カレントアウェアネス-E
No.241 2013.07.25
E1453
アンニョリさんの眼に日本はどう映ったか:インタビュー前編
アントネッラ・アンニョリさんが(CA1783参照),『知の広場―図書館と自由―』(萱野有美訳,みすず書房,2011年)の邦訳出版をきっかけとして,初めて来日した。2013年5月23日から約3週間をかけて,全国各地の図書館を見学し,講演会や対談,読書推進活動を進めている様々な団体との意見交換を行った。滞在を終えたアンニョリさんに,来日ツアーの感想を伺った。前編と後編に分けてお伝えする。
- 日本についてどのような印象をお持ちになりましたか。
ありきたりの言葉以外で,日本について私に一体何が言えるでしょうか…。この国を深く愛し長年暮らした人,イタリア人ならフォスコ・マライーニのような人物でなければ,このように素晴らしく,多様性を持った魅力的な国について語ることはできないと思います。たった3週間しか滞在していない私が見解を述べるなんて,おこがましいことです。
ですがあえて何かお答えするとすれば,日本はとても安全な国だと思いました。子どもが一人で通学する姿をみかけて,とてもうれしく感じました。それから,日本人の優しさにとても感動しました。どこへ行っても,歓迎のことばが記されたパネルが用意され,講演会場は満員で,講演会後には,購入した本にサインをもらうためにたくさんの方が並んでくれました。なかにはちょっとした贈り物を手渡してくれた人もいます。奥出雲町に伺ったときは,私のために,小さなマーケット「ブックカフェ」を開催してくれました。まるでロックスターが立ち寄ったかのように,私の訪問を特別なイベントとして受けとめてくれました。
このような優しさに触れるたびに,とても感動してみなさんにお礼のキスをしようとしてしまいました。後々分かったのですが,日本の方々は公衆の面前でキスはせず,このような場合にはお辞儀をするのですね。でもイタリア人は,知り合ったばかりの人にもそうやって愛情表現をするのだとご理解いただき,お許しいただければと思います。
- 来日中,特に何が印象に残りましたか。
私が最も感動したのは,津波で被災した地域の住人とお会いしたことです。彼らは伊東豊雄さんの助けを受けて,「みんなの家」を造りました。この家にはたくさんの機能があります。料理や食事を一緒にし,読書をして(小さな図書コーナーがあります),人と出会い,再建や未来について一緒に考え,議論することができます。この家を通じて,参加したい,関わりたいという人々の思いが伝わってきました。残念ながら,イタリアではこのような市民参加の取組みはめったにありませんし,日本でもまれだと思います。ですが,人々が図書館に行った時に自分の家にいるような気持ちになってもらうには,このような方法で市民を最初から図書館づくりに参加させるしかないと確信しています。図書館は,街や村のアイデンティティを創りだす役割を持っています。奥出雲町では,カフェ,簡易食堂,本屋,図書室,出会いの場が共存する空間を創るための活動をしている市民グループにお会いしました。これも私にとってとても大切な経験となりました。
私が訪れた図書館の多くでは,図書館員,建築家,そして地方自治体との間に密接なつながりが築かれており,それが良い結果をもたらしていることが見てとれました。このような図書館は,とても美しく機能的で,来館者から愛されていました。例えば,せんだいメディアテークのように,利用者の要望に応じて様々な使い方ができるとても素晴らしい図書館を見学しました。同時に,このような関係が築かれていない場合には,建物がうまく機能せず,来館者も少ないことにも気がつきました。
- ご著書の翻訳がきっかけとなった旅でしたが,いかがでしたか。
私の本がなぜ日本語に翻訳されたのかこれまでずっと疑問に思っていたのですが,旅を終えて,その理由がやっと分かりました。この国にも,図書館の未来について考え,様々な年齢や社会条件の人たちの,多様な興味や要求に近づくような,そんな図書館モデルを見つける必要性を感じる方々がいるから,『知の広場』が関心をもたれたのだと思いました。
(後編につづく)
(協力 ボローニャ市図書館協議会理事・アントネッラ・アンニョリさん)
(翻訳 利用者サービス部サービス企画課・渡邉由利子)
Ref:
http://ameblo.jp/books-okuizumo/
http://itojuku.or.jp/ourhome
CA1783