E2188 – 米国デジタル公共図書館(DPLA)戦略計画2019-2022

カレントアウェアネス-E

No.378 2019.10.24

 

 E2188

米国デジタル公共図書館(DPLA)戦略計画2019-2022

電子情報部システム基盤課・八尾典明(やおのりあき)

 

 2019年6月,米国デジタル公共図書館(DPLA)が戦略計画2019-2022を公表した。本計画は戦略計画2015-2017(E1646参照)に引き続くものである。

 DPLAは米国各地の図書館,アーカイブズ,博物館,文化機関の所有するデジタルコンテンツを一元的に検索できるポータルサイトである(CA1857参照)。2013年4月の公開(E1429参照)以来,順調に連携機関を増やし続け,本計画公表時点では4,000を超える連携機関から3,000万点ものデータを検索することができる。

 DPLAは,米国中の図書館や文化施設の持つコンテンツを全ての人に提供するデジタルライブラリーという理念の下に創設された。デジタル時代になって初めて可能となったこの理念はDPLAの事業によって徐々に実現され,DPLAは拡大を続けてきた。現在,米国の41の州にDPLAの連携機関が存在している。

 以下に,戦略計画2019-2022の内容を紹介する。

 DPLAの現行事業は,文化遺産集積ネットワークと電子書籍サービスという二つの柱からなっている。DPLAに協力している多様な連携機関による,あらゆる人が平等に情報にアクセスできるようにしたいというニーズによって,これらの事業は生まれてきた。

 文化遺産集積ネットワークは,多様な連携機関が構築しているデジタルコレクションを集積して,誰もが利用できるようにした事業である。前述のように非常に大規模な検索対象を持ちながらも,DPLAはさらに連携機関を拡大することに意欲的である。その目標として,米国中の全ての文化施設が,とりわけ歴史的に周縁化されてきたような文化に光を当てる地域共同体ベースの取り組みに役立つようになることを掲げている。

 電子書籍サービスは,文化遺産集積ネットワークを補完する形で,図書館におけるデジタルコンテンツへのアクセスを向上させている。米国中の図書館がより多くの電子コンテンツを収集・提供できること,より多様な電子コンテンツが簡単に利用できるようになること,図書館に電子コンテンツが必要であると認められるようになることを目標としている。

 この二つの事業が今まで成功してきたことで,将来にわたって成長していくための基盤ができた。また次のフェーズとして,まだまだ増え続ける電子コンテンツへのアクセスを拡大することを計画している。

 そして,DPLAは米国中の連携機関と協力しながら,新しい技術やアイデアを用いてより情報にアクセスしやすくなるような戦略を立て,以下の三点を実現しようとしている。

  • 多種多様な情報源から一元的に検索,発見できるようにすること。
  • 図書館が利用者に電子書籍,電子コンテンツを提供しやすいような基盤を作ること。
    現在提供中の基盤の例:無料電子書籍コレクション“Open Bookshelf”
  • 図書館に役立つ新技術を発展させるため図書館界の各層を巻き込んでいくこと。
    公表済みの新技術の例:オープンソースハーベスタ“Spark OAI Harvester”

 これらを実現して,あらゆる人が平等に情報にアクセスでき,学び,育ちながら多様で円滑な社会に貢献できるようにするため,以下の三つの信念に基づいて活動していくとしている。

  • 積極的協働:協力したほうがより良い結果が残せるという信念の下,共通の課題に取り組むよう分野横断的にあらゆる階層の人々を協力させ,イノベーションへ導く。
  • 平等と包摂:より平等な社会を実現するために,多様で包摂的なコレクションを集積して,歴史的に周縁化され,過小評価されてきた組織や共同体の地位が向上するよう協力する。
  • テクノロジーの持つ可能性への期待:テクノロジーこそが,情報を広め創造性を実現すると信じている。テクノロジーがより大きな善のために生み出され,広まり利用されていくことを保証するように,図書館や文化施設が積極的に技術発展に参加していくことができるし,しなければならない。

 DPLAは連携機関の共通課題を解決するために,分野横断的に人々を集め,旗振り役として積極的な役割を果たし,技術の進歩を活用してきた。今後はこうした事業を長期的で持続可能なものにするために活動していくことを宣言している。そのために,小規模ながらも迅速に動ける非営利組織として,連携機関を代表し,注意深い計算の上で新技術を実験して新しいアイデアを試していくとしている。これにより,このデジタル時代において図書館や文化施設が生き残るだけではなく更に発展することを目的としている。

 計画では,米国の民主主義が混乱している現状だからこそ,図書館などの文化施設が,誰もがアクセスできて信頼できる情報源として重要になっていると結んでいる。DPLAは,情報を広め創造性を実現することにデジタル技術が役立っているような未来を構想している。

Ref:
https://pro.dp.la/about-dpla-pro/strategic-plan
https://dp.la/news/dpla-launches-open-bookshelf-a-collection-of-free-ebooks
https://dp.la/news/dpla-launches-open-source-spark-oai-harvester/
E1646
E1429
CA1857