E1561 – 京都府立総合資料館による東寺百合文書のWEB公開とその反響

カレントアウェアネス-E

No.259 2014.05.22

 

 E1561 

京都府立総合資料館による東寺百合文書のWEB公開とその反響

 

 京都府立総合資料館では,2016年度の開館をめざして新施設の建築に取り組んでいる(E1461参照)。2014年3月3日から,所蔵する資料のうち,国宝である東寺百合文書のデジタル画像と目録データの公開を開始した。東寺百合文書とは,京都市南区の教王護国寺(東寺)に伝えられた文書群である。奈良時代から江戸時代初期までのおよそ1,000年間にわたる約2万5,000通の文書からなっている。巨大寺院であり広大な荘園をもつ領主であった東寺の経営にかかわる資料でなりたっており,庶民から時の権力者まで様々な階層の人々の息づかいを今に伝えている。また,現在日本ユネスコ国内委員会からユネスコ世界記憶遺産に推薦されており,2015年5月ごろに登録の可否が決まることになっている。

 今回の公開で挑戦しようとしたのは,「使えるデジタルデータ」の作成と流通である。これは,システムと利用規則等の仕組みとの両面から追求した。システム面では2013年12月からという短期間の開発のため要改善部分が残るが,公開した東寺百合文書WEBには,多様な検索機能のほかに解説・地図・年表・子供向けコンテンツが搭載されている。また掲載している画像は,墨の色や紙の質感までもわかるような高細密画像である。

 その上で,特に工夫しようとしたのが利用規則等の仕組みの面である。担当や館内での議論を経て,東寺百合文書WEBで提供するコンテンツについては,「クリエイティブ・コモンズ 表示2.1 日本 ライセンス」(CC BY)で提供することとした。このクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの採用については,様々な議論があったが,資料自体の著作権に配慮する必要がないこと,世界記憶遺産の候補である以上,世界との共通ルールにする必要があること,そしてなによりも東寺百合文書を自由に使ってもらいたい,という百合文書担当者の熱意によって実現された。

 さらに,東寺百合文書を利用した成果を当館に還元いただく「特段のお願い」という形で「当webサイトのコンテンツを利用して作成された,書籍・雑誌・論文・パンフレット・映像作品・新聞記事・TV番組等を当館にご提供ください」という呼びかけを同時に掲載している。

 世界記憶遺産の候補になっている国宝の資料画像と関連情報を8万カット分CC BYという利用しやすい形で公開したこと,その成果の提供を知の循環の確保という観点から利用者に求めたこと,が今回の挑戦のポイントである。

 この公開についてはさまざまな反響があった。やはりCC BYを採用して画像を自由に使えることにしたことへの「大英断」などの賛意が多かったように感じる。「画像は同資料館の所蔵を示せば,料金や申請不要で出版物や商品に使える方式で提供する」という報道のような積極的な受け止めのほか,当たり前のことを当たり前にしたことがすごい,歴史資料のオープンデータ化を他機関も進めてほしい,文化遺産オンラインにもEuropeanaのようにぜひCC表記に対応してほしいとの感想もあった。またより一歩進めてCC0で公開すべきという意見もあった。

 CC BYの採用の件以外にも,Web上で多くの好意的な反応をいただいている。大学で古文書の授業を行っている方からは「古文書学の授業をやっている身としては,たいへん有り難い。古文書の形態・様式のパターンの大部分をカバーしている」「鮮明な画像で文書の解説が出来るようになりますね。大助かりです。これで後期に集中して読む古文書が矢野庄に決定です。『相生市史』の翻刻と比較しながら読めるなんて,良い時代になったものです」と好意的な感想をいただいた。さらには,「あそこ建物は古いのにやることは新しいな」「検索できたり,『百合百話』という説明ページがあったり, 『Kid’sひゃくごう』というページまで!お役所とは思えない!素晴らしい!」など,当館の従来のイメージと違うという評価いただいた感想もあった。また,「往復4時間の通勤時間中に東寺百合文書webを見たいという理由だけで新しいモバイルを買った」「かつて退職金で東寺百合文書全函の写真帳を買い揃えようと思っていたが(700万円ぐらいした),その必要はなくなった」など,今後の活発な利用が期待される感想もあった。極めつけは某博物館の方から「貝ならぬ 百合の函 蓋を開け データとなりぬ 桃の節句に」という狂歌を頂戴したことであろう。

 以上のように,かなりの反響を巻き起こした今回の公開であったが,この試みのすべてが新しい,ということではない。すでに文化財の目録データのみをクリエイティブ・コモンズで出す試みは各地で始まっているし,前後して目録所在情報サービス(NACSIS-CAT/ILL)を運営する国立情報学研究所が総合目録データベースのデータをCC BYで公開する方針を示した。

 今後は,これらの動向が他機関にも広がることを期待している。従来から,図書館・博物館・文書館はそれぞれの所蔵資料や情報をなんとか社会に開こうと苦闘してきた。その結果,資料データベースと一般向けコンテンツ,さらにそれを支えるクリエイティブ・コモンズの採用に象徴されるような資料取扱の考え方を獲得した。今後はこの手法を使ってどこまで文化資源を開くことができるか。当館としても挑戦を続けていくことになる。

京都府立総合資料館・福島幸宏

Ref:
http://hyakugo.kyoto.jp/
http://hyakugo.kyoto.jp/guide
http://www.pref.kyoto.jp/shiryokan/documents/toji_web_koho20140228.pdf
http://www.kyoto-np.co.jp/sightseeing/article/20140301000027
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/25/05/1335262.htm
http://kasamashoin.jp/2013/12/_55.html
http://www.ameet.jp/digital-archives/digital-archives_20140114/
http://creativecommons.org/licenses/by/2.1/jp/
http://bunka.nii.ac.jp/Index.do
http://www.europeana.eu/
http://togetter.com/li/637329
http://togetter.com/li/658838
http://wwwap.hi.u-tokyo.ac.jp/ships/db.html
http://wiki.service-lab.jp/lib_toyonaka/wiki.form?page=%2F著作権と二次利用について
http://www.city.yokote.lg.jp/joho/page000027.html
http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/about/infocat/od/
E1461