CA1927 – 中国における公共図書館法の制定 / 山本彩佳

PDFファイル

カレントアウェアネス
No.336 2018年6月20日

 

CA1927

 

 

中国における公共図書館法の制定

関西館アジア情報課:山本彩佳(やまもと あやか)

 

1. はじめに

 2017年11月4日、中華人民共和国公共図書館法(1)(以下「公共図書館法」)が制定され、2018年1月1日より施行された。中国政府は現在、国民の精神的・文化的な生活を豊かにすること等を目的として、図書館、博物館といった公共文化施設の整備など、公共文化サービスの拡充を進めている。また、法によって国を治める「依法治国」(2)の政策方針に基づき、各種法律の整備を進めている。しかし、現在有効な263の法律のうち、文化関連法の割合はわずか2.66%であり(2017年12月27日現在)、文化関連立法の遅れが指摘されている(3)。そのような状況下で、2016年12月、公共文化サービスの整備に関する基本法である公共文化サービス保障法が制定された(4)。公共図書館法は、それに続く公共文化サービス関連の法律であり、中国で初めての図書館に関する専門法である。本稿ではまず、中国における公共図書館の発展状況と公共図書館法制定の経緯について述べ、次に、公共図書館法の主な内容を紹介する。

 

2. 中国における公共図書館の発展状況

 1978年の改革開放政策の開始以来、中国では公共図書館の整備が積極的に進められている。公共図書館の施設数は、1978年の1,218館から、2016年には3,153館にまで増加した(5)。中国の公共図書館の施設数、職員数及び蔵書数の推移は、次の表のとおりである。

 

表 中国の公共図書館の施設数、職員数、蔵書数

施設数 職員数 蔵書数(万冊)
1980 1,732 19,904
1985 2,344 29,350 25,573
1990 2,527 40,247 29,064
1995 2,615 45,323 32,850
2000 2,675 51,342 40,953
2005 2,762 50,423 48,056
2010 2,884 53,564 61,726
2015 3,139 56,422 83,844

出典:中国图书馆学会, 国家图书馆. “按年份全国公共图书馆主要业务活动情况”. 中国图书馆年鉴2016. 國家圖書館出版社, 2017, p. 420. を基に筆者作成。

 

 このように、中国の公共図書館の規模は拡大を続けているが、一方で、地域間格差の存在が問題となっている。12%の県級(6)行政区において公共図書館が設置されておらず、特に農村地区や中西部地区は空白地帯となっている(7)

 

3. 公共図書館法制定の経緯

 中国における公共図書館法制定の動きは、1990年の文化部による「公共図書館条例」の起草まで遡ることができる。その後、政府機構の改革等が原因でしばらく中断したが、2001年から2004年にかけて「図書館法」の制定が試みられるなど、図書館関連立法の取組は続いていた(CA1670参照)(8)。そして、2008年11月、文化部が北京で会議を招集し、今回制定された公共図書館法の立法作業が始まった。文化部は2011年に公共図書館法起草のための専門家チームを組織し、立法のための研究を中国国家図書館(NLC)の研究院に委託した。2012年1月に審議稿が、2015年12月に意見募集稿が公表され、2017年4月、草案が第12期全国人民代表大会(全人代)常務委員会(9)に提出された。法案の審議は同年6月及び11月の2度にわたって行われ、同年11月4日、全人代常務委員会第30回会議において、公共図書館法が可決、成立となった(10)

 

4. 公共図書館法の主な内容

 公共図書館法は、第1章:総則(第1条~第12条)、第2章:設置(第13条~第22条)、第3章:運営(第23条~第32条)、第4 章:サービス(第33条~第48条)、第5 章:法的責任(第49条~第54条)、第6章:附則(第55条)の全6章55か条からなる。以下に主な内容を紹介する。

 

4.1. 公共図書館の定義及びサービス内容

 当該法が指す「公共図書館」について、第2条で「本法がいうところの公共図書館とは、公衆に無料で開放され、文献情報を収集、整理、保存するとともに、検索、貸出・閲覧及び関連するサービスを提供し、社会教育活動を実施する公共文化施設を指す(第1項)。前項が規定する文献情報は、図書及び定期刊行物、視聴覚資料、マイクロ資料、電子リソース等を含む(第2項)」と定義している。

 また、公共図書館が公衆に無償で提供するサービスの範囲を定めており、第33条で「(1) 文献情報の検索、貸出・閲覧、 (2) 閲覧室、自習室等の公共スペース、施設、場所の開放、 (3) 公益的講座、読書の普及促進、研修、展示、(4) 国が規定するその他の無償サービス」を提供しなければならないと規定している。さらに、開館日に関する規定も設け、第38条第2項で「公共図書館は公休日に開館しなければならず、国の法定祝日に開館時間を設けなければならない」と定めている。無償サービスの全面的な提供と休日の利用に関する問題の解決により、公衆の図書館に対する満足度を高めることができるとされている(11)

