E2486 – デジタル化及びデジタルアーカイブ構築の現状と未来<報告>

カレントアウェアネス-E

No.433 2022.04.21

 

 E2486

デジタル化及びデジタルアーカイブ構築の現状と未来<報告>

関西館電子図書館課・大森穂乃香(おおもりほのか)

 

  2022年2月9日,国立国会図書館(NDL)は,フォーラム「デジタル化及びデジタルアーカイブ構築の現状と未来」をオンラインで開催した。2021年は「デジタルコレクション活用フォーラム」(E2402参照)として国立国会図書館デジタルコレクション(以下「デジコレ」)の活用に特化したイベントを開催したが,近年,図書館をはじめとする各機関で所蔵資料のデジタル化やデジタルアーカイブ構築の気運が高まっていることを受け,2022年はデジコレに限らない様々なデジタルアーカイブを取り扱い,デジタル化についての考えを深めるという,より広いテーマの下でフォーラムを開催することとなった。参加する各機関の今後の取組の参考となることを企図し,図書館,文書館,美術館から招いた講師による事例報告ののち,意見交換を行った。参加者は国内各地の公共図書館,大学図書館等から約280人にのぼり,所属機関で資料のデジタル化に取り組んでいる,もしくはこれから取り組む予定の参加者が多いようだった。

  まず,福井県文書館の長野栄俊氏からは,福井県文書館及び福井県立図書館の所蔵資料を中心に公開している共同検索データベース「デジタルアーカイブ福井」の紹介や,文化庁長官裁定制度を利用して明治期の地方新聞をウェブ公開した事例(E2277参照)の報告があった。資料の利活用促進の一環としてオープンデータ化に取り組んでいることや,職員による資料の撮影方法,文化庁長官裁定制度を利用した際の手順やコストなどについて詳細に説明がなされた。

  次に,東京国立近代美術館の長名大地氏から,同館の刊行物を公開している「東京国立近代美術館リポジトリ」の概要や,ガラス乾板をはじめとする所蔵資料のデジタル化の取組等について報告があった。ガラス乾板やフィルムには展覧会などの記録が残されているが,美術史の形成に関わり,研究資源としての活用が見込まれるこれらの資料を利用可能なものとして将来に残していくことが,美術館がデジタル化に取り組む意義ではないかと指摘した。

  続いて,滋賀県愛荘町立愛知川図書館の三浦寛二氏は,小規模図書館のデジタル化事業として「あいしょうデジタルライブラリー」(E2474参照)を紹介した。愛荘町立図書館で収集に力を入れている地域資料としての写真について,職員の手でデジタル化と登録を行い,既存の町のウェブサイト上で公開することで,ほとんど予算をかけずにデジタル化を実現した事例の報告があった。さらに三浦氏からは,地域資料の収集保存は地域の公共図書館で行う一方で,それらを電子化したデータを集中的に管理する機関を別に設ける必要があるのではないかとの提言もあった。

  その後,NDLからデジタル化事業の実施状況報告と他機関によるデジタル化資料のデジコレなどでの公開事例の紹介を行った。質疑応答では,職員が資料を撮影する際の注意点やデータの保存方法など,資料のデジタル化に関する具体的な質問が多く寄せられた。

  最後の意見交換では,主に「デジタル化について」「デジタルアーカイブの構築について」「デジタルアーカイブと今後の図書館について」の3点について意見を交わした。「デジタル化について」では,長野氏から今後のデジタル化の予定について,広く一般の人からの利用が見込まれる写真や新聞にまずは力を入れたいという話があり,三浦氏は肖像権ガイドライン(E2411参照)を利用することで写真の公開がしやすくなったと経験を語った。「デジタルアーカイブの構築について」では,デジタル化の予算獲得のノウハウについて,長野氏と長名氏が予算の獲得自体は難しいが,いつ獲得できても良いように必要となるコストの試算など準備をしておくことが重要なのではないかと述べた。最後に「デジタルアーカイブと今後の図書館について」として,閲覧室をはじめとする空間としての図書館の今後の在り方について尋ねたところ,三浦氏からは地域住民の集まる「場としての図書館」の側面が強くなるという見解が示された。また,長名氏は,デジタル化は紙の資料を排除するものではなく,あくまで利用の選択肢を増やすもので,今後も紙の資料の保存・提供機関としての図書館の意義は失われないのではないかと述べた。一方,長野氏は,背表紙などデジタル化しきれない部分があるという点で原本の重要性は変わらないものの,モノとしての本よりも文書の内容を重視する文書館としてはデジタルアーカイブの比重が高くなるのではないかという意見を示した。

  終了後のアンケートからは,自館だけでは限界があることも各機関が協力連携することで可能性が広がると感じた,地域資料のデジタル化について進め方の参考になった,といった声が聞かれた。今回のフォーラムの事例報告や意見交換が,各機関での今後の取組の一助となれば幸いである。

  なお,フォーラム関連ページに当日資料を掲載しているので,詳細はそちらを参照願いたい。

Ref:
“フォーラム「デジタル化及びデジタルアーカイブ構築の現状と未来」”. NDL.
https://www.ndl.go.jp/jp/event/events/20220209digi_info.html
デジタルアーカイブ福井.
https://www.library-archives.pref.fukui.lg.jp/archive/
東京国立近代美術館リポジトリ.
https://momat.repo.nii.ac.jp/
あいしょうデジタルライブラリー.
https://www.town.aisho.shiga.jp/toshokan/library/index.html
“フォーラム「デジタル化及びデジタルアーカイブ構築の現状と未来」関連ページ”. 国立国会図書館デジタルコレクション.
https://dl.ndl.go.jp/ja/20220209_forum.html
大森穂乃香. NDL,「デジタルコレクション活用フォーラム」を開催<報告>. カレントアウェアネス-E. 2021, (416), E2402.
https://current.ndl.go.jp/e2402
長野栄俊, 田川雄一. 文化庁長官裁定制度による明治期地方紙のインターネット公開. カレントアウェアネス-E. 2020, (394), E2277.
https://current.ndl.go.jp/e2277
山岡孝行. 第30回京都図書館大会<報告>. カレントアウェアネス-E. 2022, (430), E2474.
https://current.ndl.go.jp/e2474
井庭朗子. 地元テレビ局と連携した阪神・淡路大震災関連映像の公開. カレントアウェアネス-E. 2021, (418), E2411.
https://current.ndl.go.jp/e2411