E2685 – Z世代・ミレニアル世代の図書館利用と読書事情(米国)

カレントアウェアネス-E

No.477 2024.04.11

 

 E2685

Z世代・ミレニアル世代の図書館利用と読書事情(米国)

関西館図書館協力課・横山裕里恵(よこやまゆりえ)

 

●はじめに

  米国図書館協会(ALA)は、2023年11月、米国のZ世代・ミレニアル世代の図書館利用とメディア消費の実態に関する報告書“Gen Z and Millennials: How They Use Public Libraries and Identify Through Media Use”を公開した。著者であるポートランド州立大学のKathi Inman Berens氏とRachel Noorda氏が、2022年に2,075人のZ世代とミレニアル世代に対して行ったアンケートと、公共図書館において実施した行動観察調査の結果をまとめたものである。本稿ではその内容を抜粋して紹介する。

  なお、それぞれの世代の定義や区切り方には諸説あるようだが、報告書では米国の調査機関Pew Research Centerの定義を参考に、1997年以降に生まれ、2022年3月時点で13~25歳の世代をZ世代、1981年から1996年までに生まれ、同時点で26~40歳の世代をミレニアル世代としている。

●Z世代・ミレニアル世代とソーシャルメディア

  報告書によると、Z世代・ミレニアル世代はデジタル化の進展する環境下で育った世代である。回答者の92%が毎日ソーシャルメディアを利用し、25%は1時間に複数回チェックしている。こうしたメディア環境が読書や本の好み、読む本の見つけ方に影響を与えているという。

●Z世代・ミレニアル世代と図書館

  回答者の54%が過去1年以内に図書館を訪れており、うち半数ほどは図書館のデジタルコンテンツも利用している。世代間の比較では、来館利用ではZ世代がわずかに上回っているが、デジタルコンテンツの利用はミレニアル世代の方が多い。

  図書館に来館するのは本好きばかりではない。自身は“reader”(読書家)ではないと回答した人のうち54%が過去1年以内に図書館を訪れている。この結果について、報告書は米国の図書館が本だけでなく、無料かつ安全な遊び場所、就労や子育て、言語習得などに関するサポート、Wi-Fi、メイカースペース、プログラミング教室など多様なリソースを提供しているためではないかと推測している。

●Z世代・ミレニアル世代と読書

  回答者は平均して月に電子書籍1点、オーディオブック1点、紙の本2冊を読んでおり、依然として紙の本は人気である。スマートフォンに費やす時間が長い分、ソーシャルメディアから一時的に距離を置く“social media detox”の手段として紙の本が求められているのではと指摘している。

  Z世代・ミレニアル世代がどこで、どのように本を見つけているかも調査している。前者については「ソーシャルメディア」「ストリーミングサービスで本が原作のテレビ・映画を視聴」「書店」「オンライン書店」「図書館」、後者については「友人のおすすめ」「本が原作のテレビ・映画を視聴」「家族のおすすめ」「有名人のおすすめ」の順で多かった。特にZ世代の3分の1以上はTikTokやInstagram上で活動するインフルエンサーの投稿などをきっかけとして読む本を見つけている。TikTok上で本の紹介やレビュー動画を投稿するユーザーのコミュニティ“BookTok”では、電子書籍の出番はなく、専ら紙の本がもつ物理的な側面(これにはしおりや本棚も含まれる)にフォーカスした投稿が多いという指摘は興味深い。

●公共図書館の課題

  報告書の結びでは、図書館がZ世代・ミレニアル世代にアプローチするにあたっての課題や推奨事項などがまとめられている。課題としては、調査の結果を基に以下の3点を挙げている。

  一点目はAmazonのようなサブスクリプションサービスの存在である。調査では、これらの世代ではオーディオブック提供サービスのAudibleなど、サブスクリプション限定又はアプリ限定コンテンツの人気が示されたが、これらを図書館で直接利用提供することは難しい。特筆すべき試みが、米国デジタル公共図書館(DPLA;E2188参照)が運営する図書館向けの電子書籍販売サイト“Palace Marketplace”(E2432参照)で、Amazon PublishingやAudibleのコンテンツへのアクセス権を購入できると紹介されている。

