カレントアウェアネス-E
No.387 2020.03.12
E2237
第28回京都図書館大会<報告>
京都府議会図書館・芦田栄(あしださかえ)
2019年12月2日,市民交流プラザふくちやま(京都府福知山市)で第28回京都図書館大会(E2061ほか参照)が開催された。本大会は館種を越えて図書館関係者の連携と理解を深め,研鑽を積むことを目的として1992年から開催されている。第28回大会では,全国で地震,台風,豪雨等,災害が続く中,有効な対応策を考えるため「災害等の諸課題に立ち向かう図書館」と題し,講演,事例発表等が行われた。
まずはじめに,福知山公立大学長,京都府立京都学・歴彩館顧問の井口和起氏より「災害と図書館」と題して基調講演が行われた。同氏は,福知山市立図書館大江分館の浸水被害,自身が携わってきた全国歴史資料保存利用機関連絡協議会の東日本大震災での文書・文化財レスキューでの事例を挙げられ,浸水被害にあった資料の救済手順やボランティアの被災地への到達経路・確保方法・作業などの全記録保存の重要性,地元ボランティアの被災資料に関する記憶が救済優先度の判断などに大いに有益であること,公的機関に目録のない郷土資料などの民間文書を守るための「資料の救助優先リスト」の作成,被災した市町村から煩雑な手続きが必要な正式ルートによる依頼がなくても被災館へ専門家を公費派遣できるしくみをつくる必要性などを強調された。また,京都府立京都学・歴彩館での東寺百合文書のデジタル化と「クリエイティブ・コモンズ 表示 2.1 日本ライセンス」による公開(E1561参照)を例に挙げ,資料のデジタル保存・公開は原資料・データが破損しても世界のどこかで誰かが保存していることもあり大変有益であること,さらに東寺収蔵資料の危機の歴史に触れながら,自然災害だけではなく戦乱や学校統廃合などの社会変動が資料の危機となることを述べられた。むすびに,災害や紛争などに向き合い地域で文化を受け継ぐ各国ミュージアムの活動が発表された国際博物館会議(ICOM)舞鶴ミーティング2018に自身が参加されたことから,図書館が災害を語り継ぎ,防災意識の向上をめざし,来館しない人も視野に入れた「出かけ働きかける図書館」を創り上げることが重要と締めくくられた。
次に,同志社大学客員教授の関根千佳氏から「図書館とユニバーサルデザイン-多様化するニーズにどう向き合うか-」と題して講演が行われた。株式会社ユーディット会長として情報のユニバーサルデザイン普及事業に携わる同氏は,米国のロサンゼルス中央図書館,CCRC(Continuing Care Retirement Community;高齢者が移り住み,健康時から介護・医療が必要となる時期まで継続的なケア等を受けながら生涯学習や社会活動等に参加するような共同体),リハビリテーション法,ICT支援機器,カリフォルニア州立大学ノースリッジ校(CSUN)の障害者とテクノロジー会議,資料テキスト化を行うNPOであるBookshareなどを例に挙げながら,米国ではさまざまな障害をもつ人が図書館で資料を閲覧するのは当たり前で,さらに企業や大学で開発や研究に携わったり,起業や出版をするなど社会で活躍したりしている様子を紹介され,日本のユニバーサルデザインの遅れを述べられた。日本は急速な高齢化で今後「軽度重複障害者」が増加する中,読書をしたいという「読書権」は誰も取り残さず守られるべきもので,2016年の障害者差別解消法の施行とも相まって,ユニバーサルデザインの考え方に基づき,誰もが図書館を利用できるよう,施設,資料,サービスなどの環境を整えることが必要である。そのためにも,準備段階から利用支援の場にいたるまで,使う立場で関わることができる障害者や高齢者を積極的にスタッフに加え,市民と共に取り組むべきと述べられ,改めて「図書館はみんなのもの」を強調された。
続いて,一般社団法人減災ラボ代表理事の鈴木光氏から,事例発表が行われた。危機管理の基本は,「正しく災害を知り正しく恐れる」ことであり,災害時の状況を動画等で再認識し,参加者全員で起こりうるリスクを想定し,議論を重ね,対応策を考え改善する,参加型防災・減災ワークショップ「my図書館DIG(Disaster Imagination Game)」(E1966参照)と震災シミュレーションを紹介された。被災状況,業務再開までの道のりは施設ごとに異なり,どんなに施設が強靭でも最後は人の備えと行動が減災につながると述べられた。
2つ目の事例発表では,あかし市民図書館(兵庫県)読書バリアフリー担当マネージャーの松見香織氏から,2017年1月にオープンした同館の,キャスター付きの椅子のあるユニバーサルコーナーや,点字図書などの資料,読書支援機器,宅配サービスなどのユニバーサルサービスが紹介された。今後さらに高齢者や障害者の方の利用促進を図るため,障害者支援団体との連携によるサービス体験行事など広報の継続が必要であることを述べられた。また,明石市の防災対策に視覚,聴覚,知的,精神障害者,肢体不自由者それぞれのサポート方法が示されており,平常時も,その方法で,声かけ,コミュニケーションボード,防音イヤーマフ,車椅子などを活用し,災害時への準備を整えていると発表された。
図書館が防災やユニバーサルデザインへの課題に取り組むための様々な事例や視点が紹介され,大変有意義な大会であった。
Ref:
https://www.library.pref.kyoto.jp/?page_id=19968
https://www.lics-saas.nexs-service.jp/city-fukuchiyama/
http://www.jsai.jp/
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I030003939-00
https://www.pref.kyoto.jp/rekisaikan/
http://www.udit.jp/
https://www.gensai-lab.com/
https://www.akashi-lib.jp/
E2061
E1561
E1966