カレントアウェアネス-E
No.513 2025.11.20
E2841
図書館の責任あるAIの利用に向けた文書：IFLA Entry Point to Libraries and AI
国立国会図書館利用者サービス部科学技術・経済課・神田広樹（かんだひろき）
国際図書館連盟（IFLA）は、2025年5月、図書館と人工知能（AI）の活用に関する文書“IFLA Entry Point to Libraries and AI”（以下「本文書」）を公表した。
●本文書の位置付け
本文書は、2024年8月に公表された“IFLA Internet Manifesto (2024)”の付録1として位置付けられる。図書館員が倫理的なAIの利用について評価するのを支援するためのツールとして、AI利用の利点とリスクを分析し、議論する際に考慮すべき重要な点を示すものである。ただし、AIの利用・適用の可能性について最終的に規定する上で参照すべき唯一のものとして用いることを推奨するものではなく、文脈に応じたアプローチを確保するため、個々人がより広範な議論に参加することを強く奨励するとしている。
なお、本文書の「AI」とは、現今急速に定着した生成AIに限定されず、既に広く確立され親しまれている多様なデジタル技術を含む用語として用いられている。
●図書館の役割
図書館は、他のステークホルダーと協働して、責任あるAIの利用を明確にしていく。図書館サービス向けのAIの開発又は使用許可から、社会における責任あるAIの利用と適切な規制の推進まで、図書館は6つの異なるレベルで影響力を行使しうる。
●AIの利点とリスク、自己評価のための質問
責任ある開発がなされれば、知識へのアクセスに対してAIが利点をもたらしうるケースとして、各種媒体のデジタル化、メタデータ作成を含むコンテンツ記述、レコメンド機能などが挙げられるとともに、ルーティン作業の自動化やアクセシビリティの向上に係る恩恵の可能性が述べられている。また、応用例として、図書館の図書・記事の推薦システムの実装など、8つの例が挙げられている。
一方、こうした利点の実現に向け、AI技術に関して対処すべきリスクとして、14の事項が列挙されている。不正確で誤解を招く情報（いわゆるハルシネーションの問題など）、文化的・言語的多様性と多様な知識体系の尊重に対する脅威（植民地主義的な権力構造の再生産のリスク）、不平等なアクセス（情報格差や特権的立場にあるユーザーの存在）、著作権と著作者人格権への脅威などである。
続いて、AIの利点を確保しつつリスクに対処するために、図書館が関係しうるAIサービスに関して、図書館員が考慮すべき14の質問（「知識へのアクセスや知の創造に関してAIがもたらす利点の本質は何か?」「AIが出力する情報の正確性、適時性、公平性の水準はどの程度か?」など）が示されている。これらの質問は、AI利用の考えうるリスクと利点を見極めるための自己評価ツールとして活用することを想定したものである。
●議論のためのシナリオ例
図書館員が議論を進展させていく際に有用な3つのシナリオとして、「図書館利用者による責任ある生成AIの利用への支援」「図書館職員（自身）による生成AIの利用」「図書館資料のメタデータ作成支援のためのAIの利用」が挙げられ、それぞれに14項目の説明文がつけられている。あわせて、議論を促進していくためのヒントが示されており、図書館員同士のインタラクティブな活動（例として、参加者がシナリオを読み通し、異なる観点から質問に答えるラウンドテーブルを挙げている）に用いることを薦めている。
●展望
本文書の前提として、知識へのアクセスや知の創造におけるAIの潜在的利点を責任ある方法で実現し、有害な側面に対処する義務が、一つの職業集団としての図書館員にあると述べられている。IFLAでは、AIに関する領域の変化の速さに鑑みて、関連する一連のポリシーの頻繁な更新を見込んでいるとのことである。末尾では、本文書がどのように活用されるかにIFLAが関心を寄せており、実践後のフィードバックを期待していることが述べられている。関係機関における本文書の活用と、IFLAの今後の発信に期待したい。
Ref:
“Release of ‘IFLA Entry Point to Libraries and AI’ document”. IFLA. 2025-06-10.
https://www.ifla.org/news/release-of-ifla-entry-point-to-libraries-and-ai-document/
M. Cox, Andrew; De Brasdefer, Maria. IFLA Entry Point to Libraries and AI. IFLA, 2025, 13p.
https://repository.ifla.org/handle/20.500.14598/4034
IFLA Internet Manifesto (2024 Update). IFLA, 2024, 6p.
https://repository.ifla.org/handle/20.500.14598/3461
