CA1939 – 公共図書館の地域資料を活用した没年調査ソンのすすめ~福井県での事例から~ / 鷲山香織

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カレントアウェアネス
No.338 2018年12月20日

 

CA1939

 

 

公共図書館の地域資料を活用した没年調査ソンのすすめ
~福井県での事例から~

福井県立図書館:鷲山香織(わしやまかおり)

 

1. はじめに

 「没年調査ソン」は図書館資料等を使って著作者の没年をひたすら調べるイベントである(1)。2016 年、京都府で初めて開催され(E1847参照)、回を重ねている。福井県では京都府での取り組みを参考に、福井県立図書館(以下「当館」)を会場にして、2018年5月に初めて開催した。本稿では、没年調査ソンの概要と、福井県での成果を紹介することで、地域資料活用の裾野を広げたい多くの公共図書館に没年調査ソンの実施を勧めたい。
 

2. 没年調査ソンとは

 「没年調査ソン」は、著作者の没年調査とマラソンを掛け合わせた造語で、短時間で集中し、みんなで図書館資料等を用いて、著作者の没年を調べるワークショップである。2016年9月、京都府立図書館の自主学習グループ「ししょまろはん」(2)が企画し初めて開催され、その後、表のとおり開催されている。

 

表 没年調査ソンの開催一覧

開催日 イベント名 会場 没年判明数
2016年9月3日 没年調査ソンin京都 vol.1 京都府立図書館 16人
2017年9月23日 没年調査ソンin京都 vol.2 京都府立図書館 31人*
2018年5月26日 没年調査ソンin福井 福井県立図書館 32人
2018年9月22日 没年調査ソンin京都 vol.3 京都府立図書館

*後日1人追加。
出典:「 ししょまろはんラボ」ウェブサイト,「没年調査ソンin 福井(福井ウィキペディアタウンin足羽山前夜祭)」のFacebookページ

 

 さて、国立国会図書館は資料のデジタル化を進めているが、そのうち、著作権の保護期間が満了しているもの、または文化庁長官の裁定(E1785CA1873参照)を受けたもの、著作権者の許諾を得たもの等、著作権処理の済んだ資料は、「国立国会図書館デジタルコレクション」(3)で本文の画像がインターネット公開されている。インターネット公開されていないものは、国立国会図書館の図書館向けデジタル化資料送信サービスの参加館内(CA1911参照)、または、国立国会図書館館内でのみ閲覧することができるが、この中には、著作者の没年が判明し著作権保護期間の満了が確認できれば、インターネット公開できるものが含まれている。国立国会図書館は、文化庁長官裁定を受けてインターネット公開を行っている資料について、著作権保護期間満了による公開や、著作権者の許諾による公開とできるよう、著作者/著作権者に関する公開調査を実施しており、公開調査対象の著作者は約4万9,000件(4)である。また、現在インターネット公開となっていない資料を公開するためにも担当係で著作者の没年調査を行っているとのことだが、とても調査しきれる分量ではないとのことである。一方、地域資料は国立国会図書館に所蔵がないものを、地域の図書館で所蔵していることも多い。そこで、地域にゆかりのある著作権者の没年調査に地域の図書館が協力することを、「ししょまろはん」は呼びかけている(5)
 

3. 没年調査ソンin福井

 没年調査ソン in 福井は、当館・福井県文書館(以下「文書館」)・福井県ふるさと文学館主催の「福井ウィキペディアタウン in 足羽山」の前夜祭として、福井県庁職員の自主勉強会「チーム福井ウィキペディアタウン」の主催で開催した(6)。ウィキペディアタウン(CA1847参照)は、まち歩きをし、その際見たものを図書館等の資料で調べ、インターネット上のフリー百科事典Wikipediaに記事を作成するワークショップである。当館では、2017年11月に初めて開催し(7)、 2回目の開催であった。ウィキペディアタウンは調べることを通じて、参加者に図書館の機能を知ってもらう目的がある。図書館資料を紐解き、わかる楽しさ、知る喜びを体験することは、さらなる利用へとつながる。没年調査ソンにも、ウィキペディアタウンと同様に調べる楽しみを知るイベントになることを期待した。

 没年調査ソン in 福井は、翌日の福井ウィキペディアタウンの参加者を中心に図書館司書、学校司書、文書館職員、Wikipedia編集者など11人が参加した(8)。事前に国立国会図書館関西館電子図書館課著作権処理係(以下「著作権処理係」)から、調査対象として、福井県にゆかりのありそうな以下の2種類の著作者リストの提供を受けた。

