CA1912 – 図書館向けデジタル化資料送信サービスの利用状況 -京都市右京中央図書館の事例- / 谷内のり子

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カレントアウェアネス
No.334 2017年12月20日

 

CA1912

 

 

図書館向けデジタル化資料送信サービスの利用状況
-京都市右京中央図書館の事例-


京都市右京中央図書館:谷内のり子(たにうちのりこ)

 

はじめに

 本稿では、京都市右京中央図書館における国立国会図書館(NDL)の図書館向けデジタル化資料送信サービス(以下、図書館送信)の実施状況について述べる。

 京都市右京中央図書館は、京都市の西南部に位置し、2008年6月に右京区総合庁舎の3階に右京図書館を拡大移転して開館した。図書館の専有面積は、京都市図書館20館の中で最大となる約3,000平方メートルであり、一日の平均来館者数は約2,200人、貸出冊数は約4,500冊、一か月当たりの新規登録者数は約410人と、京都市図書館の中ではいずれも最多である(1)。利用者は、右京区民だけでなく広く京都市全域から来館し、また「学生の街」と呼ばれる京都らしく、市内の大学等に通学している学生の利用者も多い。

 現在、約28万冊の蔵書のうち、約4万2,000冊の郷土資料、約4万冊の参考資料を所蔵し、調査・研究のためのインターネット席17席、オンラインデータベース席4席、映像視聴ブース6席を設けている。当館は京都市図書館の中でも蔵書数が2番目に多く(2)、インターネットやデータベース等のデジタル情報にも対応するなど、他の京都市図書館に比べ、ハード面が充実している。また、当館の4つのコンセプト(3)の一つに、京都に関する資料を集中的に収集する「京都大百科事典的図書館」を掲げ、京都市図書館全20館のレファレンス統括機能も併せ持っている。

 

図書館送信の提供方法、利用状況について

 当館がNDLの図書館送信の提供を開始したのは、2014年2月のことである。複写サービスは2015年4月から開始した。当館では、図書館送信をオンラインデータベース席4席のうち、2席で提供している。

 利用受付はレファレンスデスクで行っており、受付状況を見ると、固定の利用層だけでなく、常に新たな利用者もいる。ニーズの高い資料は、公共図書館での所蔵が難しい専門書、専門雑誌、研究書、雑誌のバックナンバー、全国の地域史資料などである。また、レファレンス・インタビューの中で、学生の課題研究や個人的な調査・研究、グループ研究を目的に利用されていることがわかった。その多くの利用者は図書館送信が利用できることを知らずに来館しており、担当者がレファレンスの過程で図書館送信を紹介し、複写サービスについても案内している。その結果か、図書館送信の利用者の8割が閲覧だけでなく資料の複写も行っている(4)

 

閲覧数が多い要因

 当館では、利用者への図書館送信の周知を目的とした特徴的な取組みを行っているわけではないが、図書館送信の利用数が多いのは、以下の要因によると考える。

 第一に、当館の利用しやすい立地が挙げられる。当館は、京都市営地下鉄東西線と京福電鉄嵐山線の駅、及び路線バスのターミナルが隣接しているため、交通の便が良く、京都市内外からアクセスしやすい。また、図書館の明るい入口に加え、ワンフロアの見渡しやすい構造により、目的の場所に辿り着きやすく、リピーターとして頻繁に来る利用者が多い。

 第二に、「図書館利用ガイド」への掲載である。当館では、資料の探し方や使い方を紹介する「図書館利用ガイド」を定期的に発行しているが、昨年度は「使ってみよう!国立国会図書館デジタルコレクション」というテーマで作成した(5)。A4両面カラーで、利用方法などを簡潔にわかりやすくまとめており、多くの利用者に持ち帰ってもらった(6)
 

図 図書館利用ガイド

 

 また、図書館送信サービス開始後、当館が毎月発行する図書館だより『U.C.Lib通信』においても紹介し、2015年4月に複写サービスを追加した際にも再度取り上げた(7)。その他、京都市図書館のウェブサイトの「電子メディア」のコンテンツ(8)に、NDLの図書館送信の情報を掲載している。加えて、自宅等で国立国会図書館デジタルコレクション(以下、デジコレ)を閲覧した際に、当館が図書館送信に参加していることを知り、来館していると思われるケースもある。

 第三に、京都市図書館全館への周知である。当館は、京都市図書館唯一の、図書館送信参加館である。毎年実施している京都市図書館全館を対象としたレファレンス担当者研修会において、有用なレファレンスツールの一つとして、デジコレの使い方と実例に基づいた研修を行ってきた。また、前掲の当館作成の図書館利用ガイドを毎年レファレンス担当者に配布し、各館におけるレファレンスで活用できるよう情報提供している。これにより、京都市図書館全館において、当館で利用可能な図書館送信の利用・複写サービスの案内ができる体制にある。

 

