E2479 – 市民NPO「そらまめの会」による指宿市立図書館の運営

カレントアウェアネス-E

No.432 2022.03.24

 

 E2479

市民NPO「そらまめの会」による指宿市立図書館の運営

指宿市立図書館(指定管理者:特定非営利活動法人本と人とをつなぐ「そらまめの会」)・ 下吹越かおる(しもひごしかおる)

 

  2021年11月,指宿市立図書館(鹿児島県)及び特定非営利活動法人本と人とをつなぐ「そらまめの会」はLibrary of the Year 2021大賞を受賞した。今回の受賞に際しては,「『市民NPOによる指定管理の持続モデル』を示しており,これからの図書館を考える上で参考になるところがある」と評価された。本稿では受賞に至った取組等について紹介する。

●運営の経緯や取組

  「そらまめの会」は,2006年に指宿市立図書館が指定管理になることが決まった際に,「自分たちのまちの図書館は自分たちで守る」という思いから,筆者ら地域住民が立ち上げた法人である。2007年より指宿図書館・山川図書館の2館からなる指宿市立図書館の指定管理者として図書館運営を開始し,2022年で15年目になる。

  図書館運営を開始するにあたっては,まず核となるメンバーを揃え,その後ハローワークで同志を募った。当時の構成員は,学校図書館司書経験者や直営時から臨時職員として勤務していた司書が全体の8割を占めた。指定管理開始時のメンバーの半数が,現在も共に14年間活動していることが,今の活動の大きなエナジーになっているのだと思う。当時、経営のノウハウのない私たちを,地域の会計事務所が「あなた方が指宿のまちの為に頑張ってくれるのなら支援しますよ」と無償で1年間サポートしてくれた。

  自分たちだけの図書館運営を開始する前日,職員から託された図書館の鍵は重く,館を出て少し離れた場所から図書館を見ると,シルエットがあまりに大きく,その責任の重さに押しつぶされそうだった。

  指定管理期間ごとに振り返ってみると,以下の通りである。

  1期目(2007年から2009年)は何にどのくらいの費用がかかるのかが見えず,おそるおそる過ぎていった。指定管理者として運営を開始した2年目,特定非営利活動法人でも1,000万円以上の所得がある法人には消費税が課税されることを学習していなかった私たちは,当時約150万円の金額をどこからも捻出できそうにない現実を知った。そこで,市と協議したが,どこにも解決の糸口が見いだせず,最後の1年間を職員の減給という形でしか解決できなかった。その反省から,2期目からの指定管理費には消費税分が算入された。

  2期目(2010年から2014年)は,2011年に指宿図書館の電算化をし,山川図書館と同じシステムでの運用が可能になり,利便性が格段に向上した。その他にも,施設の全面的な改修工事,学校との連携,学校図書館との間の回送便,補助金を活用した子育て支援のための備品購入,障害者への合理的配慮に注力した。さらに,図書館芋畑,「よるのおはなし会」(CA1884参照)などのイベントも開催し,利用者から好評を得た。

  3期目(2015年から2019年)は,指宿市と連携をしながら市民が気軽に集い交流し,連携を生み出す地域の拠点づくりをめざす「指宿市シビックカフェ事業(2016年から2020年)」を展開した。仕様書で求められた内容を上回るサービスに挑戦し,図書館の持つ可能性を広げ,より多くの市民との関わりを持つことができた。指宿図書館が大きく進化するきっかけになった事業であった。また,2017年2月,受託10周年として,関係者や地域住民を招きイベントを開催した。そのイベントの中でNPOとしてブックカフェ号(移動図書館車)稼働のためのクラウドファンディングにも挑戦することを発表し,4月から7月の90日間で,目標金額750万円に対し支援者数487人,157%に当たる1,178万円を達成した。同年,4月には市の担当課のバックアップを受けブックスタートを開始,2019年には読書通帳(CA1841参照)を開始し,さらなるサービス向上につながった。2018年には図書館総合展(CA1944参照)に参加するため,ブックカフェ号に乗り込み,「旅する図書館」として様々な土地で地域の人々と交流しながら移動し,会場のパシフィコ横浜で3日間を過ごし,指宿に戻ってきた。

  4期目(2020年から2024年予定)は,2020年に職員全員による手話での図書館利用案内の動画を作成した。2020年9月から2021年2月末にかけて休館し,指宿図書館の改修工事(空調機,照明のLED化,吹き抜けフロアーの紫外線防止フィルム装着含む)を行った。2020年,2021年には図書館総合展運営委員会より図書館レファレンス大賞審査会特別賞を受賞し,上述の通り2021年にはLibrary of the Year 2021大賞を受賞した。Library of the Yearには,これまでも,2016年に「指宿市立図書館」として,2017年に「そらまめの会」として候補機関に名前が挙がっていた。2021年はその両者を併せる形での受賞となった。当館のプレゼンについて,審査時には「さまざまな立場にいる市民の声を集めたプレゼンをされていたのが印象的で,長年にわたる活動の蓄積にも説得力を感じさせてくれた」という評価をいただいた。

●今後の展望

  これからの展望として,まず職員の勤務条件,雇用条件等の一層の改善に取り組みたい。次に郷土資料の収集・整理・保存・データベース化・レファレンスサービスの充実,学校,行政,地域との更なる連携を掲げたい。

  今後も市民から「図書館はまちの宝だよ」と言われる図書館,憩いの場であり知の拠点としての図書館であるために,私たちはこのまちの図書館員として力を尽くしたい。図書館は,市民の幸福度を上げられる施設だということ,誇りだと感じてもらえる施設だということを発信していきたいと思う。

  最後に,私たちの活動がロールモデルとして,指定管理者制度の研究者や,今後,指定管理者として公共図書館運営を検討しようとする人々,そして私たちの活動に関心のある人の参考になれば幸いである。

Ref:
指宿市立図書館.
http://www.minc.ne.jp/ibusukilib/
NPO法人 本と人とをつなぐ「そらまめの会」.
https://www.sorako.net/
“シビックカフェ”. NPO法人 本と人とをつなぐ「そらまめの会」.
https://www.sorako.net/blank-6
“BOOK CAFE”. NPO法人 本と人とをつなぐ「そらまめの会」.
https://www.sorako.net/blank-9
“Library of the Year”. IRI知的資源イニシアティブ.
https://www.iri-net.org/loy/
“最終審査用動画(鹿児島・指宿市立図書館)”. YouTube, 2022-10-22.
https://www.youtube.com/watch?v=cfJLgyHZ0RM
“指宿図書館レファレンス大賞動画2021(ラスト参考資料あり版)”. YouTube, 2021-10-24.
https://www.youtube.com/watch?v=PyTWtCFKR6g
松本和代. 公共図書館における「夜の図書館」イベント. カレントアウェアネス. 2016, (330), CA1884, p. 2-4.
http://doi.org/10.11501/10228070
和知剛. 読書通帳の静かなブーム. カレントアウェアネス. 2015, (323), CA1841, p. 5-7.
http://doi.org/10.11501/9107585
今井福司. 図書館総合展の20 年. カレントアウェアネス. 2019, (339), CA1944, p. 2-4.
https://doi.org/10.11501/11253590