  • 国立国会図書館の著作者情報公開調査ページから、肩書に「福井」または著作者の出版地に「福井」が入っている著者を抽出したリスト(以下「リスト1」。244人掲載。)
  • 国立国会図書館典拠データ検索・提供サービス(Web NDL Authorities:Web NDLA;E1198参照)(9)から、肩書に「福井」が入っている著者を抽出したリスト(以下「リスト2」。481人掲載。)

 2種類のリストを見ると、前者は、国立国会図書館が文化庁長官裁定を受けるための要件である名簿等での調査や外部機関への問い合わせ等を行っても没年が判明しなかった著作者であることもあり、初めて目にする人物ばかりで高い調査力が要ることがみてとれた。後者は基本的にまだ生没年調査を行っていない著作者であり、地元の筆者らから見ると簡単に没年が判明しそうな人物が散見され、難易度は低いと感じた。

 当日は、まず、「没年調査ソン in 京都 Vol.2」で著作権処理係の佐藤久美子氏が講師を務めたレクチャーのスライド「国立国会図書館の没年調査について」を用いて没年調査の方法や意義について学んだ。その後、当館の郷土資料コーナー、一般的な人名事典、当館ウェブサイトに公開されている人物文献索引「ふくいの人物について調べる」(10)等を使いながら各々の方法で没年調査を進めた。会場にはホワイトボードを用意し、没年が判明したら、ホワイトボードに書き出し、後で確認できるように根拠資料のコピーをとった。調査は2時間30分ほど行い、その後各々の調べ方と成果について共有する時間を持った。
 

図1 調査の様子

 

図2 没年が判明した著作者を書き出したホワイトボード

 

4. 没年の調べ方の共有から得られた知見

 調べ方は大きく分けると次の2通りであった。

  • 特定の人物を選び人名事典、書籍、インターネット等にて調査する方式(レファレンス方式)
  • 特定の人名事典、書籍等に掲載されている人物が調査対象リストに載っているかを調査する方式(照合方式)

 前者の方式は、リストから、各自の興味関心に基づき人物を選んで調査を進める。ある文書館職員は、リストにあった「石黒湖東」を元県知事・石黒務の雅号と推察し調査をはじめ、人名事典の記述により同定した。調査には、このほか、国立国会図書館デジタルコレクション、Googleブックス(11)、福井県文書館・図書館・ふるさと文学館デジタルアーカイブ(12)を検索し、調査の糸口を見つける参加者もあった。新聞記事データベース(以下「新聞記事DB」)や国立国会図書館のリサーチ・ナビに掲載の「目次データベース」(13)も有用である。当館では新聞記事DBは「日経テレコン」に限られるが、他の全国紙、地元紙等の新聞記事DBがあればもっと判明したはずだ。

 後者の方式は、郷土資料コーナーにある人名事典や人物が多数掲載された書籍から特定の1冊を用いて、その 1 冊の人名を、リスト2の人名と照合していく。ある参加者は、『福井県人物・人材情報リスト』(14)に掲載された人名を片っ端から黙々とリスト2と照合させ、多数の人物の没年を判明させた。なお、この方式では、リスト2に照合させる方法のほか、直接 Web NDLAにて、検索する方法をとった参加者もあった。リスト2は、Web NDLAから肩書に「福井」が含まれる著者を抽出したものであり、「福井」が含まれない著者は抽出されていない。データは書籍の奥付等を典拠としており、書籍には「福井」の記載はなくとも福井ゆかりの著作者もおり、Web NDLAを直接検索することで、より幅広い人物を対象に調べることができる。

 後者の方式は、地域資料になじみのない参加者であっても、没年をきっかけに、地域資料を読んでいき、いわばゲーム感覚で没年を見つける楽しさを体験できる。前者の方式で特定の人物を追求する場合、判明したときの喜びは大きいが、行き詰まる参加者も見受けられた。見つけることは純粋に楽しく、もっと見つけたいという気持ちが働く。特に調べることに不慣れな参加者には、後者の方式を体験できるよう主催者は準備したい。

 

5. 没年調査ソン in 福井の成果

 調査の結果、32人の没年が判明した。国立国会図書館による確認作業を経て、著作者情報公開調査のデータや典拠データに反映された。早いものでは即日反映されたものもあった。国立国会図書館デジタルコレクションでは、合計9点が保護期間満了として、パブリックドメイン(PD)に切り替えられ、その後追加調査したものも含め、Web NDLAへ37件が登録された。自分たちの調査の結果が国立国会図書館のデータに反映され、PDになるという目に見える成果が、参加者の喜びとなり、没年調査ソンが社会貢献につながる手応えを感じた。

 

