CA1928 – 学校と公立図書館の連携による学校図書館の活性化 / 山崎博樹

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カレントアウェアネス
No.336 2018年6月20日

 

CA1928

 

 

学校と公立図書館の連携による学校図書館の活性化

図書館サービス向上委員会:山崎博樹(やまざき ひろき)

 

1. はじめに

 近年、関係者の努力によって学校図書館の役割と必要性が認められつつあり、それは2014年の学校図書館法改正での学校司書明文化(E1597参照)に繋がってきた。しかし、学校図書館の資料や人的基盤は厳しいものがあり、教育関係者を含む一般社会の理解も未だ不十分なものと言える(CA1902参照)。その状況の中で公立図書館が学校図書館と連携し、図書館の利用者を共に育てていこうとする取り組みが全国で見られるようになってきた。筆者は図書館サービス向上委員会(1)において、2016年度より、学校図書館と公立図書館の連携を中心とした様々な情報を全国に発信する「元気な学校図書館プロジェクト」(2)を推進している。このプロジェクトでは、全国様々な地方公共団体の公立図書館と学校図書館との連携状況を訪問取材し、ウェブサイト「りぶしる」(3)により全国に発信している。この小論ではこの取材から得た公立図書館と学校図書館との連携状況から、その課題と成果について紹介したい。

 

2. 地方公共団体規模別の事例から

 元気な学校図書館プロジェクトで紹介されている事例から地方公共団体の規模別に4例を取り上げる。

 

2.1. 鳥取県

 鳥取県では、2004年に策定された「鳥取県子どもの読書活動推進ビジョン」(4)から、現在の第3次計画(2014年から2018年まで)に至るまで、読書機会の提供や読書環境の整備、支える人材の育成を図り、読書推進の基盤の確立に努めている。

 加えて、児童生徒の主体的な学ぶ力を育成するため、2015年度に鳥取県立図書館内に「学校図書館支援センター」(5)を開設し、「とっとり学校図書館活用教育推進ビジョン」(6)を策定した。ビジョンでは、就学前から高等学校まで一貫した学校図書館活用教育の普及と、目指すべき児童生徒の情報活用能力が体系的に示されている。また、「学校図書館活用ハンドブック」(7)を作成し、司書と司書教諭による学校図書館運営の基本的な業務内容、学校図書館を活用した授業実践事例を紹介し、具体的な学校図書館活用の理解を広めている。

 「学校図書館支援センター」には、県立図書館の司書に加え高等学校課、小中学校課の指導主事も構成員として加わり、チームとして学校支援に関わっている。各種研修会の開催や講師派遣、高等学校や特別支援学校への学校訪問相談を行っている。また、資料予約後2日以内に届く県内の資料搬送システムにより、直接、または市町村立図書館を経由し学校へ資料提供を行っている。

 

2.2. 新潟市

 新潟市では1950年代前半から学校図書館に図書館職員を配置し始め、2017年度には全ての市立小中学校での学校司書配置を実現した(8)。現在は中央図書館、豊栄図書館、白根図書館、西川図書館の4か所に学校図書館支援センターを配置することで市立図書館と全ての市立学校との連携をカバーしている(9)。この学校図書館支援センターには、それぞれ運営協議会が設置され、校長、教員、学校司書、指導主事等で構成されている。事業計画は支援センター毎に独立して企画され、それぞれの地域にあった研修や活動を行っている。各センターによる学校訪問は通年で行っており、2016年度は延べ309回の訪問があった。市立図書館から様々な学校貸出セットを、市が送料を負担し宅配便により配送している。学校司書向けの研修には新任者対象と全学校司書対象の2コースがある。新任学校司書研修は、2016年度は6回実施、延べ60人の参加があった。全ての学校司書を対象とする学校司書実務研修は、2016年度は5回実施、延べ324人が参加した(10)

 支援センターのウェブサイトには学校図書館の活動が詳しく掲載され、4つの支援センター毎に活動方針や活動報告、各種の利用案内などが網羅されている(11)。ブックリストやパスファインダー等のお役立ち情報や学校図書館での工夫事例の紹介など、実践的な情報も多い。また、定期的に『支援センター通信』(12)が発行されている。

 

2.3. 塩尻市(長野県)

 長野県の塩尻市では2010年に市立図書館本館(えんぱーく)が新たにオープンする以前から、学校司書を全ての市立小中学校15校に配置していた。学校図書館の機能をさらに向上させるため、2013年度に学校司書の人事・予算を教育総務課から市立図書館に移管し(13)、職員の交流や情報共有などで学校司書や図書館職員のスキル向上に努めている。現在は、「塩尻市立図書館サービス計画」(14)及び「第2次塩尻市子ども読書活動推進計画」(15)に沿って学校連携を進めている。