レファレンスにおける活用について

 京都市において、最初に設置された図書館は、1981年に開館した京都市中央図書館であり(9)、政令指定都市の中でも図書館の歴史は浅い方である。そのため、開館以前に刊行された資料をほとんど所蔵しておらず、絶版になった資料も閲覧できる図書館送信に助けられる部分が大きい。

 デジコレの目次情報はインターネット公開もされており大変有用だが、レファレンスにおいて、やはり本文を閲覧できることで回答の幅が広がり、取り寄せ等の手続きが不要なため、早く回答できる。最近の例では、「京都府下の公共、大学図書館に未所蔵の、とある雑誌の中身をどの号でもいいから見てみたい。」という質問があった。デジコレの目次情報だけでは詳細がわからなかったが、図書館送信の収録資料より本文を閲覧してもらうことができた。

 また、当館所蔵資料を案内したものの、資料が複写に耐えられる状態でない場合、これまでは複写を謝絶していたが、今では図書館送信に同じものがあれば、そちらをプリントアウトすることで対応が可能となっている。

 さらに、京都市以外の地域からも寄せられる電子メールによるレファレンスにおいては、質問者の居住地の図書館が図書館送信参加館かつ、当館で紹介した資料が配信されていれば先方で入手できるため、必ず導入状況を確認し利用者に案内している。

 レファレンスにおける調査過程において、図書館送信は7割ほど参照しており、その内3割ほどでは回答として提示している。今や当館では、図書館送信は外すことのできないレファレンスツールの一つとなっている。

 

運用上の課題

 当館で図書館送信を利用可能な端末は2台であるが、図書館送信専用ではなく、オンラインデータベースと兼用のため、オンラインデータベースが利用中の場合、図書館送信を利用することができない。また、3人以上利用希望が重なる場合もまれにある。今後、利用が重なる場合、オンラインデータベース利用者には、他の専用端末に移動してもらうことや、一回あたりの利用時間(現在1時間まで)を短くすることも検討する必要がある。

 他にも、複写枚数が多い場合は、枚数の確認や著作権の範囲内であるかどうかの確認作業に時間を要する。特に利用者の多い土日は、レファレンス対応と資料の確認作業との両立に苦慮しているところである。

 

おわりに

 前述のとおり、当館は京都市図書館のレファレンスの統括機能を担っている。カウンター以外でも、京都に関する質問の電子メールや京都市の他の19館から寄せられるレファレンスの回答、支援も行っており、利用件数も年々増加している。

 また、最近は利用者から寄せられる質問が複雑、かつ回答に求められるレベルが高くなっていることも実感するところである。
 今後、レファレンスの量及び求められる質も高くなると考えられるが、引き続き図書館送信を積極的に活用し、利用者の要望に最大限に応えるレファレンスサービスを心がけたい。
 

(1)“平成29年度京都市図書館統計概要”. 京都市図書館.
http://www2.kyotocitylib.jp/?action=common_download_main&upload_id=15065, (参照 2017-10-20).

(2) “平成29年度京都市図書館統計概要”. 京都市図書館.
http://www2.kyotocitylib.jp/?action=common_download_main&upload_id=15065, (参照 2017-10-20).

(3)京都市右京中央図書館の4つのコンセプトは、以下の通りである。

  • 京都大百科事典的図書館づくり~「京都大百科事典ゾーン」の開設~
  • 充実したIT環境づくり~「電子メディアゾーン」の開設~
  • 生涯学習の拠点づくり
  • 地域の活動拠点づくり
“整備のコンセプト”. 京都市図書館.
http://www.kyotocitylib.jp/uchukaikan/seibic.html, (参照 2017-10-20).

(4)2017年度の8月末時点で、複写受付件数は80件、複写枚数は、3,474枚である。

(5)“図書館利用ガイド”. 京都市図書館.
http://www2.kyotocitylib.jp/?page_id=336, (参照2017-10-20).

(6)2017年8月末時点での配布枚数は、約300枚である。

(7)“U.C.Lib通信バックナンバー”. 京都市図書館.
http://www2.kyotocitylib.jp/?page_id=519, (参照2017-10-20).

(8)“ 国立国会図書館デジタル化資料送信サービスの利用案内”. 京都市図書館.
http://www2.kyotocitylib.jp/?page_id=18#degitaru1, (参照 2017-10-20).

(9)“京都市図書館のあゆみ(年表)”. 京都市図書館.
http://www2.kyotocitylib.jp/?action=common_download_main&upload_id=11110, (参照2017-10-20).
 

[受理:2017-11-06]

 


谷内のり子. 図書館向けデジタル化資料送信サービスの利用状況-京都市右京中央図書館の事例-. カレントアウェアネス. 2017, (334), CA1912, p. 14-16.
http://current.ndl.go.jp/ca1912
DOI:
https://doi.org/10.11501/11007717

Taniuchi Noriko.
Utilization Situation of National Diet Library Digital Collections Only Partner Libraries - The Case of Utilization in Ukyo Central Library -.