E2847 – 紙の図書の共同保存を目的とした英国のプロジェクト“UK Print Book Collection”

カレントアウェアネス-E

No.514 2025.12.04

 

 E2847

紙の図書の共同保存を目的とした英国のプロジェクト“UK Print Book Collection”

国立国会図書館関西館図書館協力課・三崎彩(みさきあや)、横山裕里恵(よこやまゆりえ)

 

  2025年10月、英国研究図書館コンソーシアム(RLUK)、英国国立・大学図書館協会(SCONUL)、Jisc及び英国図書館(BL)が、紙の図書の共同保存を目的とした全国的プロジェクト“UK Print Book Collection”(UK PBC)を立ち上げた。狭隘化する収蔵スペースの課題に対処するため、国内で所蔵冊数が限られる紙媒体の図書資料を対象として共同保存を行う試みである。本稿では、UK PBCについて、開始に至る経緯に触れつつ、概要を紹介する。

●開始に至る経緯

  英国における紙資料の共同保存の先駆けとしては、利用頻度の低い紙の学術雑誌を対象とした取組である“UK Research Reserve”(UKRR)がある。BLとインペリアル・カレッジ・ロンドンが中心となって、2007年から6大学が参加するパイロットプロジェクトとして開始され、2019年にはBLのサービスに移行している。

  UKRRは、参加館から提出された除籍候補資料のリストを基に、BLと参加館における対象資料の所蔵状況を調査し、所蔵が少ない資料についてBLへの移管等によって共同で保存を図るというものである。2019年のパイロットプロジェクト終了までに36館(BLを除く)が参加し、合計で書架スペース約98kmが確保された。プロジェクトの最終フェーズでは、UKRRを紙の図書にも拡大することが検討され、その実現可能性について調査が実施された。

  こうした流れを受けて、2022年5月にはRLUKの理事会において、SCONUL、国立・専門図書館、及び総合目録であるNational Bibliographic Knowledgebase(NBK)を運営するJiscと協力して、紙の図書に焦点を当てた共同管理の全国的な枠組みづくりを目指すビジョン“UK Distributed Print Book Collection”が承認され、関係組織と実現に向け協議を進めることが決定された。

●UK PBCの概要

  UK PBCは、紙の図書資料の全国的な分散管理を目指している。参加館は、最低限保存する図書数を7(7館が1冊ずつ所蔵)とすることに合意し、8冊目以上を所蔵する図書館は当該資料を除籍対象とすることができる。NBKのデータ分析等により、最低保存数を7に設定することで、国内における図書への継続的な利用が確保されるとともに、保存が求められる紙の図書が多くの図書館において現状の20~50%に削減可能になるという。

  プロジェクト開始時点では、本格的に電子書籍の普及が進む2010年以前に刊行された紙の図書を対象としている。パンフレットや報告書も対象となり、英語以外の資料も含まれる。資料の保存期間は「永久」とされている。NBKに定期的にデータ提供を行うことを条件として、英国の全ての高等教育機関及び専門図書館が参加可能で、費用はかからない。参加する図書館は、次の3種類の会員区分からいずれかを選択し、各区分の義務を負う。

  • 参加会員(Participating member):蔵書整理を行う際には、NBKを基盤としたツールであるLibrary Hub Compareを用いて、国内における所蔵状況を確認する。NBKにおいて国内における所蔵冊数が7冊以下である場合には、その資料を除籍しない旨を約する。保存が困難な場合には、最終手段として、後述する「受入会員」に当該資料を移管する。
  • 保存会員(Retaining member):「参加会員」の義務に加えて、NBKで国内における所蔵冊数が7冊以下と特定された図書について、当該図書を保存することに加え、その書誌レコードに当該図書を保存する意思を示すステートメント(retention statement)を追加する。
  • 受入会員(Receiving member):「保存会員」の義務に加えて、必要な場合にはほかの参加館からの図書の受入れを検討する。

  そのほか、全ての参加館は、蔵書整理を行う際に、国内の所蔵状況と照合した件数に加えて、国内における所蔵が7館以下だったものが何件あったか、8館以上で所蔵されていたものが何件あったか、UK PBCの一環として何冊の蔵書を除籍することを決定したか等の報告を行うことが求められる。また、会員資格と会員種別を3年ごとに確認し、継続の意思表示を毎年行う。

  より多くの図書館が参加することがUK PBC成功の鍵とされ、広く参加が呼びかけられている。どの程度の図書館が参加し、英国において図書の共同保存がどのように進捗していくのか、今後の展開に注目したい。

Ref:
UK PBC.
https://ukpbc.uk/
“Launch of the UK Print Book Collection (UK PBC)”. RLUK. 2025-10-23.
https://www.rluk.ac.uk/launch-of-the-uk-print-book-collection-uk-pbc/
@ResearchLibrariesUK .“UK Print Book Collection (UK PBC) launch event”. YouTube. 2025-10-23.
https://www.youtube.com/watch?v=hoq-kAwGI7s
Stubbs, Theo; Banks, Chris. UKRR: a collaborative collection management success story. Insights: the UKSG journal. 2020, 33(1).
https://doi.org/10.1629/uksg.503
Stubbs, Theo et al. UKRR Final Report. UKRR, 2019, 115p.
https://doi.org/10.25561/73162
Stubbs, Theo. An extension of UKRR into low-use monographs: does appetite exist?. UKRR, 2018, 75p.
http://hdl.handle.net/10044/1/69379
Wright, Nicola. Protecting the UK’s research collection: the UK Research Reserve project. SCONUL Focus. 2007, 40(Spring), p. 38-40.
http://eprints.lse.ac.uk/id/eprint/35812
BL. “UK Research Reserve”. Wayback Machine.
https://web.archive.org/web/20230707064926/https://www.bl.uk/ukrr
“UK Distributed Print Book Collection (UKDPBC)”. RLUK. 2023-02-13.
https://www.rluk.ac.uk/uk-distributed-print-book-collection-ukdpbc/
Evans, Rozz; Ruddock, Bethan Ruddock. The NBK and the UK Distributed Print Book Collection (UK DPC). Catalogue and Index. 2024, (208), p. 11-16.
https://journals.cilip.org.uk/catalogue-and-index/article/view/620
“Library hub compare”. Jisc.
https://www.jisc.ac.uk/library-hub-compare
国立大学図書館協会学術資料整備委員会. シェアード・プリントWG報告書. 国立大学図書館協会, 2020, 123p.
https://www.janul.jp/sites/default/files/sr_spwg_report_202006.pdf
村西明日香. 北米における冊子体資料の共同管理の動向. カレントアウェアネス. 2014, (319), CA1819, p. 26-31.
https://current.ndl.go.jp/ca1819