カレントアウェアネス-E
No.418 2021.08.19
E2411
地元テレビ局と連携した阪神・淡路大震災関連映像の公開
神戸大学附属図書館・井庭朗子(いばあきこ)
神戸大学附属図書館(以下「当館」)では,阪神・淡路大震災の発生から26年を迎えるにあたり,2021年1月14日に,当館の震災文庫(CA1853参照)デジタルアーカイブにて,地元テレビ局サンテレビジョンが撮影・制作した映像「阪神・淡路大震災」(1995年6月29日制作)を公開した。本稿では,公開までの経緯と今後の課題について述べる。
今回の映像公開は,サンテレビジョンから本学の都市安全研究センター長へ,震災当時の取材映像の保存と防災教育等での社会的活用を視野にいれた公開について相談があったことが始まりだった。そこで同センター長から要請を受けた人文学研究科の地域連携センターに当館も加えた3者が,2020年9月にサンテレビジョンと協議し,震災文庫での映像の受入・保存・公開を進めることとなった。
対象となる映像には被災者が多く写っており,非公表・未編集の取材映像も今後受領予定であることから,公開にあたっては,デジタルアーカイブ学会が公表していた「肖像権ガイドライン(案)(第3版)」(以下「肖像権ガイドライン」)を参考に検討することにした。
肖像権ガイドラインでは,写っている人を知人が見れば誰かが判断できるような写真で公開の同意を得られていない場合,被撮影者の社会的地位をはじめ写り方や撮影場所,撮影からの経過年数等の各項目に定めたポイントを合算して,公開によって予想される被撮影者への精神的な影響を計算する基準と,合計点に応じた公開の適否および方法(公開範囲の限定・事前申込者のみへの公開・人物へのマスキング等の制限付きでの公開等)を提案している。
この肖像権ガイドラインに沿って,サンテレビジョンから受領した映像2本のポイントを計算するため,地域連携センターの教員2人が,映像を通覧して判定が必要な箇所を特定し,その箇所について更に2回視聴した。
その後,地域連携センター,当館,サンテレビジョンの3者でポイント計算結果についてポイントの内訳を共有のうえ協議を行い,合計点が0点以上となった1本を制限なしでの公開が可能と判断して,前述のとおり震災文庫デジタルアーカイブで公開した。
今後もサンテレビジョンから震災関連動画の寄贈を受ける予定で,既に受け入れた動画の幾つかは同様の作業を少しずつ進めている。なお,肖像権ガイドラインは,2021年4月19日付で正式版が公開され,それ以降のポイント確認作業は正式版に依って行っている。
公開に向けた作業の中でいくつかの課題が見えたので,ここで紹介したい。
ひとつはポイント決定の際の判断の揺れである。見る人によって判断が分かれ,同じ人が見ても作業日が変われば判断が違ってしまう恐れがある点である。
例えば,肖像権ガイドラインでは被撮影者の立場の項目で「業務・当事者としての参加」には5点加算が提案されているが,消防士(業務中の被撮影者)の救助活動を地域住民(業務でない被撮影者)が手伝っている映像の場合に5点加算をするかどうか,つまり,立場の違う複数人が画面上にいる場合にどちらの人物に重きを置くかは,見る人によって判断が分かれる可能性が高い。
ポイント計算を担当した教員からは,判断の揺れを出来るだけ少なくするために,複数人で作業を行なったり一度に一定量をまとめて作業したりするなどの工夫が必要であるとの指摘があった。そして,肖像権ガイドラインでは判断が難しい箇所は,地域連携センター・当館・サンテレビジョンの3者で確認し基準を共有しつつ作業を進めることが重要であると確認した。一例として, 撮影の場所の項目にある病院は, 建物内だけでなく玄関前や駐車場など敷地内も病院とみなすと3者で確認した。
映像中に他局の映像が写っている場合やラジオの音声が入っている場合の対応も課題である。本年1月の公開に際してポイント確認作業を行った2本のうちの1本は,ポイント数の決定が難しい箇所が多かったことに加えて,他局のラジオの音声が入っていたことから,サンテレビジョンでの再編集も視野にいれて再検討することとして,公開を見送っている。
ポイント確認作業の結果,デジタルアーカイブでの公開が難しいと判断した映像は,当館館内のみでの公開あるいは研究目的等に限った限定公開(原則非公開)を行うこととした。しかし,震災文庫はこれまで一般公開できる資料のみを収集対象としてきたため,限定公開や非公開資料の運用方針を定めておらず,一般公開できない資料の収集や運用の方針等の検討を行う必要がある。
2021年7月2日に神戸大学とサンテレビジョンは連携協定を締結し,地域再生や防災・減災などにおいて連携・協力していくことを表明した。締結式では今回の震災関連映像の保存・公開が,協定に先駆けた連携の取組として,学生・教員らの防災学習や研究への寄与への期待と共に紹介された。当館としても,連携協定の意義と期待に応えられるよう,地域連携センター,サンテレビジョンと引き続き緊密に連携して,映像の公開の準備を進めていきたい。
Ref:
神戸大学附属図書館 デジタルアーカイブ 【 震災文庫 】.
.http://www.lib.kobe-u.ac.jp/eqb/
“[震災文庫デジタルアーカイブ] サンテレビジョン撮影・制作の映像を公開しました”. 神戸大学附属図書館 デジタルアーカイブ 【 震災文庫 】. 2021-01-14.
https://lib.kobe-u.ac.jp/libraries/18684/
高橋宣光. 「阪神・淡路大震災」(1995年6月29日制作 19分06秒). サンテレビジョン.
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/das/jsp/ja/DetailView.jsp?LANG=JA&METAID=10245870&AID=01
肖像権ガイドライン (案)(第3版). デジタルアーカイブ学会, 2020, 3p.
http://digitalarchivejapan.org/wp-content/uploads/2020/05/ShozokenGuideline-2020-03.pdf
肖像権ガイドライン (案)(第3版)の解説. デジタルアーカイブ学会, 2020, 10p.
http://digitalarchivejapan.org/wp-content/uploads/2020/05/ShozokenGuideline-2020-03-Kaisetsu.pdf
肖像権ガイドライン~自主的な公開判断の指針~. デジタルアーカイブ学会, 2021, 48p.
http://digitalarchivejapan.org/wp-content/uploads/2021/04/Shozokenguideline-20210419.pdf
“サンテレビジョンと連携協定を締結しました”.神戸大学. 2021-07-05.
https://www.kobe-u.ac.jp/NEWS/info/2021_07_05_01.html
“神戸大学とサンテレビが連携協定を締結”.サンテレビNEWS. 2021-07-02.
https://sun-tv.co.jp/suntvnews/news/2021/07/02/40246/
井庭朗子, 小村愛美, 花﨑佳代子. 神戸大学附属図書館「震災文庫」利用の現状と課題. カレントアウェアネス. 2015, (325), CA1853, p. 2-4.
http://doi.org/10.11501/9497646