 具体的には、小中学校教職員向けの図書館利用案内を作成して全教職員に配布し、授業にあわせた「調べ学習」に利用できる本の団体貸出(上限100冊、5週間)の依頼を受け付けている。学校司書が窓口となり、市立図書館の司書が市立図書館の蔵書から選本し貸し出している(16)。また、教職員にレファレンスサービスの利用を促し、児童生徒の市立図書館の見学や職場体験を積極的に受け入れている。

 年度当初に図書館長をはじめ担当職員が全校を訪問して、学校長や担当の先生と懇談し、学校連携の充実に向けた意見交換をしている。さらに年間を通して学校担当の市立図書館司書と読書推進アドバイザーが継続的に学校を訪問し、学校図書館資料の充実に向けて除架・除籍及び選書の相談に乗るとともに、おはなし会やブックトークを行うほか読書活動推進に向けたアドバイスなどを行っている。学校向けサービスの利用が徐々に増え、教職員の評価につながっている。

 2013年からは、学校図書館委員会の事務局を市立図書館に移管し、学校長、教頭の代表、学校司書、市の教育総務課、教育センター、市立図書館職員を委員とする学校図書館委員会の体制を整備し、年6回程度開催している。他に司書部会も並行して同じく年6回程度開催している。

 学校図書館委員会で学校図書館の運営課題の検討や協議、視察や講演会などの企画・実施を行い、司書部会では実務的課題の検討や協議を行っているため、コミュニケーションが図られ、職員のスキルアップや情報共有にも役立っている。また、市立図書館の重点事業である「信州しおじり本の寺子屋」(17)では、学校図書館職員向けの講座も開催し、塩尻市以外からの参加もあり、関係者の広い交流が図られている。

 

2.4. 智頭町(鳥取県)

 鳥取県の智頭町立智頭小学校では司書教諭の資格を持つ職員が2016年の取材時には6人おり、学校図書館の蔵書が充実している(18)。町教育委員会や県立図書館とのパイプは太く、資料の提供や専門的な相談がしやすい環境となっている。専任の学校司書が、学校図書館に必要な資料がない時には、すぐに町立図書館と相談し、町立図書館が県立図書館に依頼して翌日には本が届けられる状況にある。学校から見ると、「町立」や「県立」を意識することはなく、対等の立場で運用されており、それは学校長の「県立図書館も智頭小学校の学校図書館の一部と思っています。」(19)という言葉からも推察される。図書館の時間を活用して毎学期に1回、町立図書館司書と学校司書が連携したおはなし会やブックトークが行われており、本と繋がる機会のひとつとなっている。一方、智頭小学校は調べ学習に重点的に取り組んでいるため、多様な資料が求められており、2015年度には全児童に対して年間7,000冊を超える資料が町立図書館を通じて提供されている(20)

 

 以上、4つの地方公共団体の事例を見ると共通して、公立図書館による強力な資料提供の体制が前提としてある。また広域、小規模地方公共団体を問わず、行政、教育委員会、学校、図書館が十分に連携し、役割分担がなされている。さらに組織的な関係と個々の努力を前提とした人的なコミュニケーションが学校図書館と公立図書館との間で頻繁に行われていることも特筆すべき点である。

 

3. 連携の効果と課題

 取材の中で、学校図書館と公立図書館の連携にはいくつかの課題が見えてきた。

 一つ目は学校司書や連携する公立図書館の担当者の待遇である。大きな連携効果をあげている地域でも学校司書等の継続雇用及び待遇は不十分なことがある。待遇が不十分であれば、活動の継続性には結び付かず、経験が蓄積されていかない。一方で担当者を正規職員とすることによって、より効果を高めている事例も見られた。

 二つ目は連携に関する情報があまり顕在化していないことである。また、連携の状況は形にしにくく、学校は児童、生徒の個人情報を重視する組織であることの関係もあり、有効な知識や事例を全国的に十分に公開し共有することは困難を伴う。文部科学省の子どもの読書活動優秀実践校等の顕彰事業(21)に加え、地方公共団体自ら行うだけでなく、様々な関係団体と協力しながら、情報の発信に努めていくことが必要である。それは、学校、図書館、地方公共団体、住民の相互理解にも繋がっていくことになるだろう。

 学校図書館と公立図書館の連携による効果を事例から把握することは難しい面もあるが、総じて子どもの読書量の増加、それによる学力の向上、関係者の理解の向上が見られる。智頭町では小学校の卒業生たちが、町立図書館の新築を応援していると聞いた。学校図書館の活性化には課題が多くあり、その成果が顕在化するには時間がかかる面もあるが、教育という枠組みの中で大きな効果を上げていくことは十分に可能であると考える。

 

(1)“図書館サービス向上委員会について”. りぶしる.
https://libinfo.fjas.fujitsu.com/activities.html, (参照 2018-04-24).

