E2633 – 「電子図書館のアクセシビリティ対応ガイドライン1.0」の紹介

カレントアウェアネス-E

No.465 2023.10.05

 

 E2633

「電子図書館のアクセシビリティ対応ガイドライン1.0」の紹介

総務部企画課

 

  2023年7月19日、国立国会図書館(NDL)と「図書館におけるアクセシブルな電子書籍サービスに関する検討会」は、「電子図書館のアクセシビリティ対応ガイドライン1.0」(以下「ガイドライン」)を公開した。ガイドラインは、商用の電子書籍を図書館を通じて提供するサービス(以下「電子図書館」)を視覚障害者等が利用するにあたって必要なアクセシビリティに係る要件を整理したものである。本稿では、ガイドラインについて紹介する。

●ガイドライン作成の経緯

  2019年6月、「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」(読書バリアフリー法;CA1974参照)が施行された。2020年7月には、同法第7条の規定に基づき、文部科学省及び厚生労働省において、「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画」(以下「基本計画」)が策定された。基本計画はⅢ.4.(4)において、「音声読み上げ機能(TTS)等に対応したアクセシブルな電子書籍等を提供する民間電子書籍サービスについて、関係団体の協力を得つつ図書館における適切な基準の整理等を行い、図書館への導入を支援すること」を求めている。この施策は、関係省庁との協議の結果、NDLが中心となって取り組むこととなった。2021年度からNDLが事務局となり、「図書館におけるアクセシブルな電子書籍サービスに関する検討会」を開催してきた。

●ガイドラインの目的・適用範囲

  第1章から第4章は、ガイドラインの目的、適用対象となる電子図書館やそのシステム、支援技術の範囲等、ガイドラインの前提について記している。

  ガイドラインの目的は、上述のとおり電子図書館を視覚障害者等が利用するにあたって必要なアクセシビリティに関する要件を整理することである。公立図書館、大学図書館、学校図書館(以下「公立図書館等」)及び電子図書館事業者に活用されることを想定している。

  ガイドラインが対象とする電子図書館は、図書館が民間事業者と契約し、主に商用の電子書籍を利用者に提供するサービスをその範囲とする。また、電子図書館のシステムは、ウェブサイト、ビューア、電子書籍コンテンツからなるが、ガイドラインでは、このうちウェブサイトとビューアを対象とする。

●運用体制及び運用手順、アクセシビリティ対応方法

  第5章は、電子図書館のアクセシビリティを維持するために、公立図書館等と電子図書館事業者のそれぞれに対して求められる運用体制と運用手順について記している。

  第6章は、電子図書館のウェブサイトとビューアのそれぞれにつき、利用者が電子図書館を利用する手順(「ログイン」、「書籍検索」等)ごとにアクセシビリティを実現するための要件を記している。まず、「概要」として、その手順を構成する主な要素(「ID入力欄」、「検索条件入力欄」等)を示し、次に「音声読み上げなどで想定される課題例」として、閲覧に至る場合と至らない場合との分岐点を例示している。その上で「アクセシビリティ要件」の項に、実施すべき具体的な「内容」を示し、「参考規格」として、JIS X 8341-3:2016やWeb Content Accessibility Guidelines(WCAG 2.0)、User Agent Accessibility Guidelines(UAAG 2.0)などのウェブサイトやビューアのアクセシビリティに関する規格やガイドラインにおける関連する項目を記載している。さらに、各要件についてJIS X 8341-3:2016等を参考に、重要性と難易度に応じて1から3の「ステップ」を付与している。各ステップの位置づけは、以下のとおりである。

  • ステップ1:電子図書館をアクセシブルなものとするために基本的に対応が求められる要件
  • ステップ2:電子図書館をアクセシブルなものとするために備えることが望ましい要件
  • ステップ3:アクセシビリティ対応の優先度は高くはないが、実装することでより高度なアクセシビリティを達成することが可能な要件あるいは特定のニーズに最適化するための要件

●今後の予定

  本ガイドラインは、「1.0」という名前のとおり、発展途上にある。2023年度は、1.0に盛り込むことを見送ったアクセシビリティ機能である色反転、フォントの変更、文字間・行間の調整、縦横切り替え、ルビ付与、分かち書き、ハイライトについて、アクセシビリティ要件に関する調査を行う。また、引き続き検討会を開催し、ガイドラインの普及及びガイドラインの更新に向けた調査について、進捗の共有や意見交換等を行うことを予定している。

Ref:
“「電子図書館のアクセシビリティ対応ガイドライン1.0」を公開しました”. NDL. 2023-07-19.
https://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2023/230719_01.html
“電子図書館のアクセシビリティ対応ガイドライン1.0”. NDL.
https://www.ndl.go.jp/jp/support/guideline.html
“図書館におけるアクセシブルな電子書籍サービスに関する検討会 令和3年度報告書”. NDL.
https://www.ndl.go.jp/jp/support/report2021.html
“視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律”. e-Gov.
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=501AC0100000049
文部科学省, 厚生労働省. 視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画. 2020, 18p.
https://www.mext.go.jp/content/000073559.pdf
野口武悟. 読書バリアフリー法の制定背景と内容、そして課題. カレントアウェアネス. 2020, (344), CA1974, p. 2-3.
https://doi.org/10.11501/11509684