E2686 – オーストラリアとニュージーランドにおけるOAへの取組状況

カレントアウェアネス-E

No.477 2024.04.11

 

 E2686

オーストラリアとニュージーランドにおけるOAへの取組状況

関西館図書館協力課・三崎彩(みさきあや)

 

●はじめに

  2023年6月、オーストラリアとニュージーランドにおけるオープンアクセス(OA)の推進等に取り組む団体Open Access Australasia(OAA)が、2022年時点の両国の研究機関におけるOAへの取組状況等に関する調査報告書“Open access initiatives by research active institutions in Australia and Aotearoa New Zealand: a snapshot of the landscape in 2022”(以下「報告書」)を公開した。本稿では、報告書の概要を紹介する。

●四つのセクターにおけるOAへの取組の概況

  研究活動を行う両国の四つのセクターの計187機関(大学56、保健医療機関52、政府研究機関51、非営利機関28)が、OAへの取組として「ポリシー・立場声明・ガイドライン」「リポジトリ」「OA出版」についてどの程度取り組んでいるかが調査された。調査では、両国内の先住民族の権利への配慮の有無も確認された。各セクターの主な結果は次のとおりである。

  • 大学

      56大学のうち、33大学が研究成果物全般に関するポリシーを策定しており、うち7大学では先住民族に関する研究成果へのアクセスに言及している。また、8大学が研究データに関してポリシーで規定しており、1大学は先住民族のデータ主権(自らに関連するデータを所有、管理する先住民族の権利)への支持を明記している。51大学がリポジトリを運営している。研究データについては、32大学が自機関のリポジトリ等を通して収集している。31大学がOAジャーナルを出版し、13大学では学術単行書のOA出版を行っている。

  • 保健医療機関

      52機関のうちポリシーを策定しているのは、研究データについて定めている1機関のみである。リポジトリを運営しているのは13機関で、4機関では研究データも収録している。OA出版に関しては、1機関がOAジャーナルを出版しているのみである。

  • 政府研究機関

      51機関のうち、7機関が研究成果物全般に関してポリシーを策定している。研究データに関してポリシーで規定しているのは14機関であり、大学の約2倍に相当する。1機関が研究データポリシーで先住民族に関する研究結果へのアクセス要件について定めている。33機関がリポジトリを運営しており、3機関がOAジャーナルを、1機関が学術単行書をOA出版している。

  • 非営利研究機関

      28機関のうち、4機関が研究成果物全般に関して、1機関が研究データに関してポリシーで規定している。1機関が先住民族に関する研究成果へのアクセスについてポリシーで言及している。6機関がリポジトリを運営しており、5機関がOAジャーナルを出版している。

  調査の結果、大学や政府機関で機関レベルの取組が活発であること等が明らかになったが、報告書は、全てのセクターにおいてOAへの立場声明やOA出版の取組は少なく、全体として両国の研究機関によるOAへの取組は期待されたほどは進んでいなかったと評している。また、先住民族のデータ主権やデータガバナンスへの言及が少なかったとし、OAと切り離すことのできない根本的な問題に対する認識が著しく欠如していると指摘している。

●機関によるOAへの取組と研究成果物のOA率

  上述の結果を基に、オープンナレッジ推進に取り組むCurtin Open Knowledge Initiative(COKI)のOA統計データを用いて、各機関やセクターによるOAの取組の程度と研究成果物のOA率との関連性が分析された。分析の結果、両者には明確な関連は見られなかった。例えば、セクターとしてポリシー策定等のOAへの取組が最も活発といえる大学における研究成果物のOA率は、全セクターのうちで最も低い。一方、保健医療機関セクターはOAへの取組があまり進んでいないものの、OA率は4セクター中で最も高い。また、リポジトリの有無と研究成果のOA率についても明確な関連は見られなかった。

●国際的なOAイニシアチブへの支援状況

  機関レベルにおける取組以外のOAへの関与等を示す指標として、国際的なOAイニシアチブへの支援が調査された。OA等の資金調達支援のためのネットワークSCOSSやDirectory of Open Access Journals(DOAJ)等に対し、オーストラリア大学図書館員協議会(CAUL)等のコンソーシアムを通して協調的に支援を行っている大学の事例は相対的には多く見られたものの、全般として支援の程度は低く、また明確な支援のパターンは見られなかった。

●おわりに

  報告書は、両国内のOAの取組状況を初めて概観するものであるとされており、2022年時点の概況を示すとともに、急速に進展するOA分野の展開に対応していくための今後の課題を浮かび上がらせている。

  オーストラリアの国立保健医療研究評議会(NHMRC)は、2022年9月にOAポリシーを改訂し、同国で初めて、助成する全ての査読済み出版物の即時OAを義務付けた。またニュージーランドでも、同年11月にビジネス・イノベーション・雇用省(MBIE)が、助成する全ての査読済み研究出版物をOAとするポリシーの導入を発表し、研究データも可能な限り公開することを推奨している。両国では今後さらにOA推進の動きが活発化していくことが予想される。先住民族のデータの所有や管理の枠組みである「CARE原則」(CARE Principles)等への対応も含め、両国の今後の動向を注視していきたい。

Ref:
“OAA Report: A snapshot of the open access landscape in Australia and Aotearoa New Zealand in 2022”. OAA. 2023-07-03.
https://oaaustralasia.org/oaa-report-a-snapshot-of-the-open-access-landscape-in-australia-and-aotearoa-new-zealand-in-2022/
Catterall, Janet; Barbour, Virginia. Open access initiatives by research active institutions in Australia and Aotearoa New Zealand: a snapshot of the landscape in 2022. OAA, 2023, 82p.
https://doi.org/10.5281/zenodo.8081167
COKI.
https://open.coki.ac/
“COKI Open Access Dashboard”. COKI.
https://openknowledge.community/dashboards/coki-open-access-dashboard/
“Revised Open Access Policy released”. NHMRC. 2022-09-20.
https://www.nhmrc.gov.au/about-us/news-centre/revised-open-access-policy-released
“NHMRC Open Access Policy”. NHMRC.
https://www.nhmrc.gov.au/about-us/resources/nhmrc-open-access-policy
“Open access to research policy introduced”. MBIE. 2022-11-23.
https://www.mbie.govt.nz/about/news/open-access-to-research-policy-introduced/
“Kaupapahere Rangahau Tuwhera – Open Research policy”. MBIE.
https://www.mbie.govt.nz/science-and-technology/science-and-innovation/agencies-policies-and-budget-initiatives/open-research-policy/
“CARE Principles for Indigenous Data Governance”. Global Indigenous Data Alliance.
https://www.gida-global.org/care
“CARE Principles”. Australian Research Data Commons.
https://ardc.edu.au/resource/the-care-principles/