CA1853 – 神戸大学附属図書館「震災文庫」利用の現状と課題 / 井庭朗子, 小村愛美, 花﨑佳代子

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カレントアウェアネス
No.325 2015年9月20日

 

CA1853

 

 

神戸大学附属図書館「震災文庫」利用の現状と課題

神戸大学附属図書館:井庭朗子(いば あきこ)
大阪大学附属図書館:小村愛美(こむら いつみ)
神戸大学附属図書館:花﨑佳代子(はなざき かよこ)

 

はじめに

 神戸大学附属図書館には阪神・淡路大震災(以下、震災)に関する資料を集めた「震災文庫」がある(1)。所謂震災アーカイブの先駆けとして度々論文等に取り上げられてきた当文庫だが(2)、利用という側面から取り上げたものは少ない。そこで、当文庫の利用の現状と課題を確認し、今後のサービスを考えるきっかけになればと筆を執った。

 「震災文庫」の成立経緯や資料の特徴等については、既に多くのところで述べられているので、ここでは概略のみ簡単に述べておく。被災地にある大学として震災に関する資料を網羅的に収集し、一般に広く公開するという趣旨の下で、1995年10月に約1,000点の資料を公開した。2015年に開設から20年を迎え、資料総数は約5万3,000点に達し、現在も収集を続けている。うち約5,000点は電子化し、ホームページ上でも公開している。神戸大学社会科学系図書館の3階に位置し、平日の午前11時から午後5時まで開館している。資料の貸出は行っておらず、閲覧のみの提供である(3)

 

「震災文庫」入口

「震災文庫」入口

 

「震災文庫」室内

「震災文庫」室内

 

 特定分野に関する資料のみを扱っているため、利用傾向も大学図書館とは異なる点が多い。そこで、昨年度の状況を中心に「震災文庫」を利用という側面から紹介したい。

 

来館者の特徴および利用例

 来館者数は、表の通りここ数年、年間延べ300人前後で推移している(2013年度は図書館耐震工事により、開室期間が5か月間のみであったため減少)。社会科学系図書館の来館者数が年間20万人以上(2013年度を除く)であることと比較すると、開館時間の差、統計の取り方の違いを考慮しても、決して多いとは言えない。来館者は学外者の割合が高く、学外利用者数が学内者より多い年もある。来館者のほとんどが学内者である社会科学系図書館との大きな違いである。これは当文庫が、関連資料の網羅的収集をめざし広く一般に公開するという「震災文庫」の理念のもと、図書や雑誌だけでなくチラシやポスター・パンフレット等も対象に幅広く収集してきた結果、様々な方が利用に訪れる希少なコレクションとなり得ていることを表しているのかもしれない。

 

表 年度別来館者数内訳(単位:人)
(展示会、図書館ツアー等の見学のみは含まない)

年  度2011201220132014
学  内183130 54169
学外 学生・教職員6894 2078
一般44721175
合  計295296 85322

 

 学外利用者の内訳は、他大学の学生・教職員の割合が2011~2014年度でそれぞれ、61%、57%、65%、51%であり、研究目的の利用が多いと思われる。先ほど利用者数が多くはないと述べたが、個々の利用は、腰を据えた資料調査やレファレンスを要する調査など、「震災文庫」ならではの例が散見される。2014年には、海外の大学教員が震災時の外国人被災者に関する資料を1か月間にわたり調査したり、他大学に在籍する留学生が、四川大地震との比較研究のため、1か月半、毎日のように来館したりした例があった。2015年3月にも海外の大学教員が、自国の伝統建築の耐震性と比較するため、震災前後の神戸の寺社について1か月ほど調査を行った。他にも消防関係者が震災当時の救助活動の情報を求めてきたり、水道事業の関係者が震災前後の水道管の耐震性比較を目的に訪れるなど、利用例は様々である。

 一方、学内者の利用例には2014年度、図書館が行った展示会「つたえる・つながる~阪神・淡路大震災20年」第2期の一環として、「記憶から歴史へ―阪神・淡路大震災を知らない世代の取り組み―」と題し、文学部日本史学専修の授業の受講生が行った展示がある。多数の資料を当文庫に寄贈して下さっている大木本美道氏から震災当時の話を聞いた上で、同氏の2万点を超える震災関連の写真コレクションから展示写真を選択し、長田、三宮、六甲道の3地域を対象に、それぞれの地域の歴史と被災の特色についてパネル展示・解説を行った(4)。展示にはそれぞれの学生の感想も添えられ、震災を知らない世代が、震災という「歴史」を学び、発表するカリキュラムになった。授業と連携した形で利用され大学教育へ貢献できることは、大学図書館にある文庫としての本分であり、今後もこうした利用が増えることを期待したい。

 

資料の二次利用

 特徴的な利用方法の1つとして挙げられるのが、資料の二次利用である。統計が残っている2008年度以降の申込件数は、年間30~90件程度であり、年によって差はあるが、一定数の二次利用の問い合わせが毎年ある。

 おもな利用目的として、印刷物(書籍、論文、自治体などで作成される防災パンフレット等)への写真の転載や、視聴覚教材、TV放送、ホームページ、講演会や式典、展示会での写真や動画の利用などが挙げられる。なかには高校の文化祭で行う劇の舞台背景として写真を利用したいとの問い合わせもあった。

