E2474 – 第30回京都図書館大会<報告>

カレントアウェアネス-E

No.430 2022.02.17

 

 E2474

第30回京都図書館大会<報告>

木津川市立中央図書館・山岡孝行(やまおかたかゆき)

 

  2021年11月29日,「アフターコロナと図書館のこれから」をテーマとし,ライブ配信で第30回京都図書館大会(E2237ほか参照)が開催され,著作権法の改正やデジタルアーカイブ(DA)を中心に,コロナ禍を経て変化していく図書館のあり方について,講演,事例発表等が行われた。

  まずはじめに,骨董通り法律事務所代表パートナー弁護士の福井健策氏より「著作権法の改正とコロナ後の図書館」と題して基調講演が行われた。同氏は,デジタルトランスフォーメーション(DX)が加速する中で,複数の著作者が存在する著作物の権利関係が大きな壁になることを述べ,身近な題材を例として,その権利処理を難しくしている要因等を示した。近年の著作物利用の円滑化のための著作権法改正として,軽微な写りこみに関する権利制限規定の適用範囲が拡充されたこと,研究開発・情報解析などのための複製その他の利用,美術館等で来館者向けの作品解説・紹介のためのタブレット等への送信等が可能になったことなどが紹介された。また,授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)へ支払われた補償金が権利者に分配されることにより,非営利の教育機関が授業で著作物を利用する場合は公衆送信ができるようになったと述べた。さらに,「所在検索サービス」に付随した公表著作物等の軽微利用(抜粋表示等)ができること,図書館等が所蔵資料で現在入手困難な資料についてデジタル化や媒体変換を行い,館内閲覧を提供できること,国立国会図書館による絶版等資料の図書館等への送信が可能となったことなど,現状について報告があった。むすびに,2021年に公布された改正著作権法(E2412参照)の内容のほか,権利情報データベースの整備,権利者の意思表示,一元的な窓口組織による権利者検索,研究目的など権利制限規定の拡充等,利用の円滑化に向け議論が進んでいて,今後1年から2年で大きな変更が期待されていると締めくくった。

  次に慶應義塾大学文学部准教授の福島幸宏氏より「デジタルアーカイブの作り方・使い方・持たせ方」と題して2つ目の基調講演が行われた。同氏が関わった「東寺百合文書WEB」(E1561参照)が紹介され,DAの定義を「社会が遺すことを選択した,選択すべき知識情報基盤としてのデジタルデータと,それにまつわる仕組みの総体」と示した。DA作成にあっては,「ジャパンサーチ」(E2176E2317参照)に対応できれば,今後もデータを管理しながら永続性を確保できるだろうと述べた。図書館にある地域資料をデジタル化することは,情報の利活用,ユニークな資料のバックアップに役立ち,活用事例を積み重ねていくことで資料価値を上げることになる。今後,地域情報の真の意味でのハブになるということが新しい図書館像になるのではないかと締めくくった。

  続いての事例発表では,まず愛荘町立愛知川図書館(滋賀県)の三浦寛二氏から「地域の写真を未来に残す 町立図書館ができること」と題し,業務上撮影したものや利用者から収集した懐かしい地域写真等を「あいしょうデジタルライブラリー」で公開した事例が紹介された。現状の地域図書館における紙資料の提供が,いずれデジタルコンテンツでの提供となった時も,地域の写真や郷土資料を中心に提供し,「地域のことは図書館へ」と思われる存在となる必要があり,資料を収集していく為には,地域と図書館との信頼関係の構築が必要と語られた。今後,予算・人員等の制限がある中,地域資料の収集,デジタル化・保存・提供をどうするのか,また,それらに関わる司書のデジタルスキルの向上の重要性が提示された。

  続いて京都大学附属図書館の大前梓氏からは,「アマビエから広がるデジタルアーカイブ」と題し,同大学が所蔵する多くの貴重資料,古典籍資料を,IIIF(CA1989参照)に対応した公開システムを使用しDAとして公開・利用されている事例が紹介された。今回,新型コロナウイルス感染症により有名になった「アマビエの図」は,「京都大学貴重資料デジタルアーカイブ」(E2004参照)で公開されており,所蔵館を表示して自由に二次利用出来るなどの条件を明示したため,研究者以外の人々にも気軽に広く使われ,DAに対する敷居が下がったと述べた。

  3つ目の事例発表では,長崎純心大学の山本みづほ氏が事例発表を行った。「変化する学校図書館のかたち」と題し,同氏が創作したキャラクター「蛾のおっさん」を通して見る学校図書館の現状を紹介しながら,地域によって学校図書館に大きな違いがあること,多忙な教員による学校図書館運営は難しく,学校司書が学校図書館に必要であること,現状を改善していくには,学校司書の安定した雇用,スキルアップのための研修が必要であることを述べた。

  コロナ禍により,本大会は2020年に引き続きオンライン開催となったが,図書館における著作権法の改正,DAの重要性など,今後の課題解決に向け理解を深めることができ,大変有意義な大会であった。

Ref:
“第30回京都図書館大会「アフターコロナと図書館のこれから」”. 京都府立図書館.
https://www.library.pref.kyoto.jp/contents/council/libconf/30/
SARTRAS.
https://sartras.or.jp/
東寺百合文書WEB.
http://hyakugo.pref.kyoto.lg.jp/
愛荘町.
https://www.town.aisho.shiga.jp/index.html
あいしょうデジタルライブラリー.
https://www.town.aisho.shiga.jp/toshokan/library/index.html
京都大学貴重資料デジタルアーカイブ.
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/
“@GanoOssan”. Facebook.
https://www.facebook.com/GanoOssan
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https://current.ndl.go.jp/e2237
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https://current.ndl.go.jp/e2061
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https://current.ndl.go.jp/e2412
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https://current.ndl.go.jp/e1561
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https://current.ndl.go.jp/e2176
電子情報部電子情報企画課次世代システム開発研究室. ジャパンサーチ正式版の機能紹介. カレントアウェアネス-E. 2020, (401), E2317.
https://current.ndl.go.jp/e2317
赤澤久弥,大村明美. 京都大学附属図書館における貴重資料画像の二次利用自由化. カレントアウェアネス-E. 2018, (343), E2004.
https://current.ndl.go.jp/e2004
永崎研宣. IIIFの概要と主要APIバージョン3.0の公開. カレントアウェアネス. 2020, (346), CA1989, p. 13-16.
https://doi.org/10.11501/11596735