CA1847 – ライブラリアンによるWikipedia Townへの支援 / 是住久美子

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カレントアウェアネス
No.324 2015年6月20日

 

CA1847

 

 

ライブラリアンによるWikipedia Townへの支援

京都府立図書館:是住久美子(これずみ くみこ)

 

1.はじめに

 インターネット上の百科事典Wikipediaは、誰もが編集できるという特徴を持ち、内容の合法性・正確性・安全性等、あらゆる点において保証しない(1)と明記されていて、利用については自己責任で行う必要がある。しかし、その内容量や情報の早さから多くの人に利用されており、またGoogleのナレッジグラフにも使用される(2)など、検索結果の目につきやすい所に表示されることも多い。インターネットによる情報検索を行う際、意識せずともWikipediaの情報が日常的に目に入ってくる状況である。

 本稿では、住民が地域の情報をWikipediaの記事として編集したり、Wikipediaの姉妹プロジェクトで誰でも自由に利用できる画像等の情報を包括し提供しているWikimedia Commonsに画像をアップロードするイベントであるWikipedia Townへのライブラリアンの支援について、筆者の行っている活動を元に紹介したい。

 

2.Wikipedia Town

 Wikipedia Townは、2012年に英国のウェールズにあるモンマスという町で初めて実施された(3)。町の名所等にQRコードを印刷した陶板を設置し、町全体にWi-Fiを張り巡らせて、スマートフォンなどから現在地と関連したWikipediaの記事へのアクセスを可能にしたもので、ボランティアらによって500件以上のWikipediaの記事が編集されている。

 日本における取り組みでは、2013年2月のインターナショナルオープンデータデイに合わせて横浜市で開催されたのが最初(4)であり、その後、京都市、伊那市(長野県)でも開催されるなど、各地域への広がりを見せている。

 

表  図書館を会場として開催された Wikipedia Town の開催一覧

開催日開催都市イベント名会場
2013年2月23日横浜市横浜をWikipediaタウンにしよう!街歩き横浜市中央図書館
2013年5月25日横浜市横浜をWikipediaタウンにしよう!街歩き横浜市中央図書館
2014年5月11日山中湖村(山梨県)山中湖Wikipedia Town & マッピングパーティ
(トライアル)
山中湖情報創造館
2014年8月30日京都市京都オープンデータソン2014 vol. 2京都府立図書館
2014年10月5日京都市京都オープンデータソン2014 vol. 3京都府立図書館
2014年12月7日京都市京都オープンデータソン2014 vol. 4京都府立図書館
2015年1月17日森町(北海道)第1回ウィキペディアタウンもりまち森町図書館
2015年1月24日伊那市(長野県)Wikipedia TOWN × 高遠ぶらり in INA Valley高遠町図書館
2015年3月15日伊那市(長野県)第2回 Wikipedia TOWN in INA Valley高遠町図書館

Wikipedia「プロジェクト:アウトリーチ/ウィキペディアタウン/アーカイブ」より作成
http://ja.wikipedia.org/wiki/プロジェクト:アウトリーチ/ウィキペディアタウン/アーカイブ(参照 2015-04-26)

 

 Wikipediaに掲載されている記事や、Wikimedia Commonsにアップロードされた画像は、クリエイティブ・コモンズライセンスの「表示-継承(CC BY-SA)」で利用可能(5)であり、クレジットの表示と、改変した場合は同じライセンスで提供するという二つの条件を守れば自由に利用できる。Wikipediaの記事やWikimedia Commonsの画像もオープンデータの一つということで、オープンデータ関連のイベントとしてWikipedia Townが開催されることも多い。

 

3.オープンデータ京都実践会

 2013年に京都市で開催されたオープンデータに関する勉強会をきっかけとして、2014年2月のインターナショナルオープンデータデイを京都市で開催することを目的に、オープンデータ京都実践会というグループが結成された。勉強会に参加していた筆者はこのグループにも加わり、勤務する京都府立図書館の職員で構成された自己学習グループである「ししょまろはん(6)」メンバーと共に、インターナショナルオープンデータデイ京都に参加することになった。イベントの内容は、ボランティアガイドによる町の紹介を含む「まち歩き」を行い、会場に戻ってからWikipediaやOpenStreetMap(7)、ちずぶらり(8)の編集を行うもので、筆者達はこのイベントの中で、図書館司書として地域情報の調べ方のレクチャーや、Wikipedia編集に役立つ図書館資料の提供を行った。また、Wikipediaのベテラン編集者であるウィキペディアンに教わりながらWikipediaの記事の編集も行っている。