6. おわりに

 公共図書館は、地域に関する資料を収集、保存、提供している。国立国会図書館、大学図書館、公共図書館など、図書館にはそれぞれの機能や役割があるが、公共図書館それぞれの館の特徴となる資料群は、地域資料である。図書館法第3条1項においても、公共図書館における地域資料(郷土資料)について、十分留意して収集し、一般公衆の利用に供すべき資料として挙げられている。地域資料は、地元の公共図書館こそが多く所蔵しており、インターネットにはない情報も数多い。一部の研究者や郷土史愛好家にはよく使われている地域資料を、もっと広く住民にアピールすることは公共図書館の日々の課題である。

 没年調査ソンは、公共図書館が収集している地域資料のアピールや、地域資料活用を体験する手段として、有効である。「ししょまろはん」は、一見地味な没年調査を、ネーミングもあいまって、参加型で楽しく魅力あるイベントに引き上げた。さらには、著作権の保護期間を確認するために没年調査を行うという側面から、著作権の周知にも使える。没年が判明することにより著作権の保護期間満了が確認されれば、インターネット公開になりオープンデータも増えるなど、一粒で幾度もおいしい企画である。本稿がより多くの公共図書館で没年調査ソンが広まる一助となれば幸いである。


(1)是住久美子. 没年調査ソン in 京都 Vol.1開催報告. ACADEMIC RESOURCE GUIDE. 2016, (611).
http://www.arg.ne.jp/node/8592, (参照 2018-08-30).

(2)ししょまろはんラボ.
http://libmaro.kyoto.jp/, (参照 2018-08-30).

(3)国立国会図書館. “国立国会図書館デジタルコレクション”.
http://dl.ndl.go.jp/, (参照 2018-08-30).

(4)国立国会図書館. “著作者情報公開調査”. 国立国会図書館デジタルコレクション.
https://openinq.dl.ndl.go.jp/search, (参照 2018-08-30).
著作者情報公開調査の検索ページにおいて、何も入力せずに検索すると全件検索することができる。全件検索すると検索結果は4万9,430件(2018年8月30日現在)。

(5)是住久美子. 没年調査ソン in 京都 Vol.1開催報告. ACADEMIC RESOURCE GUIDE. 2016, (611).
http://www.arg.ne.jp/node/8592, (参照 2018-08-30).
ししょまろはん. “Lodチャレンジ2017アイデア部門応募作品 没年調査ソン”. SlideShare.
https://www.slideshare.net/kumikokorezumi/lod2017, (参照 2018-08-31).

(6)没年調査ソンin福井(福井ウィキペディアタウンin足羽山前夜祭).
https://www.facebook.com/events/388166654926400/, (参照 2018-10-01).

(7)鷲山香織. “福井ウィキペディアタウンを開催して”.
ACADEMIC RESOURCE GUIDE. 2017, (673).
http://www.arg.ne.jp/node/9178, (参照 2018-10-15).

(8)参加者のブログ記事に以下のものがある。
Asturio Cantabrio. “ 「没年調査ソンin福井」に参加する”. 振り返ればロバがいる. 2018-06-01.
http://ayc.hatenablog.com/entry/2018/06/01/170250, (参照 2018-09-10).

(9)国立国会図書館. “国立国会図書館典拠データ検索・提供サービス(Web NDL Authorities)”.
https://id.ndl.go.jp/auth/ndla, (参照 2018-09-10).

(10)福井県立図書館. “ふくいの人物について調べる”. 福井県立図書館. https://www.library.pref.fukui.jp/winj/reference/search.do, (参照 2018-09-03).
URLは、2019年4月に変更予定。

(11)Google. “Googleブックス”.
https://books.google.co.jp/, (参照 2018-09-10).

(12)“福井県文書館・図書館・ふるさと文学館デジタルアーカイブ”. 福井県文書館. http://www.archives.pref.fukui.jp/archive/search_keyword.do, (参照 2018-09-10).
URLは、2019年4月に変更予定。
文書館にある歴史的公文書、古文書等や当館保管の松平文庫等の目録を検索し、画像データがあれば、目録の検索結果からリンクして閲覧することができる。

(13)国立国会図書館. “目次データベース”. リサーチ・ナビ.
https://rnavi.ndl.go.jp/mokuji/, (参照 2018-09-10).

(14)日外アソシエーツ編. 福井県人物・人材情報リスト2017. 日外アソシエーツ, 2016, 478p.

[受理:2018-10-31]

 


鷲山香織. 公共図書館の地域資料を活用した没年調査ソンのすすめ~福井県での事例から~. カレントアウェアネス. 2018, (338), CA1939, p. 2-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1939
DOI:
https://doi.org/10.11501/11203355

Washiyama Kaori
“Botsunen Chosa-thon” (Public Event to Discover the Death Years of Local Writers Using Local Collections at Public Libraries)− How We Did This at Fukui Prefectural Library