E2635 – 読書のまち・愛荘町でMLAの未来を考える<報告>

カレントアウェアネス-E

No.465 2023.10.05

 

 E2635

読書のまち・愛荘町でMLAの未来を考える<報告>

愛荘町立秦荘図書館・愛知川図書館・三浦寛二(みうらかんじ)

 

  2023年7月31日、愛荘町立愛知川図書館(滋賀県)でイベント「読書のまち・愛荘町でMLAの未来を考える 新たなデジタルの時代と図書館」を開催した。本稿では開催に至る経緯とその内容、今後の課題について報告する。

●愛荘町の概要とイベント開催まで

  滋賀県の湖東地域に位置する愛荘町は、人口およそ2万1,000人の町である。本に触れる機会を増やし、まちじゅうで読書を楽しむことを目的として、2009年には町議会が「愛荘町まちじゅう読書の宣言」を議決した。町内には秦荘図書館、愛知川図書館の2館があり、近年では町立図書館で採用した学校司書を学校図書館に配置するなど、子ども読書活動の推進に取り組んでいる。

  当館はかねてより地域資料の収集にも力を入れており、古写真や自治会の広報誌、町内企業の製品などを幅広く収集し、古写真の一部は「あいしょうデジタルライブラリー」(E2486E2474参照)としてウェブサイト上で公開している。このように、地域資料の整理方法の一つとして資料のデジタル化に着目しているが、当館が取り扱う資料は依然、多くが紙媒体資料である。一方で、近年の図書館を巡る動向に目を向けると、NDLによる個人向けデジタル化資料送信サービス(E2529参照)が展開され、さらには生成AIが急速に発展しているところである。そうした状況を踏まえ、図書館のほか博物館や文書館を含めたMLAの今後の姿を利用者とともに考える場として本イベントを企画した。

●当日の様子

  第1部では慶應義塾大学准教授・福島幸宏氏から生成AIの現状とMLAにとっての電子資料の重要性について、また国立国会図書館(NDL)関西館電子図書館課・岡本常将氏からNDLの電子図書館サービスについての講義があった。また、第2部ではウィキペディアタウンを開催し、図書館資料を用いて愛荘町に関するウィキペディアの項目を修正することで、インターネット上の情報を取り扱うことを体験した。

  イベントには図書館、博物館職員のほか、当館利用者の参加があり、両氏の講演後、会場の参加者を交えたフリートークの時間を設けた。そこでは、「公立図書館は人手も機器類も余裕がない中、デジタル化は難しい。NDLに頼るべきか、自館でデジタル化するなら何から始めればよいか。」という質問に対して、岡本氏が「地域資料でNDLが所蔵している資料は限られる。スキャナやデジタルカメラなど、各館が持っている機器でできることからデジタル化を進め、さらにウェブサイトで公開すると、資料へのアクセスの幅が広がる。」と回答した。また「公立図書館の職員にとっては紙媒体資料が中心で、電子媒体の資料は扱いあぐねている。」という意見に対して、福島氏が「まずは電子媒体の資料も公立図書館で取り扱う資料の一つであると認識することが必要。また、利用者にとってウェブサイトによるオープンアクセスが実現すれば利便性が高まる。古写真などで、著作権の問題のない資料であれば、ウェブサイトでの公開を検討することも必要。生成AIは繰り返し使うことで回答がこなれていく。図書館職員も電子媒体の資料に慣れることが必要ではないか。」と回答した。

●今後の展望・課題

  本イベント終了後、当館の若手職員から「電子媒体の資料の扱いを考えるきっかけとなった。」との声が挙がった。また、当館では現時点では民間ベースによる商用の電子図書館の導入は時期尚早と判断しているものの、自治体の統計類など電子媒体でのみ出版される資料が徐々に増加しており、電子媒体資料への対応は不可欠である。愛荘町でも、2022年度に教育委員会が小学生対象の地域読本を作成し、電子媒体でのみ発行した。しかし、制作を委託した企業との契約上、利用対象が町内の小学生と教員に限定され、愛荘町の地域資料であるにも関わらず町立図書館の利用者が利用できない事例があった。電子媒体の灰色文献資料とも呼べるこれらの資料の把握や、利用者への提供について、今後は検討しなければならない。そのほか、資料へのアクセスの幅を広げるためには、古写真のウェブサイト上での公開はジャパンサーチとの連携を模索する必要があることが課題として認識できた。

  資料と利用者を結ぶのが図書館の役割であり、その資料には電子媒体のものも含まれることから、地方の公立図書館職員にも今後デジタルの知識は必須である。参加者からは「対面による開催で講師や参加者のつながりを得られたことがよかった。」との感想があった。電子媒体の資料を利用者に提供する利便性と、地域の図書館として資料と利用者をつなぐ、あるいは人と人をつなぐ役割をどのように両立させていくのかも、公立図書館の課題の一つである。愛荘町の図書館では、地域資料を積極的に収集するとともに、地域資料のデジタル化を通じて利便性を高め、また町民にも電子資料の利活用の方法を伝えていくことで、地域の図書館としての役割を果たしたい。

Ref:
読書のまち・愛荘町で MLA の未来を考える 新たなデジタルの時代と図書館.
https://www.town.aisho.shiga.jp/material/files/group/39/2023wiki.pdf
“愛荘町まちじゅう読書の宣言”. 愛荘町.
https://www.town.aisho.shiga.jp/section/reiki_honbun/r304RG00000825.html
“愛荘町は子どもの読書を応援しています!”. 愛荘町立愛知川図書館・愛知川びんてまりの館・秦荘図書館. 2023-08-24.
https://www.town.aisho.shiga.jp/toshokan/goannai/10704.html
愛荘町立愛知川図書館. 地域資料の網羅的収集と展示、収集資料集の発行、古文書教室の開催.
https://www.mext.go.jp/content/000011124_098.pdf
“あいしょうデジタルライブラリー”. 愛荘町立愛知川図書館・愛知川びんてまりの館・秦荘図書館.
https://www.town.aisho.shiga.jp/toshokan/library/index.html
“博物館法の一部を改正する法律(令和4年法律第24号)について”. 文化庁.
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bijutsukan_hakubutsukan/shinko/kankei_horei/93697301.html
“個人向けデジタル化資料送信サービス”. NDL.
https://www.ndl.go.jp/jp/use/digital_transmission/individuals_index.html
福島幸宏. 地域の資料・情報センターとしての図書館へ. 住民と自治. 2020, 2020(12).
https://www.jichiken.jp/article/0197/
大森穂乃香. デジタル化及びデジタルアーカイブ構築の現状と未来<報告>. カレントアウェアネス-E. 2022, (433), E2486.
https://current.ndl.go.jp/e2486
山岡孝行. 第30回京都図書館大会<報告>. カレントアウェアネス-E. 2022, (430), E2474.
https://current.ndl.go.jp/e2474
木村祐佳. 個人向けデジタル化資料送信サービスの開始. カレントアウェアネス-E. 2022, (441), E2529. https://current.ndl.go.jp/e2529