カレントアウェアネス-E
No.514 2025.12.04
E2848
International Data Week 2025 <報告>
東京大学附属図書館・横井慶子(よこいけいこ)
International Data Week(IDW)は、研究データの利活用を通じて科学と社会の前向きな変革を目指す会議であり、Committee on Data(CODATA)、World Data System(WDS)、Research Data Alliance(RDA)の3つの国際的なデータ関連組織によって、2年に1度共同開催されている。2025年のIDW(IDW 2025)は、10月13日から16日にかけてオーストラリアのブリスベンで開催された。参加者は図書館員、研究者、政策立案者、出版社など多岐にわたり、世界75か国から807人(現地参加者704人、オンライン参加者103人)が集まった。
会期中には、基調講演4件、分科会107件、ポスター発表130件が行われた。発表内容は研究データに関わるさまざまなテーマを網羅しており、FAIR原則とオープンサイエンス、CARE原則と先住民族のデータ主権、AIとデータ倫理・政策、研究データインフラと国際協力、教育・人材育成、メタデータ・識別子・相互運用性などが取り上げられた。なお、CARE原則とは、“Collective Benefit, Authority to Control, Responsibility, Ethics”の頭文字を統合したもので、先住民族の権利と集団的利益に配慮してオープンデータを扱うためのガイドラインである。研究データに関するあらゆる課題や取り組みが議論される場となっていた。
図書館員を中心に企画された分科会「Libraries as Enablers of Open Research Communities」では、大学図書館によるユニークな取り組みが紹介された。たとえば、香港科技大学からは、オープンな研究情報データベースOpenAlexを活用して論文中のData Availability Statement(「研究に使用したデータがどこで、どのように入手できるか」を明記した記述)を分析し、同大学の研究者によるデータ公開の傾向を調査した結果が示された。また、シンガポールの南洋理工大学(NTU)からは、「NTU Open Research Awards」の創設とその後の展開が紹介された。この賞は、自身が生み出した研究データやツールなどを積極的に公開するなどして、研究の透明性、再現性、アクセス可能性の向上を提唱する運動「Open Research」を推進する研究者らを表彰している。さらに、NTUは実践ガイドとして「Open Research Checklist」を開発し、同賞の応募者・審査員向けに活用しているとの説明もあった。
研究データ管理(RDM)に関する教育・研修の推進を目的とした分科会「Evolution of RDM Training to empower communities」では、研修開発について多角的な議論が行われた。冒頭では、AIを活用した研修プログラム開発について発表があった。発表では、研修プログラム作成者自身の専門性と創造性が重要であること、AIの出力結果に対して、情報源・正確性・関連性の確認が不可欠という前提のもと、ニーズ分析、コース設計、実装、評価等のコース開発の各段階でのAI活用方法が示された。この発表を受け、研究におけるAI利用の開示方法(引用や参照の記述方法)に関する意見が多く寄せられ、ガイドラインの策定、機関リポジトリでの記述、研究者向けワークショップ開催などの実践例が共有された。続くディスカッションでは、研修に対する研究者のインセンティブ維持が話題となった。会場からは次々と意見が寄せられ、ボードゲーム、レゴ、カードゲームなどのゲーム要素を取り入れた事例が数多く紹介された。
分科会全体を通して、世界各国のRDM支援関係者が自身の考えや課題、対応事例を積極的に交換し合い、単なる情報共有にとどまらず、国際的な仲間意識が育まれていた。
IDWおよびRDAの全体会議には継続的な参加者が多く、参加者間には友好的な関係性が築かれている。そのため、IDW 2025は終始、交流しやすく和やかな雰囲気に包まれていた。発表後の質疑応答に加え、休憩中の会話を通じて自然なネットワーキングが生まれ、国際的な実務者コミュニティの形成につながっていた。日本からもより多くの参加者が加わることで、日本のRDM支援の発展につながることが期待される。
IDW 2025の録画および発表スライドは2026年1月にAustralian Research Data CommonsのYouTubeチャンネル、RDAとSciDataCon(CODATAとWDS共催の会議)のウェブサイトにて公開予定である。次回の開催となるIDW 2027は南アフリカ・ケープタウンで2027年9月20日から23日までの日程で開催される予定である。またRDAは年2回、全体会議を開催しており、直近では2026年3月16日から20日の完全オンライン開催と、2026年10月6日から8日の英国・ロンドンでの対面開催が予定されている。
Ref:
International Data Week 2025.
https://idw2025.org/
“HOSTS”. International Data Week 2025.
https://idw2025.org/hosts/
“Program”. International Data Week 2025.
https://idw2025.org/program-at-a-glance/
International Data Week 2027.
https://internationaldataweek.org/idw-2027/
“RDA 26th Plenary Meeting (VP26)”. RDA.
https://www.rd-alliance.org/plenaries/rda-26th-plenary-meeting-vp26/
“RDA 27th Plenary Meeting (P27)”. RDA.
https://www.rd-alliance.org/plenaries/rda-27th-plenary-meeting-p27/
