E1462 – ニューヨーク公共図書館の改修計画をめぐって

カレントアウェアネス-E

No.242 2013.08.08

 

 E1462

ニューヨーク公共図書館の改修計画をめぐって

 

 ニューヨーク公共図書館(NYPL)のスティーブン・A・シュワルツマン図書館(Stephen A. Schwarzman Building)改修計画をめぐって議論が巻き起こっている。同館は,NYPLの中央館にあたるもので,改修費は3億ドルと目される。2012年2月16日に英国のFoster+Partnersへデザイン制作の依頼が決定し,同年12月19日にそのデザインが発表された。だが順風満帆とはいかず,計画発表当初から賛否が飛び交う事態となっている。

 NYPLの改修計画は2008年にスタートした。その際,投資アドバイザー企業のBlackstone Groupの共同創業者にして会長のスティーブン・A・シュワルツマン氏が,改修等のために1億ドルを同館に寄付している。これにより氏の名前は館名として掲げられることとなった。当初から,3階の大閲覧室Rose Main Reading Roomの下層階にある書庫スペースの資料を移送し,そこを貸出図書館として利用に供する案が示されていた。その後,前述のとおり2012年2月にNYPL評議員会は,Foster+Partnersへのデザイン制作依頼を決定し,併せて改修計画に対する市民の意見を広く募ることとなった。

 2012年12月にFoster+Partnersが発表した改修計画は,2008年の計画を踏襲したもので,概略次のようなものである。

  • 大閲覧室の下にある書庫資料を,同館が立地するブライアント・パーク敷地内の地下にある書庫スペースに移す。
  • 大閲覧室の下層階にできた空スペースには,NYPLのミッドマンハッタン分館と科学・産業・ビジネス図書館(Science, Industry and Business Library)の資料を移し,貸出機能を有する「図書館の中の図書館」を開設する。
  • これまで30%に留まっていた利用者スペースを66%にまで拡大させる。

 この計画は,いわば,これまでの人文・社会科学系資料を多く抱える研究図書館としての機能に加えて,1970年代まであった貸出図書館の機能を復活させるものであり,なおかつ利用者スペースの拡張を目指すというものである。完成後は,ティーン向けセンターと教育センターの新規開設等といった子どもやその先生のためのサービスの充実化や,金融リテラシーの講座等の求職者やビジネス情報を求める利用者向けのサービスの拡充が謳われている。完成は2018年の予定で,計画に関わる3館はその間も閉館することなくサービスを提供し続けるものとされた。

 計画が公表された翌月の2013年1月には,ニューヨーク市のランドマーク保存委員会やマンハッタンコミュニティが計画への支持を表明している。しかしその一方で,2012年5月に開催された改修計画をめぐるパネルディスカッションの場や,12月上旬に建築批評家のハクステーブル(Ada Louise Huxtable)氏等から計画への反対が表明された。また最近でも2013年7月にNPO団体Advocates for Justiceや作家のモリス(Edmund Morris)氏らがニューヨーク州高裁に対し計画差し止め等を求める訴えをそれぞれ起こしている。資料も増えてスペースも増えるという,いいことずくめのようにも思える計画の何が問題視されているのか。

 2012年5月のパネルディスカッションでは,パネリストからは,改修によってNYPLのもつ傑出したレファレンスセンターとしての役割が損なわれかねないことが指摘され,改修費は分館の整備に活用してほしいとの要望が出されていた。この7月に出された訴えでは,改修が環境に与える影響についての調査でNYPLの指示に不備があったことを指摘するのに加え,改修が合衆国憲法修正第1条で保障された市民の情報を受け取る権利を侵害するものであること,また,研究図書館に貸出図書館を追加することにより図書館のもつ研究機能が損なわれ,NYPL評議員会から与えられているその義務を果たせないことになる等と指摘されている。報道によれば,大閲覧室下層の書庫資料350万冊のうち,最大200万冊はブライアント・パーク地下書庫とは別にニュージャージー州の倉庫に移される計画という。計画に寄せられる批判は,コレクションが分散することによって研究図書館としての機能が減じられかねないことを危惧するものであった。

 NYPLにとって,改修はより良い環境での資料保存と年間運営費の節減,新たなリサーチライブラリアンとキュレータの雇用につながるものとされている。改修計画はその後も研究支援サービスの強化等を掲げて更新されている。NYPLのスポークスマンは,訴状に対するコメントは控える一方で,改修計画が全てのニューヨーカーにとってNYPLをより良いものとするための絶好の機会だと述べている。それぞれの思いと現実の中でNYPLの未来は揺れている。

(関西館図書館協力課・菊池信彦)

Ref:
http://www.nypl.org/renovation
http://www.advocatesforjustice.net/nypl-memorandum/
http://www.nytimes.com/2012/05/23/nyregion/changes-planned-at-ny-public-library-are-assailed.html
http://artsbeat.blogs.nytimes.com/2012/12/04/a-notable-voice-joins-chorus-against-new-york-public-library-plan/
http://www.wsws.org/en/articles/2013/07/26/nypl-j26.html
http://chronicle.com/blogs/conversation/2013/07/02/the-new-york-public-library-must-be-saved-from-itself/
http://artsbeat.blogs.nytimes.com/2013/07/10/new-york-public-library-is-sued-over-book-plan/
http://www.nydailynews.com/life-style/real-estate/350-million-renovation-nypl-avenue-branch-endanger-iconic-rose-reading-room-article-1.1390219
http://blogs.wsj.com/metropolis/2013/07/04/lawsuit-filed-to-stop-new-york-public-library-renovation/
http://www.nypl.org/press/press-release/2013/01/23/landmarks-preservation-commission-votes-favor-central-library-plan
http://lj.libraryjournal.com/2012/02/buildings/ambitious-nypl-renovation-back-on-track/
http://www.nypl.org/press/press-release/2012/02/16/new-york-public-library-launches-public-engagement-process-planning-l
http://www.nypl.org/press/press-release/2012/12/20/architects-newspaper-new-chapter-new-york-public-library-foster-partn
http://www.fosterandpartners.com/news/designs-for-the-new-york-public-library-revealed/