E2432 - 米国の公共図書館電子化プロジェクト“The Palace Project”

カレントアウェアネス-E

No.422 2021.10.14

 

 E2432

米国の公共図書館電子化プロジェクト“The Palace Project”

電子情報部電子情報企画課・藏所和輝(くらしょかずき)

 

  本稿では,2021年6月に米国の図書館等のネットワークLYRASISが発表した,The Palace Project(以下「パレスプロジェクト」)について紹介する。

  パレスプロジェクトは,電子書籍やオーディオブックといったデジタルメディアを配信するための安定した一連のコンテンツ・サービス・ツールを開発し規模を拡大することで,公共図書館(以下「図書館」)や利用者に利益をもたらすことを目的としている。すなわち,図書館の使命を支えるために,電子コンテンツへの公平なアクセスを提供すること,図書館と利用者の関係を強化すること,利用者のプライバシーを保護すること,そして図書館が自身のあらゆる電子コンテンツを単一のアプリで提供できるようにすることをうたっている。パレスプロジェクトは,LYRASISと米国デジタル公共図書館(DPLA;E2188参照)が,過去の取組の成果を活用しつつ連携して実施するプロジェクトであり,ナイト財団(The John S. and James L. Knight Foundation)からの500万ドルもの助成で成り立っている。プロジェクトの核心にあるのは,図書館は地域社会にとっての知識と創造性のデジタルセンターであるという信念である。パレスプロジェクトの名も,市民参加の中心としての図書館が有する長い伝統に鑑みて,公的生活における図書館の中心的な役割と,図書館は「人々の宮殿」であるというアイデアを強調することに由来している。

  今後の動向としては,2021年の初秋にPalace Platform(以下「パレスプラットフォーム」)の公開が予定されている。パレスプラットフォームは,図書館の意義を念頭に置いてデザインされた,新しい一連のツール・サービスであり,貸出部数の管理機能や,無料で簡単に使用できる利用者用アプリ等が含まれる。そのシステムには,米・ニューヨーク公共図書館(NYPL)が開発したLibrary Simplifiedのオープンソースコードが利用されているほか,プロジェクトの一環として,LYRASISによる図書館向けホスティングサービス等も提供される予定だ。パレスプラットフォームによって,図書館は,利用者のプライバシーを保護しつつ,電子書籍やその他の電子コンテンツを,迅速かつ容易に利用者のために購入,整備,配信することが可能になるという。

  利用者用アプリ(Palace app)は,iOSやAndroid向けの電子閲覧アプリであり,これによって,ソースの異なるあらゆる電子コンテンツを,単一のインターフェイスで表示させることができるようになる。これまで以上に利用者の求めに応じた資料提供が可能となって,ユーザーエクスペリエンスをカスタマイズしたり,コレクションの利用やベストセラーにとどまらない発見を促す等,図書館と利用者の直接的な関係の強化へとつながっていく想定である。

  貸出管理機能(Palace Circulation Manager)は,図書館の資料コレクションと利用者用アプリをシームレスにつなげることが期待されている。ユーザー認証に対応したり,カタログデータを提供するほか,ベンダーが出版社から購入した権利処理済みの資料と,オープンアクセスの資料をひとまとめにして提供する予定である。

  さらに,パレスプラットフォームは,DPLAが開発したマーケットプレイス(現在はDPLA Exchangeだが近々Palace Marketplaceという名称になる予定。以下「パレスマーケットプレイス」)との連携が予定されている。パレスマーケットプレイスは,図書館と協議して開発された,電子書籍やオーディオブックの図書館向け非営利マーケットプレイスであり,主要出版社や多数の独立出版社,アマゾンパブリッシングを含む,英書に留まらないさまざまなタイトルを提供している。利用者用アプリを活用すると,図書館は,パレスマーケットプレイスはもちろん主要な電子コンテンツベンダーのコンテンツを一元的に提供できるようになるが,とりわけパレスマーケットプレイスは利用者のプライバシー保護に力を入れており,利用者の情報がすべて図書館内部のシステムに留まりベンダーに共有されないよう設計されている。パレスプラットフォームとパレスマーケットプレイスが組み合わさることで,図書館が電子コンテンツへの完全なコントロールを取り戻して,図書館の存在意義を維持し,さらには,商用利用からプライバシーと情報を保護しながら,充実したユーザーエクスペリエンスを継続的に提供していくことが可能になると期待されている。

  インターネットでの情報入手がますます容易になる現代では,図書館の存在意義はかつてほど自明ではなくなっている。そのような時代にあって,パレスプロジェクトは,新しい図書館の形を提案する試みの一つと言えるだろう。

Ref:
The Palace Project.
https://thepalaceproject.org/
“Press Release: New Digital Platform Empowers Public Libraries and Patrons, Boosts Equitable Access to Knowledge”. LYRASIS. 2021-06-28.
https://lyrasisnow.org/press-release-palace-project/
“Towards access for all: Introducing The Palace Project”. DPLA. 2021-06-29.
https://dp.la/news/towards-access-for-all-introducing-the-palace-project
八尾典明. 米国デジタル公共図書館(DPLA)戦略計画2019-2022. カレントアウェアネス-E, 2019, (378), E2188.
https://current.ndl.go.jp/e2188