カレントアウェアネス-E
No.190 2011.03.17
E1160
公共図書館におけるデジタルアーカイブ推進会議<報告>
2011年2月24日,国立国会図書館(NDL)関西館において,第2回目となる「公共図書館におけるデジタルアーカイブ推進会議」が公開フォーラム形式で開催された。これは,国内の公共図書館におけるデジタルアーカイブ構築を推進するための課題等を整理し,解決に向けた議論,国等の支援策についての検討等を行うもので,2010年2月にNDL東京本館で第1回を開催している。
会議の前半では,まずNDLから,2010年度に実施した公共図書館におけるデジタルアーカイブ事業の優良事例調査の概要を報告した。これは,20の公共図書館,3つの自治体を対象として行ったもので,この調査からは各館の取組みには,(1) 特色あるコンテンツ,(2) 住民参加,(3) 他機関との連携,(4) 費用面での工夫,(5) 二次利活用の推進,といった特徴が見られた。
続いて,この調査の対象館のうち2館の事例報告が行われた。静岡県立中央図書館の新出(あたらし いずる)氏からは,同館が所蔵する特殊コレクションのデジタルアーカイブ化の概要,特に,現在進行中の「葵文庫活用事業」について報告された。これは,江戸幕府の旧蔵書の一部からなる「葵文庫」のデジタル化を進めるもので,デジタル化の仕様,苦労した点,今後の課題等について言及された。また大阪府の豊中市立岡町図書館の西口光夫氏からは,同館が箕面市立図書館とともに進めている,「北摂アーカイブス」について報告された。これは豊中市・箕面市地域の写真を住民から募集し,公開しているもので,この写真の整理やホームページ作成等を担っている住民「地域フォトエディター」の役割,「地域の記憶を記録に」というキャッチフレーズ,利用規約等で工夫した点等についても言及された。これらの報告を踏まえ,長尾真NDL館長から,全国の優れた取組みを高く評価するとともに,NDLとして公共図書館を支援していきたい旨のコメントがあった。
会議の後半では,アカデミック・リソース・ガイド株式会社代表取締役・岡本真氏,元デジタルアーカイブ推進協議会事務局長・笠羽晴夫氏,総務省情報流通行政局情報流通振興課・白石牧子氏,文部科学省生涯学習政策局社会教育課・平川康弘氏の4名によるパネルディスカッションを行った。会議前半の各報告に対する講評,総務省及び文部科学省からの関連施策の紹介に続き,デジタルアーカイブを推進していく上で必要な施策についての議論が行われた。主な意見としては,コンテンツの量の重要性,二次利用を許容するライセンス導入による利活用拡大,地域の情報を集め残すこととレファレンス記録を蓄積することの親和性,当初から持続可能性・拡大可能性を意識して設計することの重要性,図書館がコンテンツをアップロードし地域住民にメタデータを付与してもらうモデルの有効性等が挙げられた。また個別の事例を積み重ねて制度に反映することが重要であるとして,制度面と実践面の両面に関わっているNDLが果たす役割への期待も表明された。
NDLでは今後,優良事例調査の結果とともに,会議の資料・記録等を公開する予定である。また2011年度には,今回の会議の成果もふまえながら,関西館を会場とした集合型の「資料デジタル化研修」(仮称)の開催(2011年秋を予定)といった,デジタルアーカイブ事業の推進に向けた具体的な取組みも進めていく予定である。
(関西館電子図書館課)
Ref:
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/1190681_1368.html
http://www.tosyokan.pref.shizuoka.jp/aoi/
http://wiki.service-lab.jp/lib_toyonaka/
http://togetter.com/li/104992