カレントアウェアネス-E
No.514 2025.12.04
E2846
2030年に向けたベルリン州立図書館の方針:「知識が変化を生む」
国立国会図書館利用者サービス部図書館資料整備課・田中真悠(たなかまゆ)
ベルリン州立図書館(Staatsbibliothek zu Berlin)は、2024年3月、新たな運営方針“Wissen schafft Wandel. Stabi 2030”(「知識が変化を生む。ベルリン州立図書館2030」)を公開した。本稿ではその概略を紹介する。
●ベルリン州立図書館について
欧州最大の学術図書館の一つである同館は、17世紀からプロイセンの王立・州立図書館として発展した。ベルリン分割占領期には、当時の図書館(現在のウンター・デン・リンデン館)が東ベルリンに属し、西ベルリンに新たな図書館(現在のポツダム通り館)が建てられた。現在は2館体制の図書館として、プロイセン文化財団の一部になり、国と連邦諸州の資金提供のもとで運営されている。
●文書の概要
本文書は、2030年を視野に入れた同館の方針をまとめている。2021年の館長交代が契機となり、同館の位置付けと事業の方向性が再設定された。
ボンテ(Achim Bonte)館長によれば、同館は情報基盤のデジタル化を見据え、技術力の強化とデジタルサービスの拡充に重点を置く。また、これまでに同館で形成された「図書館の存在理由である利用者に尽くす」という理念を引き継ぎつつ、主要な利用者を人文・社会科学の研究者と定め、より的を絞ってサービスを展開するとしている。
策定の過程においては組織風土の改革も図られた。後述の「私たちの協力」とも照応すべく、年齢や肩書の異なる職員が参画し、開かれた議論を行ったという。
文書は4つの項目から成る。まず「私たちの基準」として基本方針を表明し、「私たちの使命」で今後注力する業務やサービス、「私たちの協力」で組織文化に関わる目標を挙げる。「成功の要件」では外部に期待することを述べている。以下、各項目の内容を紹介する。
●「私たちの基準」
- 責任を持つ
研究と社会の橋渡しをする。また特に負の歴史を検証するという点において、コレクションに対する責任を持つ。 - 利用者中心で活動する
図書館及び図書館が提供するものは全ての人に開かれているが、サービスは主たる利用者である研究者に向けて行う。
●「私たちの使命」
- コレクションの構築
人文・社会科学の領域においてコレクションを強化する。ドイツ語又はドイツ語圏で19世紀以降に発行された印刷物の収集に注力する。館としての独自性がなく、十分な研究支援サービスを提供することも難しい分野は縮小する。外国資料で同内容の紙版とデジタル版が存在する場合は、デジタル版を採用する。 - データのキュレーション
メタデータ、画像、全文テキスト等の多様なデータを作成する。データ管理プラットフォームで連携機関とメタデータを編集・交換する。ラボ事業“Stabi Lab”等を通じ、データ活用と協働の場を展開する。 - 技術基盤の発展
国の中心的な図書館として、研究を支えるIT基盤の整備に貢献する。自由に再利用可能なソフトウェアを開発する。プロイセン文化財団におけるITの拠点となり、財団の諸部門でデジタル資料の保存・活用に携わる。 - アクセスの確保
紙及びデジタル資料の発見可能性を高める。データ駆動型研究の起点としてデジタル化や全文テキスト作成を行う。歴史的資料のテキスト・構造認識の技術やツールを統合する。 - 研究の推進
保存修復やデジタル化、写本、インキュナブラ、地図といった分野の研究のための拠点となる。来歴調査の発展を支援する。特に、ナチスの略奪や東西分断の歴史に加え、植民地支配の文脈で入手した資料に焦点を合わせる。財団や他の団体、特に東欧の機関と連携する。 - 文化財の保存
1945年以前の収集品やドイツの印刷物のコレクションは、基本的に紙の原資料を保存する。1945年より後に収集された資料のうち、複数あるかデジタルで利用できるものは除籍を検討する。デジタル資料の長期的な利用可能性を保つ。資料保存やデジタル化の拠点としての役割を強化する。 - 場の提供
第一のターゲットである研究者にとって最適な空間であり、かつ多くの人々が利用できる図書館を目指す。ポツダム通り館が大規模改修で2028年頃から休館するため、物理的な空間は当面縮小されるが、これにはベルリンの他の機関との連携及びデジタルサービスの拡充によって対応する。
●「私たちの協力」
- チームワークの醸成
社会性を重視したリーダーシップを通じて、職務への意欲と満足度を高める。特に中間管理層の能力や権限を強化する。透明性と尊重に立脚したコミュニケーションを行う。部署や序列を超えた交流を促進する。多様性と多元性を尊重し、推進する。 - プロセスの最適化