 OpenStreetMapは、2004年に英国で発足した、自由に利用できる地図を誰でも編集できる共同プロジェクトで、クレジットの表示を行えば、印刷したり、地図画像を再利用することもできる。イベントでは、フィールドペーパー(紙に出力した対象エリアの地図情報)を持ち、まち歩きをしながら、地物(道路や建物など)を書き込み、会場でパソコンを用いて地図の編集を行うマッピングパーティを行った。

 ちずぶらりはATR Creativeが提供している地図アプリで、古地図などの地図データをスマートフォンやタブレットに表示させ、GPS機能を用いた現在地やスポット情報を見ながらまち歩きを楽しむことができるものである。イベントでは、京都市明細図(9)が登録されたアプリを使ってまち歩きを行い、ガイドから得た情報等を会場に戻ってからパソコンを用いてちずぶらりに登録した。

 この取り組みが好評であったため、2014年度は京都府立図書館のある京都市岡崎地域を中心にまち歩きを行い、そこで得た情報を図書館の文献を元に編集するWikipedia TownとOpenStreetMapマッピングパーティーを組み合わせたイベント、「京都まち歩きオープンデータソン」を計4回実施した。うち3回は京都府立図書館を会場とし、資料提供の他、図書館の使い方等のレクチャーを行った。なお、会場として京都府立図書館を利用しているが、当イベントはオープンデータ京都実践会が主催するものであり、ししょまろはんメンバーも業務外の自己学習活動の一環として参加した。

 

4.ライブラリアンによる支援

 Wikipediaの編集については、基本原則である「五本の柱(10)」において、中立的な観点に基づいて編集すること、独自研究を認めないこと、そして第三者による検証を可能とするために出典を明記することが求められている。これらの原則を満たす記事を編集する上で、資料やレファレンスサービス等を提供している図書館を活用することは有効な手段である。図書館には豊富な資料があり、特に公共図書館では地域資料を重点的に収集しているので、地域の情報を調べるためにはうってつけである。また、専門職員によるレファレンスサービスでは、文献紹介や事実調査を受けることができる。そして、それらのサービスをすぐに受けられる図書館内に、記事を編集することができるスペース(机、電源、Wi-Fi等)があれば、Wikipediaの編集には最適な環境であると言える。

 ライブラリアンがWikipedia Townに積極的に支援を行う場合、まち歩きを行うならばどの地域を歩くか、その地域にはどんなスポットがあり、それがWikipediaの独立記事作成の目安(特筆性)(11)に合致しているかを事前に調査した上で記事編集の候補をある程度絞り、それに合わせた資料を準備しておくと効率が良い。資料提供は、図書館で日常行っている範囲で充分であるが、中立性や特筆性を証明するために、記事作成の対象となっている施設等が自ら発行している資料だけにならないよう、第三者により編集された資料も用意する必要がある。

 京都府立図書館を会場とした「京都まち歩きオープンデータソン」では、このイベントに参加するために初めて京都府立図書館を訪れる人が多く、図書館の使い方や資料の探し方に慣れた参加者は少なかった。このため、事前に関連資料を会場内に用意し、編集したいテーマに合致した資料を参加者へ渡し、レファレンスにも対応した。図書館以外の施設が会場の場合は、運び込める資料点数に限りがあるが、図書館の所蔵資料を持ち込んで参加者に利用してもらうことになる。イベントでは、地域情報の調べ方や図書館の使い方などのレクチャーを可能な限り行い、参加者がWikipediaを編集する際に役立つ資料を自ら探し出せるリテラシーを身につけてもらうのが理想である。また、資料を参考に記事編集を行うが、コピーアンドペーストは禁止であり、剽窃とならないよう、著作権に関する注意事項を編集の前に参加者に対して充分に説明しておく必要がある。

 

5.他地域への広がりと新しい取り組み

 2015年に入ると、オープンデータ京都実践会のメンバーが他地域で開催される同様のイベントへ補助に行ったり、京都市のイベントへの参加者がそれぞれの地元で同様のイベントを実施したりするなど、活動が周辺地域へも広がってきた。2015年3月に京都府相楽郡精華町で開催された「精華町ウィキペディア・タウン」では、精華町立図書館の職員が地域情報の調べ方のレクチャーや郷土資料の提供を行い、筆者が京都府立図書館の紹介を、精華町にある国立国会図書館関西館の職員が国立国会図書館の紹介を行った。精華町ウィキペディア・タウンでは、「ふるさと案内人」として町の名所をめぐるツアーを開催しているシルバー人材センターの方々にまち歩きのガイド役をしてもらった。また、「ふるさと案内人」の方が普段案内している地域の情報について、町立図書館の郷土資料を元にWikipediaの編集も行った。60歳以上の参加者が多かったが、パソコンを使った写真のアップロードや、記事の編集も問題なく行うことができた。

