E2634 – メタデータ流通ガイドラインの取組

カレントアウェアネス-E

No.465 2023.10.05

 

 E2634

メタデータ流通ガイドラインの取組

電子情報部電子情報サービス課・牛尾響(うしおひびき)、當舍夕希子(とうしゃゆきこ)

 

  データベースのメタデータ設計に関わる担当者がメタデータの項目・流通経路を検討するためのツールとして、2022年3月にメタデータ流通ガイドライン(以下「ガイドライン」)の「共通編」を公開した。その後も資料種別編として2023年3月に「研究データ編」、6月に「古典籍編」を公開している。本稿では、ガイドラインの作成背景と特徴を紹介する。

  近年、図書館や学術機関の扱う情報資源は多様性を増し、その記述に用いられるメタデータスキーマ(メタデータ記述規則。以下「スキーマ」)や、情報資源が公開されるデータベースもまた多様化している。そうした中で、情報資源をより広く利用者に届けるためには、持続可能なかたちでメタデータを流通させ、発見されやすい状態にしなければならない。そのためには、メタデータ設計の時点から流通経路を考慮することが重要になる。メタデータを自機関のデータベースにとどめず、国立国会図書館サーチ、学術機関リポジトリデータベース、ジャパンサーチといった統合検索サービスへと流通させることによって、より多くの利用者に情報資源の発見と利活用の機会を提供することができる。

  メタデータ流通の観点からは、メタデータが標準化されていればいるほどデータベース間の連携は容易になる。しかしながら、所蔵する情報資源やデータベース構築の経緯が機関ごとに異なる中で完全な標準化を求めることは、メタデータ流通のハードルを上げ、かえって連携の実現を阻害してしまうおそれがある。そのため、ガイドラインにおいては新たなスキーマを提示するのではなく、既存のスキーマ同士の互換性と対応関係を示すことで、分野を超えてメタデータ流通を促進する緩やかな標準化を目指している。

  実際の運用で利用しやすいように、ガイドラインでは、メタデータ流通を促進するための選択肢や指針を示すことを重視している。各データベースを運用する機関は、ガイドラインの示す選択肢や指針を踏まえて、それぞれの機関の事情に応じた対応を進めることができる。

  例えばガイドラインでは各データベースから統合検索サービスへと至るデータ連携の流れを図にし、データベースの所管機関や資料群に応じたメタデータ流通経路の選択肢として示した。あわせて、この流通経路上の統合検索サービスで使用される主なスキーマ同士の互換性を整理している。これにより、データベースの担当者は、自機関の事情に応じたメタデータの流通経路のイメージを掴んだ上で、経路に合わせたスキーマを選択することができる。また、ガイドラインでは主なスキーマに共通の項目について、流通のための推奨度を設定している。各データベースで利用されているスキーマが設定するメタデータ項目は多岐にわたっているが、この推奨度を指針とすることで、適切なメタデータ流通のためにはまずどの項目から充実させていけばよいのかを判断することができる。

  さらに資料種別編では、分野特有のメタデータを持つ資料群を対象に、メタデータの望ましい流通と、項目の整理と一覧化の検討を進めた。研究データ編では、GakuNin RDMやJAIRO Cloudといった研究データ基盤からCiNii Researchへのメタデータの流通を念頭に、望ましいメタデータの項目や内容を検討した。古典籍編では、2023年3月の国書データベース(E2612参照)の公開等を受けて、古典籍資料のメタデータが国内外を問わず広く流通し利活用されるように、メタデータの特徴をまとめて、項目の整理を行った。

  ガイドラインは、国立情報学研究所(NII)・科学技術振興機構(JST)・国立国会図書館(NDL)連絡会議の下に設けられた「メタデータの相互運用性に関する検討ワーキンググループ」において、NDL、オープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR)、これからの学術情報システム構築検討委員会(これから委員会)及びNIIが共同で作成した。資料種別編である研究データ編、古典籍編の作成にあたっては、それぞれJSTと国文学研究資料館(NIJL)の協力を受けている。特定の機関が標準を策定して公表するのではなく、メタデータ流通に関わる幅広い関係者が連携して取り組むこととしている。

  メタデータ流通に関わるコミュニティの輪を広げていくために、ガイドラインでは利用者からフィードバックを受けるための問合せ先を公開している。今後も様々なコミュニティの関係者との連携を広げながら、ガイドラインの内容拡充、対応する資料種別の追加を進める予定である。よりよいメタデータ流通の実現のために、ぜひ実際にガイドラインを確認し、率直な意見を寄せられたい。

Ref:
“メタデータ流通ガイドライン:はじめに”. 国立国会図書館サーチ. 2022-03-18.
https://iss.ndl.go.jp/information/guideline/
“D3 オープンサイエンス時代の知の共有を支える - メタデータ流通ガイドライン”. JOSS2022.
https://joss.rcos.nii.ac.jp/2022/session/overview/?id=se_101
“情報組織化研究グループ月例研究会報告(2022.12)「メタデータ流通ガイドラインの公開:メタデータ連携の現場から」”. 日本図書館研究会情報組織化研究グループ.
http://josoken.digick.jp/meeting/2022/202212.html
“E1 多様化するメタデータの共通基盤へ:走り出したメタデータ流通ガイドライン”. JOSS2023.
https://joss.rcos.nii.ac.jp/session/overview/?id=se_110
片岡真, 飯沼邦恵. 日本古典籍を身近にする「国書データベース」. カレントアウェアネス-E. 2023, (460), E2612.
https://current.ndl.go.jp/e2612