職場環境のデジタル化を進める。職員用イントラネットを活用する。業務を見直し、必要に応じて調整・統合又は廃止する。気候中立的な図書館運営を目指す。 - さらなる成長の実現
実験的であることと綿密さを両立する。採用や人事において多様性と透明性を意識する。職員の能力の開発・向上を支援する。
●「成功の要件」
長期的で柔軟な資金調達が必要である。ポツダム通り館の休館中、図書館の土地利用の全体構想と、あらゆる関係者の協力が欠かせない。財団内の施設が自立的な運営を行えるよう、体制の改革が求められる。
Ref:
Wissen schafft Wandel. Stabi 2030. Staatsbibliothek zu Berlin, 2024, 26p.
https://doi.org/10.58159/20240201-000
NUTZER SIND DIE DASEINSBERECHTIGUNG EINER BIBLIOTHEK. BIBLIOTHEKSMAGAZIN. 2021, 2021(2), p. 5-11.
https://doi.org/10.58159/20230330-006
MIT SCHWUNG UND LEICHTIGKEIT: REDE ZUR AMTSEINFÜHRUNG VON ACHIM BONTE. BIBLIOTHEKSMAGAZIN. 2022, 2022(1), p. 13-19.
https://doi.org/10.58159/20230330-002
“For Research and Culture”. Staatsbibliothek zu Berlin.
https://staatsbibliothek-berlin.de/en/about-the-library/a-short-introduction
“Geschichte”. Staatsbibliothek zu Berlin.
https://staatsbibliothek-berlin.de/die-staatsbibliothek/geschichte
“Profil und Struktur der Stiftung Preußischer Kulturbesitz”. Stiftung Preußischer Kulturbesitz.
https://www.preussischer-kulturbesitz.de/ueber-uns/profil-und-struktur-der-stiftung-preussischer-kulturbesitz.html
“Staatsbibliothek zu Berlin”. Stiftung Preußischer Kulturbesitz.
https://www.preussischer-kulturbesitz.de/ueber-uns/einrichtungen-und-services/staatsbibliothek-zu-berlin.html
Bonte, Achim; Mateo-Decabo, Eva Maria. Wertschöpfung neu denken. Das Strategiepapier „Stabi 2030“ der Staatsbibliothek zu Berlin – Preußischer Kulturbesitz. Zeitschrift für Bibliothekswesen und Bibliographie : ZfBB. 2024, 71(4), p. 210-215.
https://doi.org/10.3196/186429502471427
“Bauprojekt Staatsbibliothek zu Berlin – Haus Potsdamer Straße Grundinstandsetzung”. Bundesamt für Bauwesen und Raumordnung.
https://www.bbr.bund.de/BBR/DE/Bauprojekte/berlin/kultur-und-bildung/staatsbibliothek-zu-berlin/haus-potsdamer-strasse/grundinstandsetzung/projektinformation.html
Schmitz, Christina. “Buchbewegungen in den Lesesälen – Vorbereitung auf die Sanierung des Hauses Potsdamer Straße | Book Relocation”. SBB aktuell. 2024-09-13.
https://blog.sbb.berlin/buchbewegungen-infografik/