  二点目は、海賊版への対応である。Z世代・ミレニアル世代の32%が非公式のウェブサイトから電子書籍を無料でダウンロード・閲覧しているという。報告書では、図書館が提供する正規のサービスを通じて、電子書籍を利用するよう利用者に促すことを提案している。出版社が図書館に対して新刊電子書籍の複数貸出しを実質的に制限しようとする動き(CA1978参照)もあるが、むしろ利用者の待ち時間を短縮し、電子図書館サービスの利便性を向上させるべきであると論じている。

  三点目は、黒人・先住民族・有色人種(BIPOC)の利用者への影響である。調査では、黒人及びラテン系の回答者が図書館のデジタルコレクションを全体平均より多く利用しており、これらのグループで電子書籍の需要が高いことが示された。電子図書館のサービスが改善されれば、BIPOCの利用者が書籍をより利用しやすくなる可能性がある。

●おわりに

  ALAは2023年12月にも同著者らによる別の報告書“Digital Public Library Ecosystem 2023”を公表している。ここでは図書館、著者、出版社、電子図書館事業者、政府、業界団体などを含めた、公共図書館におけるデジタルコンテンツ提供をめぐる全体像の整理を試みている。例えば、電子書籍の予約待ち時間をめぐる問題に関し、電子図書館サービスのライセンスモデルについて説明し、より柔軟なライセンス契約の重要性を強調している。併せて参照することを勧めたい。

Ref:
“New ALA report: Gen Z & Millennials are visiting the library & prefer print books”. ALA. 2023-11-01.
https://www.ala.org/news/press-releases/2023/11/new-ala-report-gen-z-millennials-are-visiting-library-prefer-print-books
Berens, Kathi Inman; Noorda, Rachel. Gen Z and Millennials: How They Use Public Libraries and Identify Through Media Use. ALA, 2023, 20p.
https://www.ala.org/advocacy/sites/ala.org.advocacy/files/content/tools/Gen-Z-and-Millennials-Report%20%281%29.pdf
“New ALA Report Maps Increasingly Complex Digital Public Library Ecosystem”. ALA. 2023-12-06.
https://www.ala.org/news/press-releases/2023/12/new-ala-report-maps-increasingly-complex-digital-public-library-ecosystem
Noorda, Rachel; Berens, Kathi Inman. Digital Public Library Ecosystem 2023. ALA, 2023, 23p.
https://www.ala.org/advocacy/sites/ala.org.advocacy/files/content/ebooks/Digital-PL-Ecosystem-Report%20(1).pdf
“A Library-Centered Ebooks and Audiobooks Marketplace”. The Palace Project.
https://thepalaceproject.org/marketplace/
“ALA denounces new Macmillan library lending model, urges library customers to voice objections”. ALA. 2019-07-25.
https://www.ala.org/news/press-releases/2019/07/ala-denounces-new-macmillan-library-lending-model-urges-library-customers
“Defining generations: Where Millennials end and Generation Z begins”. Pew Research Center. 2019-01-17.
https://www.pewresearch.org/short-reads/2019/01/17/where-millennials-end-and-generation-z-begins/
八尾典明. 米国デジタル公共図書館(DPLA)戦略計画2019-2022. カレントアウェアネス-E. 2019, (378), E2188.
https://current.ndl.go.jp/e2188
藏所和輝. 米国の公共図書館電子化プロジェクト“The Palace Project”. カレントアウェアネス-E. 2021, (422), E2432.
https://current.ndl.go.jp/e2432
井上靖代. 米国での電子書籍貸出をめぐる議論. カレントアウェアネス. 2020, (344), CA1978, p. 16-20.
https://doi.org/10.11501/11509688