 オープンデータ京都実践会は、2015年度も2か月に1回程度のペースで「京都まち歩きオープンデータソン」を開催する予定である。4月19日にはPARASOPHIA(京都国際現代芸術祭)をテーマとして、メイン会場である京都市美術館で展示作品を見学した後に、向かいにある京都府立図書館で図書館の文献を元にPARASOPHIAに関する記事を編集する「Wikipedia ARTS京都・PARASOPHIA」が実施され、 PARASOPHIAに出展している現代芸術家6名の新規記事の追加と1名の加筆を行った(12)

 

6.さいごに

 図書館は、資料の貸出やレファレンスサービス等を通じて、利用者へ資料を提供するところまでをサービスとすることが多く、その後資料がどのように役立ったのかをライブラリアンが知る機会は少ない。Wikipedia Townを支援する過程では、図書館が収集している地域資料が住民に活用され、誰もが利用できるオープンデータの形式で新たな地域の文化資源や観光資源として創造、発信されるところまでを見届けることができ、図書館にとっては日々の仕事の積み重ねの成果を実感することができ有益であった。また、これまで普段図書館をあまり利用してこなかったような人々も含め、様々なバックグラウンドを持つ人達が互いの知識を交換し合い、新たな価値を創造していく活動の場としての図書館の有効性についても確認できたといえよう。

 

(1) “Wikipedia:免責事項”. Wikipedia.
http://ja.wikipedia.org/wiki/Wikipedia:免責事項, (参照 2015-04-08).

(2) “Googleが過去最大級のアップデートを発表―セマンティック検索実現へ大きく一歩踏み出す”. TechCrunch Japan. 2012-05-17.
http://jp.techcrunch.com/2012/05/17/20120516google-just-got-a-whole-lot-smarter-launches-its-knowledge-graph/, (参照 2015-04-24).

(3) “Welcome to the world’s first Wikipedia Town”. Wikimedia blog. 2012-05-16.
http://blog.wikimedia.org/2012/05/16/monmouthpedia_day/, (参照 2015-04-24).

(4) “プロジェクト:アウトリーチ/ウィキペディアタウン/アーカイブ”. Wikipedia.
http://ja.wikipedia.org/wiki/プロジェクト:アウトリーチ/ウィキペディアタウン/アーカイブ, (参照 2015-04-08).

(5) “Wikipedia:ライセンス更新”. Wikipedia.
http://ja.wikipedia.org/wiki/Wikipedia:ライセンス更新, (参照 2015-04-08).

(6) ししょまろはんラボ.
http://libmaro.kyoto.jp, (参照 2015-04-08).

(7) OpenStreetMap Japan.
https://openstreetmap.jp, (参照 2015-04-08).

(8) “街歩きを楽しむなら「ちずぶらり」シリーズ”. ATR Creative.
http://atr-c.jp/burari/, (参照 2015-04-08).

(9) 昭和初期に大日本総合火災保険協会が作成した京都市明細図に戦後訂正・加筆等を行った図面
“京の記憶ライブラリ(京都府立総合資料館)”.
http://kyoto-shiryokan.jp/kyoto-memory/ (参照2015-04-08).

(10) “Wikipedia:五本の柱”. Wikipedia.
http://ja.wikipedia.org/wiki/Wikipedia:五本の柱, (参照 2015-04-08).

(11) “Wikipedia:独立記事作成の目安”. Wikipedia.
http://ja.wikipedia.org/wiki/Wikipedia:独立記事作成の目安, (参照 2015-04-08).

(12) “Wikipedia ARTS 京都・PARASOPHIAを開催しました”. オープンデータ京都実践会.
https://opendatakyoto.wordpress.com/2015/04/20/wikipedia-arts-parasophia/, (参照 2015-04-24).

 

[受理:2015-04-28]

 


是住久美子. ライブラリアンによるWikipedia Townへの支援. カレントアウェアネス. 2015, (324), CA1847, p. 2-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1847
DOI:
http://doi.org/10.11501/9396322

Korezumi Kumiko.
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