 

4.2. 公共図書館整備に対する政府責任の強化

 第4条で「県級以上の人民政府は、公共図書館事業を当該級の国民経済及び社会発展計画に盛り込み、公共図書館の建設を都市計画及び土地利用総合計画に盛り込んで、政府が設置した公共図書館に対する資金投入を増やし、必要経費を当該級の政府予算に計上して、適時かつ十分に支給しなければならない」と定めている。図書館の設置、発展計画の作成、経費の保障等、公共図書館の整備に対する政府の責任を全面的に規定することで、公共図書館事業の安定と継続的発展に関わる核心的な問題の解決を図るねらいがあるとされている(12)

 

4.3. デジタル時代への対応

 情報通信技術等の発展を受けて、第8条で「国は、公共図書館の建設、管理及びサービスにおいて科学技術が効果を発揮することを奨励、支援し、現代の情報技術及び通信技術の利用を推進して、公共図書館のサービス機能を向上させる」と定めている。特に、デジタル化の進展への対応については、第40条第1項で、国が取り組むべき事項について、「国は、基準が統一され、相互に接続された公共図書館の電子サービスネットワークを構築し、電子閲覧に係る製品の開発及び電子リソース保存技術の研究を支援して、公共図書館がデジタル化、ネットワーク化技術を利用して公衆に簡便なサービスを提供することを推進する」と規定している。また、同条第2項では、公共図書館が取り組むべき事項について、「政府が設置した公共図書館は、電子リソースの構築及び対応する施設・設備の配備を強化し、オンラインとオフラインが相互に結合した文献情報共有プラットフォームを構築して、公衆に良質なサービスを提供しなければならない」と規定している。

 

4.4. 中国国家図書館(NLC)の役割

 公共図書館法は、NLCが果たすべき役割について、第22条で「国は国家図書館を設置し、(国家図書館は)主に国の文献情報の戦略的保存、国の書誌及び総合目録の作成、国の立法及び政策決定に資するサービス、全国の古典籍保護の企画調整、図書館の発展に関する研究及び国際交流の実施、他の図書館への業務指導及び技術支援の提供等の機能を受け持つ。国家図書館は同時に、本法が規定する公共図書館の機能を有する」と規定している。NLCが公共図書館の機能を兼ねることを明確にするとともに、NLCと一般の公共図書館の区別を明確にして、NLCに2つの性質を持たせていることに、中国の特色が現れているとされている(13)

 

4.5. 納本制度の整備

 第26条で「出版者は、国の関係規定に基づき、国家図書館及び所在地の省級公共図書館に正式な出版物を納入しなければならない」と規定している。また、第51条では、「出版者が国の関係規定に基づき正式な出版物を納入していない場合は、出版行政主管部門が、出版管理に関係する法律及び行政法規の規定により処罰を与える」と規定している。中国の既存法規では、出版管理条例(14)の第22条で「出版者は、国の関係規定に基づき、国家図書館、中国版本図書館及び国務院の出版行政主管部門に無償で見本を送付しなければならない」と定められている(CA1786参照)。出版管理条例の上位法である公共図書館法では、出版物の納入先に所在地の省級公共図書館が加わり、納入対象も「見本」ではなく「正式な出版物」となった。しかし、「正式な出版物」の定義が明確ではなく、また、英国、ドイツ、フランス、日本等の納本制度と比べると、納本の類型、方法、手続、基準、受入義務等に関する詳細な規定がないといった問題点が指摘されている(15)

 

4.6. 児童及び情報弱者等への対応

 第34条で、児童、高齢者、障害者といった特定の利用者層への対応について規定している。まず、同条第1項で、児童・青少年への対応について、「政府が設置した公共図書館は、児童・青少年の閲覧スペースを設置し、児童・青少年の特性に応じて相応の専門性を有する人員を配置して、児童・青少年向けの読書指導及び社会教育活動を実施するとともに、学校が関連する課外活動を実施することを支援しなければならない。条件の整った地区においては、単独で児童青少年図書館を設置することができる」と定めている。次に、同条第2項では、高齢者、障害者といった情報弱者とされる人々への対応について、「政府が設置した公共図書館は、高齢者、障害者等の集団の特性を考慮し、積極的に環境を創出して、その需要に合った文献情報、バリアフリー施設・設備及びサービス等を提供しなければならない」と定めている。情報弱者に対する専門的なサービスの提供について明確な規定を設けていることは、中国以外の図書館法では大変珍しく、「以人為本(人間本位)」(16)の立法理念を体現した、中国の特色ある内容であるとされている(17)