 「震災文庫」で公開している資料は、著作権の譲渡を受けていないため、利用申請があった資料については利用目的を確認の上、著作権者から利用許諾を得られるか当館から問い合わせを行っている。問い合わせのよくある資料の著作権者によっては、事前に利用を許諾する条件等を聞いておき、申請者・利用目的がその条件に合致するか当館が確認し、利用の可否を判断することを許可してもらっている。もちろん利用申請がある度に自身で確認・判断をしたいという著作権者には、その都度問い合わせをして対応している。また、有料での利用を許可している著作権者に対しては、申請者にその旨を伝え、連絡の仲介を行っている。もともと「震災文庫」の趣旨に賛同し資料を寄贈して下さった方々なので、二次利用についても多くは快諾して下さり、著作権をめぐる問題が起きた例は聞いていない。成果物の確認を希望する著作権者には、後日申請者から提供された成果物を送付しており、連絡を取る際にお礼の言葉をいただくこともある。申請者のほとんどが、当館のデジタルギャラリーで公開している資料の利用を希望しているため、利用が許諾された資料は、原則としてホームページから申請者各自がダウンロードして利用してもらうが、より高精細な画像等を希望する場合は、公開用より精細度の高い保存用画像を提供する等、可能な限り対応している。

 ただ、著作権者の連絡先が分からず問い合わせが出来ないために、二次利用が不可能な資料も出てきている。そのため昨年度より、資料の電子化の許諾を依頼する際は、二次利用についても当館に許諾を一任するか、その都度問い合わせが必要かを併せて照会するように変更した。

 

最後に

 以上、「震災文庫」の利用の一端について紹介したが、今後のサービスの向上、またより多くの方に「震災文庫」を利用してもらうための課題について少し述べたいと思う。

 まずは資料の電子化とその公開である。利用者の利便性の向上を考えると、やはりこれが最も効果的であると思われる。

 既述のとおり現在、約5,000点を電子化し公開しているが、近年点数はほとんど増えていない。多数ある資料の電子化優先順位を決めることの難しさや、創設当初の20年前と比べて社会全体で個人情報保護の意識が格段に高くなっていること等、様々な理由はあるが、最大の原因は人員不足と著作権処理の難しさだと感じている。現在、「震災文庫」の専任職員は週30時間勤務の非常勤職員1名である。利用者対応に加え、資料収集、データ登録、資料の装備を行っており、電子化関連業務まで十分に手が回らないのが現状である。また、もう一つの著作権処理の問題は、震災から20年が経ち、著作権者が分からない、あるいは、分かっても連絡先が不明の資料が多くなっていることである。震災直後の状況を伝える資料で、電子化公開の優先順位が高い資料ほど著作権者の連絡先が不明等、著作権処理が難しい。

 連絡がとれる著作権者の方々もご高齢になりつつある。著作権処理の問題は、電子化についても、二次利用についても今後のサービスに大きく関わってくる。著作権処理に関する業務の見直しを始める時期に来ていると思う。もちろん非常にデリケートな問題で、一歩間違えると今まで築いてきた著作権者との信頼関係を壊しかねない。慎重な検討が必要である。

 

(1)“デジタルアーカイブ震災文庫”. 神戸大学附属図書館.
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/eqb/, (参照2015-06-29)

(2)例えば下記のようなものがある。
稲葉洋子.神戸大学「震災文庫」の新たな役割 阪神地域と東北地域をつなぐ図書館員のネットワーク.情報管理.2012, 55(6), p. 383-391.
稲葉洋子. “阪神・淡路大震災の記憶を伝える”. アーカイブのつくりかた 構築と活用入門. 知的資源イニシアティブ. 勉誠出版, 2012, p. 222-226
稲葉 洋子. 被災地の図書館が担うこと : 記録の継承から減災へ. 図書館界. 2012, 64(2), p. 103-108
稲葉洋子. 阪神・淡路大震災と図書館活動 : 神戸大学「震災文庫」の挑戦. 人と情報を結ぶWEプロデュース, 2005, 91p.
田原勝則, 岡風呂賢. 神戸大学附属図書館「震災文庫」の取り組み. 災害と資料. 2008, 2, p. 1-13.

(3)“文庫利用案内”. 神戸大学附属図書館
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/eqb/guide.html, (参照2015-06-29).

(4)神戸大学大学院人文学研究科地域連携センター編. 図録 記憶から歴史へ 阪神・淡路大震災を知らない世代の取り組み. 海港都市研究. 2015, 10, p. 93-106.

 

[受理:2015-08-12]

 


井庭朗子, 小村愛美, 花﨑佳代子. 神戸大学附属図書館「震災文庫」利用の現状と課題. カレントアウェアネス. 2015, (325), CA1853, p. 2-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1853
DOI:
http://doi.org/10.11501/9497646

Iba Akiko
Komura Itsumi
Hanazaki Kayoko
Use of Kobe University Library’s “Great Hanshin-Awaji Earthquake Disaster Materials Collection”:
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