(2)「元気な学校図書館プロジェクト」の活動は以下のページにて紹介されている。
“取り組み事例”. りぶしる.
https://libinfo.fjas.fujitsu.com/casestudy.html, (参照 2018-04-24).
“元気な学校図書館プロジェクト主意書”. 株式会社富士通システムズアプリケーション&サポート.
https://libinfo.fjas.fujitsu.com/libschool-vpr/pdf/school-force_idea.pdf, (参照 2018-04-24).

(3)りぶしる.
https://libinfo.fjas.fujitsu.com/, (参照 2018-04-24).

(4)“鳥取県子どもの読書活動推進ビジョン”. 鳥取県.
http://www.pref.tottori.lg.jp/53168.htm, (参照 2018-04-24).

(5)“学校図書館支援センター”. 鳥取県立図書館.
http://www.library.pref.tottori.jp/support-center/, (参照 2018-04-24).

(6)“とっとり学校図書館活用教育推進ビジョン”. 鳥取県教育委員会. 2016-03.
https://www.library.pref.tottori.jp/support-center/【HP全編】とっとり学校図書館活用推進ビジョン.pdf, (参照 2018-04-24).

(7)“学校図書館活用ハンドブック”. 鳥取県教育委員会. 2016-03.
http://www.library.pref.tottori.jp/info/HP図書館ハンドブック全編.pdf, (参照 2018-04-24).

(8)“新潟県 新潟市立中央図書館(ほんぽーと)―学校図書館支援センター―”. りぶしる.
https://libinfo.fjas.fujitsu.com/libschool-vpr/15_103_niigatashichuolib.html, (参照 2018-04-24).

(9)“平成28年度学校図書館支援センター事業報告”. 新潟市学校図書館支援センター. 2017-04.
http://opac.niigatacitylib.jp/gakkoushien/gakushi/gakushi_top/gakushi_report28.pdf, (参照 2018-04-24).

(10)“平成28年度学校図書館支援センター事業報告”. 新潟市学校図書館支援センター. 2017-04.
http://opac.niigatacitylib.jp/gakkoushien/gakushi/gakushi_top/gakushi_report28.pdf, (参照 2018-04-24).

(11)“こんにちは 新潟市学校図書館支援センターです!”. 新潟市の図書館.
http://opac.niigatacitylib.jp/gakkoushien/gakushi/gakushi_top/gakushi_top.html, (参照 2018-04-24).

(12)“新潟市学校図書館支援センター通信 合同版No.12”. 2018-03.
http://opac.niigatacitylib.jp/gakkoushien/gakushi/gakushi_chuo/tsushin/letter-goudou12.pdf, (参照 2018-04-24).

(13)“塩尻市立図書館サービス計画”. 塩尻市立図書館. 2014-03.
https://www.library-shiojiri.jp/fs/3/8/8/0/_/shiojiri_service_plan_2014-2017.pdf, (参照 2018-04-24).

(14)“塩尻市立図書館サービス計画”. 塩尻市立図書館. 2014-03.
https://www.library-shiojiri.jp/fs/3/8/8/0/_/shiojiri_service_plan_2014-2017.pdf, (参照 2018-04-24).

(15)“読書大好き塩尻っ子プランII 第2次塩尻市子ども読書活動推進計画”. 塩尻市立図書館. 2015-03.
https://www.library-shiojiri.jp/fs/3/9/9/3/_/kodomo_2.pdf, (参照 2018-04-24).

(16)“長野県 塩尻市立図書館 ―学校連携―”. りぶしる.
https://libinfo.fjas.fujitsu.com/libschool-vpr/20_215_shiojirilib.html, (参照 2018-04-24).

(17)“信州しおじり本の寺子屋”. 塩尻市立図書館.
https://www.library-shiojiri.jp/terakoya.html, (参照 2018-04-24).

(18)“鳥取県智頭町立智頭小学校”. りぶしる.
https://libinfo.fjas.fujitsu.com/libschool-vpr/post_28.html, (参照 2018-04-24).

(19)以下のページの「学校長インタビュー」を参照。
“鳥取県智頭町立智頭小学校”. りぶしる.
https://libinfo.fjas.fujitsu.com/libschool-vpr/post_28.html, (参照 2018-04-24).

(20)以下のページの「統計データ」を参照。
“鳥取県智頭町立智頭小学校”. りぶしる.
https://libinfo.fjas.fujitsu.com/libschool-vpr/post_28.html, (参照 2018-04-24).

(21)“全国の取り組み事例 事例発表”.子ども読書の情報館.
http://www.kodomodokusyo.go.jp/jirei/index.html, (参照 2018-04-24).

 

[受理:2018-05-21]
 


山崎博樹. 学校と公立図書館の連携による学校図書館の活性化. カレントアウェアネス. 2018, (336), CA1928, p. 15-17.
http://current.ndl.go.jp/ca1928

DOI:
https://doi.org/10.11501/11115317

Yamazaki Hiroki
Revitalization of School Libraries through Collaboration between Schools and Public Libraries