E1461 – 京都府立総合資料館トークセッション「新資料館に期待する」

カレントアウェアネス-E

No.242 2013.08.08

 

 E1461

 

京都府立総合資料館トークセッション「新資料館に期待する」

 

 京都府立総合資料館は京都市左京区に所在する京都府の施設である。1963年11月に開館し,今年は50周年にあたる。特徴的なのは,博物館(Museum)・図書館(Library)・文書館(Archives)の機能をあわせ持つことで,この規模でのMLA複合館は全国的にみても例が少ない。またアーカイブ資料の代表的な存在である,国宝「東寺百合文書」や重要文化財「京都府行政文書」,そのほか貴重な古典籍や京都に関する郷土資料を多数所蔵している。現在,2016年の開設を目指し,新館建設にとりかかっている。なお,この新館は京都府立大学附属図書館と同大学文学部棟との合築となる。

 2013年7月14日に京都府立総合資料館の開館50周年記念事業の第一弾としてトークセッション「新資料館に期待する」を開催した。会場には関東圏からの参加もあり参加者は61名を数え,USTREAMによるウェブ中継ではユニーク視聴者数だけで101名(平均視聴時間約45分)を得た。事後のまとめや参加レポートに対する反響も多く,新施設に対する期待の大きさがうかがわれるものとなった。

 このトークセッションは,関西で活躍する若手の博物館員,図書館員,文書館員や大学関係者に,新資料館に期待する機能や役割について自由に話し合ってもらう,というコンセプトで開催した。そのため,全体を大きく「発話」「セッション1 関西のMLA機関・文化資源の状況」「セッション2 総合資料館に望むこと」の3つのパートで構成し,その多くの時間を会場からの発言にあてることとした。

 発話は,図書館員の立場から江上敏哲氏(国際日本文化研究センター図書館職員),博物館員の立場から兼清順子氏(立命館大学国際平和ミュージアム学芸員),文書館員の立場から松岡弘之氏(大阪市史料調査会調査員)の3名にお願いした。それぞれ,知的生産インフラ,近現代史資料の保存・活用,人とモノのハブに,というセッション全体を貫くキーワードを出していただいた。

 セッション1では,関西に限らず全国のMLA機関の現状について,会場を交えて意見交換が行われた。まずは,各機関の担当者が多様な地域資料を適切に遺すためにどこに相談すればよいのかわからない,互いの顔と資料が見えない,といった課題が指摘された。この課題解決に向け,MLAネットワークの必要性があらためて認識された。また,真に危機的状況にあるのは,同時代の資料であり,「残ったもの」を対象とする発想から,「どう遺すか」へシフトしなければならないとの意見が出された。さらに,危機的状況の大きな背景には,MLAが持つ機能に対する社会的認知度の低さがあり,その克服のためには,社会のニーズに真摯に向き合い,常に成果を出し続けることが重要であるとの指摘もあった。

 引き続いて行われたセッション2では,新資料館に対するさまざまな要望が活発に出された。おもなところを整理すると以下の通りである。まず,より利用しやすいように資料の貸出規程や撮影料の見直しなどを行うことが要請された。さらに,海外の日本研究者が京都の施設というと真っ先に想起する施設になってほしい,という課題も出された。京都府政全体の課題に新資料館はどう応えるかを意識すべき,との提起もあった。また,市民・府民と学術情報をつなぐ役割や各種情報のハブとなる機能を期待したいとの声が多くあがった。そのためには,教育普及活動へ力を入れつつ,ウェブサイトを上手に活用し,利用者の間口を広げ敷居を低くする工夫を行うことが必要との重要な意見が出された。

 トークセッション全体を通じて,資料の形にこだわらず,広く資料や情報を集めて使いやすく発信し,人と人との出会いの場を作る役割を期待する意見が多かった。一方で,MLAの機能については,貸出や展覧の場という目に見える部分のみが注目され,資料・情報・人の交通の場という本質の部分について,社会一般にはなかなか共通の理解が形成されていない,という厳しい指摘があった。

 もちろん,新施設建設という機会に,さまざまな手段を駆使して,この本質を理解していただくための仕掛けは必要になる。特に,これまで様々な場で述べてきたように(E1367参照),府域全体の文化資源の状況を見通した高度な複合館機能をめざす以上,この点は非常に重要になる。そして,しっかり仕掛ければ共通の理解は形成されると確信している。

 新施設は官が作って官が運営する公立機関でなく,市民との共同で作り上げる公共機関とならなければならない。そうであればこそ,現状認識を厳しく持ちつつも,市民の力量という「『虚妄』に賭ける」という姿勢がわれわれの活動を支える。そして,それは根拠のない「虚妄」ではない。われわれは京都の潜在力に日々驚かされているのだから。

(京都府立総合資料館庶務課新館担当・福島幸宏)

Ref:
http://www.pref.kyoto.jp/shiryokan/50shunen_talk.html
http://www.ustream.tv/channel/kpla
http://togetter.com/li/533629
http://d.hatena.ne.jp/min2-fly/20130716/1373980345
http://blog.livedoor.jp/sakumad2003/archives/51402762.html
http://egamiday3.seesaa.net/article/369447155.html
http://hitsujitoshokan.blog.fc2.com/blog-date-201307.html
https://hackpad.com/-2013.07.14-G0bBgSVDxnx
http://www.twcu.ac.jp/facilities/maruyama/index.html
E1367