES Act同様,各州等への配分による全域的な支援と,機関・団体への個別支援に分けられる。州への助成金は1億7,800万ドルで,各州へは200万ドル,準州等へは20万ドルを最低割当額とした人口割による配分がなされる。州への助成金の使途はARPAの範囲で州が決定する。例として,州内の公立図書館等へのサブ助成金の交付,または州全体を対象としたホットスポットやデジタルコレクションの充実などが計画されている。サウスカロライナ州ではデジタル・インクルージョンを重点施策とし,図書館職員のデジタルリテラシー向上や,孫の子育てに関わる祖父母向けのオンライン情報の扱い方の支援,また州の教育省と協働した児童への情報提供などへの取り組みが見られた。インディアナ州を例にIMLSからの助成金受領後の州内公立図書館等へのサブ助成金交付スケジュールを見ると,2021年8月から9月に申請受付および助成金交付,9月から10月にプロジェクト開始,2022年3月に中間報告,7月末に支出締切,9月末に最終報告書を提出となっている。

  個別支援では,“IMLS American Rescue Plan”において「コミュニティのニーズに即時・効果的・効率的に責任をもって対応するための図書館・博物館の機能の強化」と「あらゆる文化的・社会経済的背景をもつ人々にサービス等を届けるための図書館・博物館の能力強化」の目標を掲げ,1機関につき1万から5万ドルの助成金が交付される。このプログラムは2021年6月28日に申請が締め切られ,11月から1年間実施される予定である。

●緊急接続基金に基づく図書館支援

   2021年5月10日,FCCは緊急接続基金の採択を発表した。基金はコロナ禍で情報ニーズが満たされない学生,学校職員,図書館利用者の支援のために学校や図書館によって活用される。財源としてARPAから71億7,000万ドルが拠出される。プログラムの参加館はWi-Fiホットスポット,タブレット等の通信機器や設備の整備に係る費用が償還される。管理者はThe Universal Administrative Company(USAC)である。

  最初の申請受付が6月29日から8月13日に,第2回が9月28日から10月13日に行なわれ,6月25日と8月3日には申請者向けのウェビナーが開催された。申請対象は,E-Rateプログラムの対象となる学校,図書館および関連するコンソーシアム(E-Rateプログラムを利用している必要はない)および部族図書館(Tribal libraries)である。8月25日,FCCはこのプログラムに910万台の接続デバイス購入と,540万件のブロードバンド接続経費に係る51億3,700万ドル分の申請があったと発表した。FCCは,申請終了日から60日以内に実行可能な申請の50%,また100日以内に70%の申請を処理することを目標としている。

●おわりに

  コロナ禍における米国の図書館支援として,IMLSは,全国的には州への支援を通じた広域支援を行い,同時に個別の図書館活動への支援を行うことで,情報アクセス可能性の向上に取り組んでいる。この方法はLSTAに基づく助成金交付制度と共通するもので,このような基盤が整備されていたことが,今回のような緊急時の速やかな支援の実施を可能にしたといえる。そしてFCCの緊急接続基金は,公的な支援を必要とする多くの人々に対し,教育の継続と情報格差を縮小するための連邦の取り組みといえる。

Ref:
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