E2842 – 図書館において持続可能性に関する取組を進めるためのハンドブック“The Green Librarian Handbook”

カレントアウェアネス-E

No.513 2025.11.20

 

 E2842

図書館において持続可能性に関する取組を進めるためのハンドブック“The Green Librarian Handbook”

国立国会図書館関西館図書館協力課・横山裕里恵(よこやまゆりえ)

 

  欧州図書館情報・ドキュメンテーション協会連合(EBLIDA)は2025年8月、図書館において持続可能性に関する取組を進めるためのハンドブック“The Green Librarian Handbook: Symphony in Sustainability Major”を発行した。EBLIDAが主導する、欧州の図書館協会の能力強化等を目的としたプロジェクトEuropean Library Associations Network(ELAN)の一環として作成されたものである。本稿では、ELANの概要にも触れつつ、ハンドブックの内容を紹介する。

●ELANプロジェクトの概要

  持続可能性、民主主義、デジタルへのシフト、社会包摂等の欧州が抱える社会的課題に図書館も対応することが求められる中、各国の図書館協会が指導的・調整的な役割を果たし、アドボカシー活動等を担う重要性が増している。一方で、各協会のリソースや能力には地域ごとに差がある。こうした問題意識を背景に、ELANは欧州の図書館協会同士の結びつきを強化し、その能力や専門性を高めることを目指す、2025~2028年までの4か年のプロジェクトとして2025年1月に開始された。「民主主義の構築と文化・読書振興」「持続可能性と気候行動」「デジタルトランスフォーメーション」「欧州連合(EU)域内外における文化外交」といった重点領域を掲げ、プロジェクト期間中には、調査研究、実践的なツールキット・ガイドの作成、ウェビナー・ワークショップ、政策提言等が行われる。

  プロジェクト開始から間もない2025年春には、欧州の図書館協会を対象とした初期調査が実施された。これはELANが注力する領域における各協会の組織的な能力や自己評価等を把握するためのものであったが、特に持続可能性に関して、対応能力に自信があると回答した協会は3分の1未満にとどまり、多くの協会が気候・環境問題への対応を課題と感じていることが明らかになった。

●“The Green Librarian Handbook”の内容

  ELANプロジェクトの成果の一つとして公開された本ハンドブックは、図書館が持続可能性に関する取組を主体となって進める上で関連するポリシー、ツール、実践例をまとめたガイドである。以下、各章の内容を簡単に紹介する。

  まず第1章で本書の背景や意義が示され、続く第2章で持続可能性に関する基本的な概念や定義が解説されている。「グリーンライブラリー」は、環境・社会・経済の三つの側面で持続可能性をその価値観や原則に取り入れる図書館と定義されている。建物のみならず、運営やサービス全般を通じて、図書館を取り巻くエコシステム全体の環境負荷の最小化に取り組むことが重要とされ、そうした活動を推進するのが、タイトルにもある「グリーンライブラリアン」とされる。

  第3章では、世界・欧州レベル及び分野別の環境政策と図書館の関わりを解説している。国際連合(UN)の持続可能な開発目標(SDGs)、欧州委員会(EC)による欧州グリーンディールといった広範な枠組みから、省エネルギー、スマートシティ、循環経済等、個別の政策までを概観し、これらの政策目標の達成に向けて図書館がどのように貢献できるかを例示している。

  第4章では、図書館における実践を支援するツールやリソースに焦点を当てている。持続可能性に関する取組を表彰する国際的な賞、環境に関する取組を支援する欧州の資金提供プログラム、図書館におけるサービスデザイン等に活用できる手法を紹介したウェブサイトが紹介されている。また、グリーンライブラリーに関する国際図書館連盟(IFLA)のガイドラインを始め、多様なリソースの情報もまとめられている。

  第5章では、欧州各地の図書館による実践例をインフラ、リソースの共有、コミュニティへの働きかけ、環境教育等の九つの類型に分けて紹介している。二酸化炭素排出量の削減を目指し、屋根全体にソーラーパネルを導入した英国図書館(BL)、欧州各地の図書館で実践されているLibrary of Things(工具やデバイス等の貸出サービス)の取組、フードロスへの意識を高めるため、館内の一角に地域住民や利用者が食べ物を共有できるスペースを設置したドイツの公共図書館等、多様な事例が関連情報やキーワードとともに示されている。

  第6章以降には、参考文献の一覧のほか、「ボーナストラック」として自然や環境への意識等をテーマにした楽曲のプレイリストも収録されている。本ハンドブックの副題には「交響曲」とあるが、これは持続可能性の確保が多くのステークホルダーが協働して成り立つものであることを示している。ELANプロジェクトは2028年末まで継続される。プロジェクトを通じた今後の連携の広まりが期待される。

Ref:
“ELAN”. EBLIDA.
https://eblida.org/elan/
“The Green Librarian Handbook: Symphony in Sustainability Major”. EBLIDA. 2025-09-25.
https://eblida.org/publication/the-green-librarian-handbook-symphony-in-sustainability-major/
The Green Librarian Handbook: Symphony in Sustainability Major. ELAN, 2025, 108p.
https://eblida.org/wp-content/uploads/2025/09/ELAN-The-Green-Librarian-2025.pdf
“Initial Survey Report – European Library Association Network (ELAN)”. EBLIDA. 2025-09-25.
https://eblida.org/publication/initial-survey-report-european-library-association-network-elan/
European library associations in focus: ELAN initial survey report. ELAN, 2025, 30p.
https://eblida.org/wp-content/uploads/2025/09/ELAN-Initial-Survey-Report-final.pdf