E2409 – 日本の学術機関に向けた研究データ管理サービスGakuNin RDM

カレントアウェアネス-E

No.417 2021.07.29

 

 E2409

日本の学術機関に向けた研究データ管理サービスGakuNin RDM

国立情報学研究所・込山悠介(こみやまゆうすけ)

 

●国立情報学研究所の研究データ管理(RDM)サービス

   GakuNin RDMは,2021年2月15日に国立情報学研究所(NII)がサービス提供を開始した,全国の学術機関に向けた研究データ管理(RDM: Research Data Management)サービスである。研究データ公開基盤JAIRO Cloud,検索基盤CiNii Research(E2367参照)と合わせて,NIIの研究データ基盤NII Research Data Cloud(NII RDC)における提供サービスの一つという位置づけである。

   NIIでは2016年からGakuNin RDMの研究開発をスタートした。システム開発のベースは米国の非営利団体Center for Open Science(COS)が提供しているサービスOpen Science Framework(OSF)のオープンソースソフトウェアを採用しており,国内の学術機関の図書館や情報システム部門の状況に鑑み,研究推進,研究公正の観点から各種機能が拡張されている。

   ソフトウェアの開発はNIIオープンサイエンス基盤研究センター(RCOS;E1925参照)が担い,サービス運営はNII学術コンテンツ課が大学共同利用機関法人の事業サービスとして長期運用に取り組んでいる。GakuNin RDMのシステム運用・監視は24時間365日オペレータが行っている。

   GakuNin RDMは2021年7月現在,34機関で導入されており,内閣府のムーンショット型研究開発制度などの公的研究費における先進的なデータ管理でも利用されている。なお,研究推進,研究公正そして大学間連携などそれぞれの観点でのGakuNin RDM利用事例のデモ動画が,NIIのYouTubeチャンネルで公開されている。

●サービスの特色

   GakuNin RDMのサービスは,研究者が日々の研究活動で生成するデータの管理を行い,共同研究者間で共有するためのストレージサービスが基本となる。

   サービスの主な特色としては以下のものがある。

  • 利用開始すると,ユーザはNIIが提供する「標準ストレージ」を一定容量利用することができる。
  • 利用機関がRDMポリシーまたは情報セキュリティポリシー上,データを組織外部に保存できない場合に,自機関で調達したストレージをGakuNin RDMへ接続する「機関ストレージ」という機能を具備する。
  • 標準ストレージ,機関ストレージに加えて,大型研究プロジェクトなどで更に容量が必要な場合は,ユーザが調達した別サービスのストレージをGakuNin RDMの「拡張ストレージ」の領域として接続して利用できる。
  • 研究不正防止を目的として,システム中に保存されたデータに対しては証跡管理システムが動作して,ファイルの版管理やファイルの編集履歴がレコードされ,更に第三者機関である時刻認証事業者(TSA: Time Stamp Authority)のタイムスタンプサーバにより,ある時刻でのファイルの存在がシステム中で担保される。
  • ストレージ以外にも,研究者がよく利用するソースコードリポジトリやデータ解析環境を連携させて,ワンストップの研究環境を構成することができる。
  • 研究者が個人のデータを管理,機関内でデータ共有するのはもちろんのこと,利用機関の研究者同士であれば,共同研究の検討段階から機関をまたいでデータ共有しながら研究をスタートすることができる。
  • 「公的資金による研究データ管理・利活用に関する基本的な考え方について」のメタデータ項目に対応したメタデータ登録機能のリリースを予定しており,研究プロジェクトの開始時に提出するデータ管理計画(DMP)に則った研究中のRDMを実施することができる。将来的にはGakuNin RDMにデータガバナンス機能が追加され、RDMの品質まで管理できるようになる計画である。

●GakuNin RDMの導入方法について

   機関は,NIIのコミュニティサポートのウェブページでシステム利用登録をした上で,GakuNin RDMのサービス利用申請を行う。GakuNin RDMのサービス利用申請の際には,機関内でのサービスの利用範囲を,全学・部署(部門・センター・課室・ユニット)などから設定し,情報システム部門,研究推進部門やリサーチアドミニストレーター(URA)と調整を行いながら,組織内の許可権者に利用承諾を得た後に利用申請する必要がある。

   GakuNin RDMは,その名称にもなっている学認(学術認証フェデレーション;CA1736E1482参照)のSP(Service Provider)として登録されている。学認にIdP(Identity Provider)参加している機関であれば,オンラインジャーナルや論文検索サービスと同様に,短期間でRDMサービスを導入でき,研究者は自機関の全学共通認証システムを通じてサービスへログインして利用できるようになる。産学連携研究での民間企業による利用や,学認にIdP参加する前の機関での小規模な検証用途については,利用申請時にOpen IdPというIdPを選択することもできる。

●RDMサービスの活用に向けた図書館への期待

   GakuNin RDMは今後,データ公開リポジトリであるJAIRO Cloudとも連携を強化していく計画である。機関内でのRDMサービスの提供では,図書館は研究者を支援する形で,専門分野によって不均一で粒度も異なる研究データを適切に蓄積・構造化して管理・公開していく必要がある。

   例えば,RDMサービスからリポジトリへ研究データが送出された後は,データ利活用のためのメタデータ登録作業,著作権・ライセンスや知的財産の管理,エンバーゴ期間の設定といった作業が発生する。また,研究者と協調して研究成果を公開する業務ワークフローの検討,学術情報サービスの利用者への普及・教育活動といったような業務内容なども考えられる。これらは,情報の分類や管理の観点から従来の図書館の業務と類似している部分があるのではないかと考える。

   国内の学術機関において,RDMサービスのステークホルダーである経営層によるRDMの方針決定をはじめ,図書館部門,情報システム部門や研究推進部門等にまたがった,セクション横断的なタスクフォースでの調整により,RDM担当部署の決定,RDM実施体制の構築,機関のRDMポリシーの策定が進んでおり,一部では学生や研究者へのRDMサービスの普及・啓蒙の活動に取り組んでいる先進事例もある。

   どのようにRDMサービスを研究者へ説明していけば,情報管理・検索やデータ利活用の観点で有利なデータ管理ができるか,図書館の立場から自由な発想でご検討・ご提案頂くことを期待している。

Ref:
GakuNin RDM.
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