E1460 – イタリアの図書館と比べて感じたこと:インタビュー後編

カレントアウェアネス-E

No.242 2013.08.08

 

 E1460

イタリアの図書館と比べて感じたこと:インタビュー後編

 

 2013年5月23日から約3週間をかけて来日ツアーを行った,『知の広場―図書館と自由―』(萱野有美訳,みすず書房,2011年)の著者アントネッラ・アンニョリさんのインタビュー後編をお伝えする(E1453参照)。

  • 日本の図書館や図書館員についてはどう思いましたか。

 たった一部の図書館しか見ていないので浅薄な意見しか述べることはできませんが,私が感動した点はお伝えしたいと思います。

 まず,訪問した図書館の多く,とりわけ伊東豊雄さんが設計されたせんだいメディアテークと多摩美術大学の図書館建築が素晴らしく,感動しました。意匠を凝らした武蔵野美術大学図書館もとても興味深かったですし,明治大学和泉キャンパスの図書館における文化プロジェクトの質の高さ,そして小布施町や日比谷の新しい魅力的な図書館にも感動しました。残念ながらイタリアでは,図書館が新築されることはめったにありません。というのも,使用目的のないままにたくさんの歴史的建造物が残されていて,そのような建物を図書館として再利用するということが頻繁にあるからです(CA1783参照)。図書館には適さない建物が利用されてしまうこともあります。

 それから一つ重要なことは,日本では図書館がとても重宝されているということです。市民は図書館に頻繁に通い,生活の一部となるような重要な施設だと考えているようです。日本では,私が訪れたどの図書館も人がいっぱいで,本がよく読まれているという印象を受けました。残念ながらイタリアでは,たいていの場合こうではありません。図書館には試験勉強をする学生くらいしか来ないのです。

 日本とイタリアの図書館制度には似ている点もあるように思いました。残念ながらどちらもとても硬直した階級的な官僚主義に陥っていることです。さすがにイタリアでは,このような事態は解消されていますが,管理職ポストの方とお会いした際に男性ばかりであったことに,女性の私としては少なからずショックを受けました。イタリアでは,ローマとフィレンツェの国立中央図書館を始め,多くの図書館の館長は女性です。

 それからもう一点共通しているのは,どちらの図書館も旧式のシステムに依存しているということです。もはや時代遅れで,近年のテクノロジーや社会の変化から取り残されているように思われます。スマートフォンで本を読み,ウッフィッツィ美術館の絵画を鑑賞し,北斎の版画を楽しむことができる時代にあって,図書館は何ができるのか,図書館に市民の足を向けさせるに足る理由は何かと自問せねばなりません。私は,図書館が情報を選びアクセスを提供するだけの場ではなく,出会いの場,コミュニケーションの場,市民生活の場となることが,生き残るための唯一の道だと考えています。イタリアでも日本でも,たいていの図書館は本が多すぎます。古い本は廃棄し,音楽や映像,インターネットへのアクセスなど,多様なメディアにより多くのスペースをあてるよう検討すべきです。また,様々な人々が一緒に過ごしづらい空間配置であることもままありました。机や椅子は,もっぱら独りで読書がしやすいように配置され,サロンというよりは駅の待合室のように見えることもありました。

 日本の大学図書館の多くが,イタリアの大学図書館とずいぶん違うことを好ましく思いました。市民に開かれていて,学生や教員だけの場所ではありませんでした。とても居心地がよく,勉強だけではなくおしゃべりをしたり休憩したりできる空間がありました。ある大学で私の本をテーマに講演会が開催された時には,たくさんの市民が参加してくれました。図書館が本当の意味で街の一部となっており,これはとても素晴らしいことだと思います。

 どの講演会でも,日本の一部の図書館で導入されている民間委託についてどう思うかとの質問を受けました。数字上はうまく機能しているように見えますが,この問題についてはよく考えねばなりません。民間経営を導入することで,開館時間を市民の要求に沿うよう柔軟に変更することなどが可能となり,顧客満足度があがる見込みは確かにあります。でも文化プロジェクトや選書は公的機関の責任とし,司書資格を持つ職員が担当することが重要だと思います。そしてさらに大事なことは,資料の貸出やインターネットへのアクセスなどの基本的なサービスについては,無料を保障することです。お金を使わずとも,図書館を利用し,サービスを享受できるよう維持せねばなりません。

(協力 ボローニャ市図書館協議会理事・アントネッラ・アンニョリさん)
(翻訳 利用者サービス部サービス企画課・渡邉由利子)

Ref:
CA1783
E1453