カレントアウェアネス-E
No.416 2021.07.08
E2402
NDL,「デジタルコレクション活用フォーラム」を開催<報告>
関西館電子図書館課・大森穂乃香(おおもりほのか)
2021年3月4日,国立国会図書館(NDL)は,「デジタルコレクション活用フォーラム」をオンラインで開催した。このフォーラムは,2019年開催の「デジタル化資料活用ワークショップ」(E2139参照)の後継イベントで,国立国会図書館デジタルコレクション(以下「デジコレ」)および図書館向けデジタル化資料送信サービス(以下「図書館送信」;CA1911参照)について理解を深め,活用方法のヒントを得てもらうことを企図して行われた。今回はオンライン開催ということもあり,国内のみならず海外からも参加の申し込みが寄せられ,公共図書館,大学図書館などから約260人が参加した。
図書館送信は,デジコレ収録資料のうち絶版などの理由で入手困難な資料(絶版等資料)約150万点を参加館で利用可能にするサービスで,2014年のサービス開始以来,その参加館数を着実に増やしている。2021年6月現在その参加館数は1,295館に上り,その中には2019年より申請受付を開始した海外の機関も含まれる。
図書館送信参加館の中には図書館送信の利用を積極的に促進している館もあり,レファレンスツールとして利用している京都市右京中央図書館(CA1912参照)や自館のOPACとデジコレを連携させている静岡大学附属図書館(CA1913参照)などがその一例として挙げられるだろう。他方,サービスに参加をしたものの利用が伸び悩む館やサービス提供を始めたばかりで活用方法がわからない館,そもそも参加を迷っているという館も少なくない。今回のフォーラムはそのような現況を踏まえて,開催したものである。以下では,その概要とフォーラムを通じて得られた知見を簡単に報告したい。
はじめに,NDLの担当職員がデジコレの概要と図書館送信について説明したあと,デジコレや図書館送信の活用の事例報告として福岡県立図書館の青木三保氏,愛媛県立医療技術大学図書館の泉浩氏,自主学習グループ「ししょまろはん」代表のきたむらきよこ氏の3人の発表があった。
まず青木氏は,地域資料研究の一助として,デジコレを活用している例を紹介した。福岡県立図書館では,デジコレに収録されている福岡県内で出版された図書をリスト化しており,本発表では実際の作業動画を交えて,そのリストの制作方法の解説がなされた。
続いて泉氏の発表では,大学OPACにデジコレの書誌データを取り込んでいる事例の紹介があった。これは先に挙げた静岡大学附属図書館に連なる活用事例である。これによって自館所蔵資料と同じようにデジコレの資料を検索することができ,利用者の利便性向上や図書館職員の負担軽減につながっているとのことだった。
最後に,きたむら氏から自身が代表を務める「ししょまろはん」が開催している,没年調査ソン(E1847,CA1939参照)について報告があった。没年調査ソンとは、没年不明の著作権者の没年を有志で調査するワークショップのことである。没年調査の参考資料としてデジコレに収録されている資料を利用する一方で,実際に没年が判明したことでその著作者の著作物がデジコレでインターネット公開されるようになった事例もあり,相互循環的な関係を築いている。発表では没年調査ソンは先人が遺した資料を広く共有することにつながる意義深いワークショップであり,誰でも始められるという魅力が伝えられた。
今回のフォーラムを通じて,デジコレの書誌データを用いた地域資料のリスト化やOPACとの連携,没年調査ソンなどさまざまな形でのデジコレの活用事例に触れることができた。図書館送信参加館においては自館での利用促進のヒントが得られ,未参加館においても活用の具体的なイメージが湧き,参加を検討する一助となったのではないかと思う。また,今回の事例報告は低コストで実行可能な活用事例が揃い,その点でも参加者には自館への導入を検討しやすかったのではないだろうか。
フォーラム終了後のアンケートからは,「自館の地域資料や地域における資料の全体像を把握するためにデジタルコレクションが利用できることが分かり有意義だった」「図書館送信の大学図書館での導入事例を知ることができ参考になった」「没年調査はレファレンスの練習問題として今後やってみようと思った」というように,今回紹介した事例を自館でも前向きに取り入れようとする意見が目立った。
デジコレに収録されている絶版等資料をめぐっては,個人への送信を可能にする改正著作権法が2021年5月26日に成立し,実施に向けた検討が進んでいる。しかし,個人への送信が始まったとしても,図書館で資料を探す利用者,デジコレになじみのない利用者,インターネット接続環境をもたない利用者に対して資料を提供する方法の一つとして,図書館送信は今後も存在価値があるものと考えられる。図書館職員を含めた利用者にとって利用しやすいデジコレ,図書館送信をより一層実現すると共に,その利活用の促進に努めていきたい。
なお,フォーラム関連ページに当日資料を掲載しているので,詳細はそちらをご覧いただきたい。
Ref:
“デジタルコレクション活用フォーラム(終了しました)”. NDL.
https://www.ndl.go.jp/jp/event/events/202010304digi_info.html
“デジタルコレクション活用フォーラム関連ページ”. NDL.
https://dl.ndl.go.jp/ja/20210304_forum.html
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https://warp.da.ndl.go.jp/collections/NDL_WA_po_print/info:ndljp/pid/11668867/www.ndl.go.jp/jp/preservation/digitization/NDL_WA_po_about_riyo.pdf
“図書館向けデジタル化資料送信サービス参加館一覧(2021年6月1日現在)”. NDL.
https://dl.ndl.go.jp/ja/soshin_librarylist.html
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https://dl.ndl.go.jp/html-resources/20210304_forum_ndldc.pdf
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https://dl.ndl.go.jp/html-resources/20210304_forum_report_fukuoka_pref.pdf
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https://dl.ndl.go.jp/html-resources/20210304_forum_report_epu.pdf
きたむらきよこ. ししょまろはん「没年調査ソン」の取り組み ―やってみた。やってみよう。― 2021.3.4 デジタルコレクション活用フォーラム. 2021, 40p.
https://dl.ndl.go.jp/html-resources/20210304_forum_report_libmaro.pdf
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