E2473 – GLAMにおけるオープンソースソフトウェアに関する調査報告書

カレントアウェアネス-E

No.430 2022.02.17

 

 E2473

GLAMにおけるオープンソースソフトウェアに関する調査報告書

電子情報部システム基盤課・横山浩貴(よこやまひろき)

 

  米国の図書館等のネットワークLYRASISは,2021年8月,美術館・図書館・文書館・博物館(GLAM)におけるオープンソースソフトウェア(OSS)の利用に関する調査報告書を公開した。本稿では,本調査報告書の概要を紹介する。

●調査の目的

  OSSとは,ソースコードが無償で公開され,その改変や再配布が認められているソフトウェアのことであり,ソースコードへのアクセスや改変等を特定のベンダーが専有するプロプライエタリソフトウェアと対置されるものである。各機関がどちらを利用するかを決定する際には,当該機関の使命や,財政上,人員上の制約等も踏まえた慎重な検討が求められる。

  本調査は,このような背景の下で,GLAMにおけるOSS利用の実態を把握し,GLAMがOSSとどのように関わっていくべきかをよりよく理解することを目的として実施された。なお,本調査はFOLIO,ArchivesSpace,OmekaなどのGLAM向けに開発されたOSSを対象としており,UbuntuやApache Tomcatなどの一般的なソフトウェアは対象外である。

●調査方法

  調査は2021年3月1日から4月9日にかけて実施された。質問紙は,LYRASISの全メンバーと,LYRASISコミュニティ内の追加の対象グループに,メールで送付された。

  103件の回答があり,そのうち分析に使用されたのは92件である。回答者の所属機関としては学術図書館が多い。また,米国国内からの回答が大部分であった。

  質問紙は,OSSの利用状況についての導入質問,OSSへの財政的・人的投資,OSSへの投資の理由付け,OSSの評価,の4つの部分からなる。以下,各パートについて調査結果を概説する。

●OSSの利用状況についての導入質問

  OSSを利用している機関は73%に及ぶが,財政的投資をしているのは41%に過ぎない。

  OSSを利用していないと回答した者のうち,その半数以上は技術力不足を理由に挙げた。その他,「OSSの持続性やセキュリティに疑問がある」,「自分たちが必要とする機能を有していない」,「開発チームが(OSSよりも)独自開発を好んでいる」などの回答があった。

●OSSへの財政的・人的投資

  調査の結果,多数の機関はOSSに財政的投資を行っていないことが明らかになった。OSSへの投資額については,運営予算,資料収集予算から割り当てている機関が多い。こうしたOSS関係予算の決定権を握っているのは多くは図書館長等であるが,情報技術部門が意思決定をする例もある。

  人的投資の面では,OSSのために幾分かの労働時間を割り当てている機関とそうではない機関とが均衡する結果となったが,コーディングやソフトウェアテスト等の技術的業務にフルタイム換算(FTE)で1人以上の労働時間を割り当てている機関は13%に過ぎない。多くの機関はフィードバックやユーザーテストなどの非技術的業務により多くの時間を割り当てている。

●OSSへの投資の理由付け

  ここでは,各機関がどのようにOSSへの投資を理由付けているかが明らかにされた。OSSへ投資する際に最も重視されているのは「プログラムやサービスの長期持続性」であり,「OSSがユーザーにより良い結果をもたらすか否か」,「OSSに投資することで得られる経済的利益」等が続く。その他,自由回答では「学習やメンテナンスにかかる時間」や「類縁機関との協力」を挙げた者もあった。

●OSSの評価

  各機関のOSSに対する評価戦略等について調査するため,いくつかの観点について,OSSとプロプライエタリソフトウェアのどちらをより高く評価するかを回答させている。その結果,コミュニティの関係性,デジタルコンテンツの保存,他システムとの統合,メタデータ管理など多くの面でOSSが評価されていることが明らかとなった。一方,ユーザーエクスペリエンス(UX)やアップグレード速度の面ではプロプライエタリソフトウェアの評価が高い。

  評価基準の面では,多くがOSSとプロプライエタリソフトウェアを同一基準で評価すると回答したが,一部にはOSSを評価する際にセキュリティをより重視するという意見もあった。また,過半数の回答者はOSS製品の成熟度を測る尺度としてOSSコミュニティの規模を用いている。その他,OS依存性や開発者/コミッターの人数等も重視されている。

  かつてOSSを利用していたが利用を取りやめたという回答も44件あった。その主な理由は,「ソフトウェアのアップデートが停止された」,「より良い商用製品がある」,「推進派が組織を去った」等である。

●筆者の所感

  OSSのメリットは,システムの要件を決定する際の選択肢の幅広さであるが(CA1605参照),本調査では,GLAMがOSSを利用する際に,技術力不足や持続性に対する懸念が最大の障壁となっていることが明らかとなった。しかし,技術力不足について言えば,OSSを採用するか否かにかかわらず,各機関にとって最適なシステムを構築し,サービスの質を高めるためには専門知識の涵養が不可欠である。情報技術の専門人材は社会全体で不足しているのが現状であるから,今後は,各機関で得たノウハウを積極的に類縁機関と分かち合うなど,限られた人材や専門知識等を広く共有する取り組みが重要となろう。

Ref:
Rosen, Hannah; Grogg, Jill. LYRASIS 2021 Open Source Software Report: Understanding the Landscape of Open Source Software Support in American Libraries. LYRASIS. 2021, 23p.
https://doi.org/10.48609/n35f-5828
高久雅生. 特集,オープンソースソフトウェア:OSS:図書館サービスとオープンソースソフトウェア. 情報の科学と技術. 2014, 64(2), p. 48-53.
https://doi.org/10.18919/jkg.64.2_48
原田隆史. オープンソースと統合図書館システム. カレントアウェアネス. 2006, (289), CA1605, p. 15-18.
https://doi.org/10.11501/287064