カレントアウェアネス-E
No.432 2022.03.24
E2480
絵本の宅配便がもたらしたもの:あかし市民図書館の取り組み
あかし市民図書館・大久保明子(おおくぼあきこ)
2021年秋,あかし市民図書館(兵庫県)は,Library of the Year 2021の優秀賞およびオーディエンス賞を受賞した。あかし市民図書館はTRC・長谷工・神戸新聞グループ(代表団体:株式会社図書館流通センター)が指定管理者として運営を担っており,同グループと市との官民協働による子育て支援の取り組みが「子育てしやすいまち」という明石市の評価に大きく貢献していることが受賞理由である。今回は,コロナ禍の子育て支援の取り組みとして注目を集めた「絵本の宅配便」を中心に,あかし市民図書館の子育て支援事業について述べる。
●あかし市民図書館の取り組み
あかし市民図書館は,2017年1月に明石公園内から明石駅前の再開発ビル内に移転・リニューアルオープンした。開館時間の延長や,蔵書数・座席数の拡充により,利便性が向上している。また,駅前でアクセスが良いことから平日でも多くの利用者でにぎわっており,年間約90万人が訪れるなど,にぎわいの創出にも貢献している。
明石市では「こどもを核としたまちづくり」を進めている。あかし市民図書館でも子どもが心豊かに育ち,親子の絆を深められるように,同ビル内にある市のこども健康センターと連携し,4か月児健康診査や,3歳6か月児健康診査の際に,絵本・ブックリスト・読み聞かせ体験をプレゼントする「ブックスタート」や「ブックセカンド」を実施している。また,市内の放課後児童クラブ28か所へ1施設あたり50冊の資料セットを貸出し,ひと月に1度児童クラブ間で資料を巡回させる「放課後ブックサークル」事業を実施し,子どもに多くの本を届けている。ほかに,子どもから高齢者まで,誰にとってもやさしい図書館となるように読書バリアフリーの充実にも力を入れており,2019年10月には読書支援機器を集めたユニバーサルルームを開設した。拡大読書器や音声読み上げ機,プレクストークなど読書支援機器の紹介に力を入れていることが特徴である。
●絵本の宅配便について
新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け,臨時休館を余儀なくされた期間,あかし市民図書館では子どもに絵本を届ける「絵本の宅配便」事業を実施した。これは「外出自粛で家から出ることのできない子どもたちに本を届けたい」という市長の発案によるものである。
明石市内在住の未就学児と保護者を対象とし,1人5冊の絵本を貸出し,図書館員が自宅まで無料で絵本を届けた。絵本の返却は近くの返却ポストを利用してもらうか,または図書館再開館後に持ってきてもらうように依頼した。利用者負担になるが郵送での返却も受け付けた。宅配に際して運転手や車両の確保が課題だったが,市の図書館所管課である本のまち推進室の尽力により,市役所の公用車運転手の協力を得ることができた。市役所の公用車2台に市職員ドライバー1人と図書館員1人がそれぞれペアになって乗車し,2020年4月25日から5月19日までの25日間で合計750件,3,742冊の絵本を宅配した。コロナ禍でも,子どもへ多くの絵本を届けることができたのは官民連携のたまものである。絵本の宅配便は次第にSNSやインターネット上でも取り上げられるようになり,コロナ禍の子育て支援を象徴する取り組みとして知られるようになった。
●絵本の宅配便がもたらしたもの
絵本の到着を喜んだ子どもや保護者から多くの反響があった。絵本の宅配便では,希望する家庭からの申し込み用紙をもとに,年齢や性別の情報から図書館員が選書を行っていた。絵本の宅配便の梱包の中に選書を担当した図書館員からのメッセージカードを同封していたこともあり,お返しに117通もの手紙やメッセージが届き,図書館員もうれしい気持ちになった。絵本の宅配便がもたらしたものは下記3点である。
1つ目は,図書館員の意識改革である。手紙には,絵本の感想だけでなく図書館員の健康を気遣う内容もあった。これらの温かい声に後押しされ,図書館員は子どもに絵本を届けることに強い使命感をもって取り組むことができたと思う。
2つ目は,図書館員の選書力の向上である。自分が選書した絵本に対してダイレクトな感想が返ってくることが生きた学びとなった。また図書館員もそれぞれの絵本がもつ力を再確認することができたのである。
3つ目は,保護者からの反響を受け,託児サービスが実現したことである。寄せられた手紙には,子育てに困難を感じている保護者の切実な声が綴られていた。そこで,もともと図書館で事業を実施していた保育士と連携し,2020年10月から「すくすく子育てサポート」が実現したのである。すくすく子育てサポートでは,保育士による読み聞かせやリトミックの後,託児を実施し,保護者に図書館で気を休める時間を提供している。保育士との何気ない会話がストレスを吐きだす場となっており,子育て中の保護者の支援につながっている。
●挑戦を続ける
あかし市民図書館では連携事業に積極的に取り組んでいる。学校や近隣施設との連携はもちろん,地元の生船研究会と郷土資料担当者が連携して「明石型生船調査資料集・生船写真帖」を発行したり,明石市で活躍する市民に本を紹介してもらい,人と本をつなぐ「たこ文庫」活動を行ったりなど,周囲を巻き込み,さまざまな連携事業を続けている。
これからもあかし市民図書館では,連携の強みを生かし,いつでもどこでもだれでも手を伸ばせば本に届くまちの拡充に向け,幅広く挑戦を続けていきたいと考えている。
Ref:
“Library of the Year2021大賞およびオーディエンス賞決定!”.IRI知的資源イニシアティブ.2021-11-27.
https://www.iri-net.org/loy/library-of-the-year2021result/
“Library of the Year2021選考委員長および受賞機関のコメント公開”.IRI知的資源イニシアティブ.2021-12-28.
https://www.iri-net.org/loy/loy2021-comment/
あかし市民図書館. 図書館からはじまる“あかし暮らし”2021 わたしたちのチャレンジとビジョン. 2021, 46p.
https://www.city.akashi.lg.jp/seisaku/hon_shitsu/documents/libraryoftheyear2021akashi.pdf
明石市立図書館.
https://www.akashi-lib.jp
内藤幸枝,杉田のり子.コロナ禍から子育て支援を考える:自粛期間における家庭の状況、保育所、認定こども園等の支援から見えてきたもの.全国保育士会研究紀要.2021,(31),p.176-191.
“明石型生船調査資料集・生船写真帖”. 明石市立図書館/明石 郷土の記憶デジタル版.
https://trc-adeac.trc.co.jp/WJ11F0/WJJS07U/2820305100/2820305100100160/mp000010
たこ文庫 あかし市民図書館.
https://takobunko.com