 

5. おわりに

 公共図書館法の施行により、公共図書館ネットワークの整備による地域間格差の解消や、国家的な読書推進の取組である「全民閲読」(18)活動の進展が期待されている(19)。しかし、公共図書館法は、中国の公共図書館に関わる重要な問題のすべてについて明確な規定を設けているわけではなく、今後、国務院、文化部及び地方政府が、関連する条例、規則、実施細則等を制定して法体系を構築していく必要があるとされている(20)。今後の関連法規制定の動き、そして中国の公共図書館発展に向けた新たな取組に注目していきたい。

 

(1)“中华人民共和国公共图书馆法”. 中国人大网.
http://www.npc.gov.cn/npc/xinwen/2017-11/04/content_2031427.htm, (参照 2018-04-02).
同法に関しては、以下も参照のこと。
岡村志嘉子. 中国 公共図書館法の制定. 外国の立法. 2018, No.274-1, p. 24-25.
https://doi.org/10.11501/11019012, (参照 2018-04-02).

(2)2014年10月23日、中国共産党第18期中央委員会第4回全体会議(4中全会)で「依法治国の全面的推進における若干の重大問題に関する決定」が採択された。
“中共中央关于全面推进依法治国若干重大问题的决定”. 人民网.
http://politics.people.com.cn/n/2014/1028/c1001-25925989.html, (参照 2018-04-02).

(3)朱宁宁. “推动公共图书馆法落地 助力全民阅读书香社会”. 法制网. 2018-1-23.
http://www.legaldaily.com.cn/index/content/2018-01/23/content_7454822.htm?node=20908, (参照 2018-04-13).

(4)2017年3月1日施行。詳しくは以下を参照。
岡村志嘉子. 中国の公共文化サービス保障法. 外国の立法. 2017, No.272, p. 157-171.
https://doi.org/10.11501/10362195, (参照 2018-04-02).

(5)中华人民共和国国家统计局. “23-21 主要文化机构情况”. 中国统计年鉴2017.
http://www.stats.gov.cn/tjsj/ndsj/2017/indexch.htm, (参照 2018-04-13).

(6)中国の地方行政区画は、省級、地区級、県級、郷級の4階層から成り、級ごとに地方政府が存在する。

(7)胡娟. 中国文化立法的一座丰碑——柯平教授谈《中华人民共和国公共图书馆法》. 图书馆工作与研究. 2018, 2018(1), p. 5-11.

(8)汪东波. 公共图书馆概论. 國家圖書館出版社, 2012, p. 43-44.

(9)中国の最高国家権力機関及び立法機関である全人代の常設機関。全人代の閉会中に立法権を行使する。

(10)申晓娟. 历史性突破:《中华人民共和国公共图书馆法》研究专栏序. 图书馆建设. 2018, 2018(1), p. 5-6.

(11)胡. 前掲.

(12)吴刚. 我国图书馆法制化建设的突破与未来路径——《中华人民共和国公共图书馆法》颁布之际的思考. 图书馆建设. 2018, 2018(1), p. 30-36.

(13)胡. 前掲.

(14)“出版管理条例(2016年修正本)”. 国家广播电视总局.
http://www.gapp.gov.cn/sapprft/govpublic/6681/356061.shtml, (参照 2018-04-02).

(15)汪东波, 张若冰.《公共图书馆法》与国家图书馆. 國家圖書館学刊. 2017, 114, p. 50-55.

(16)胡錦濤中国共産党中央委員会総書記(当時)が唱えた、全面的で調和のとれた持続可能な発展を目指す指導理念である「科学的発展観」の中心となる考え。

(17)吴. 前掲.

(18)2006年4月に中国共産党中央宣伝部、新聞出版総署(現国家新聞出版広電総局)等11の団体によって開始され、2016年3月には「国民経済及び社会発展第13次5か年計画綱要」の中で国家8大文化重点事業の1つとされた。
“全民阅读十年大事记 (2006-2016)”. 光明网. 2016-12-28.
http://epaper.gmw.cn/gmrb/html/2016-12/28/nw.D110000gmrb_20161228_4-08.htm, (参照 2018-04-13).

(19)胡. 前掲.

(20)吴. 前掲.

[受理:2018-04-20]

 


山本彩佳. 中国における公共図書館法の制定. カレントアウェアネス. 2018, (336), CA1927, p. 12-14.
http://current.ndl.go.jp/ca1927

DOI:
https://doi.org/10.11501/11115316

Yamamoto Ayaka
Enactment of the Public Library Law in China