E2695 – 「これからの地域資料データの継承・共有を考える」<報告>

カレントアウェアネス-E

No.479 2024.05.16

 

 E2695

「これからの地域資料データの継承・共有を考える」<報告>

山形大学附属博物館・佐藤琴(さとうこと)

 

  2024年3月29日、山形大学附属博物館と合同会社AMANEの主催により、学術シンポジウム「これからの地域資料データの継承・共有を考える~地域や組織を横断した資料データ共有の仕組みの実現を目指して~」をハイブリット形式で開催した。筆者は2023年度国立情報学研究所「AI等の活用を推進する研究データエコシステム構築事業」のユースケース募集に対し、「地域資料データの継承とオープン化を目指した地域横断型データ共有基盤の構築」を提案し採択された。今回のシンポジウムでは、本事業の共同研究者が登壇し2年にわたる事業の中間報告を行い、計49人の参加があった。本稿では、その概要を紹介する。

●事業の趣旨説明/堀井洋(合同会社AMANE)

  地域資料の保存継承のためにデジタル化は必要性が認識されつつも進行が鈍い。本事業は、複数の地域が協働して地域資料のデータストレージを分散保有することを核に、地域資料のオープン化を進める。この過程で顕在化する諸問題の解決に取り組むことで地域資料データの継承を進めていきたい。

●報告1「デジタルデータによる地域アーカイブ集積の実践と課題」/小幡圭祐(山形大学附属博物館)

  山形大学附属博物館は2022年に山形市の中心市街地の風景と人々の記憶を収集・共有する取り組み「山形アーカイブ」を開始した。2年間の活動で収集したデータはおよそ8万ファイル・4テラバイト。今後の保存容量の確保(現在は8テラのNASに保存)と長期保存に適したファイル形式の検討などが課題である。

●報告2「地域資料を対象とした3Dデータ生成の現状と展望」/小川歩美(合同会社AMANE)

  2023年度に、デジタル画像を統合して3Dデータを生成する技術であるフォトグラメトリにより、三つの資料保存機関において28点の資料の3Dデータを生成した。撮影と3Dデータ生成は交互に行い、資料所有者等がその場で確認できるようにした。作成者側は生成時の画像不足などを予防できる、資料所蔵者にとってはフォトグラメトリの手順が理解でき、生成された3Dデータの活用方法をその場で話し合えるなど、双方にメリットがあった。

●報告3「新しい地域資料の保存と継承に向けて:ボーンデジタル地域資料への着目から」/大月希望(東京大学大学院学際情報学府・合同会社AMANE)

  多様な地域資料のうち、個人所有のボーンデジタル資料は地域資料として認識されておらず、その特性も把握されていない。そこで、個人がスマートフォンで撮影した画像を対象にワークショップや聞き取り調査、X(旧Twitter)のハッシュタグを用いた画像の収集などに取り組んでいる。引き続き研究を進め、新たな収集・継承方法を提案したい。

●報告4「奥会津デジタルアーカイブ開拓記:地域データ保存・活用準備段階における課題」/榎本千賀子(新潟大学人文学部・奥会津デジタルアーカイブ準備室長)、櫻澤孝佑(奥会津振興センター)

  奥会津7町村が取り組む「奥会津ミュージアム」事業の一環として「奥会津デジタルミュージアム」の公開を目指している。2023年度はデータストレージの実装と一部資料の写真撮影と3Dデータの生成を行った。ITスキルやデジタル公開の考え方が異なる町村が協働することは困難も伴うが、顕在化した課題に事業参加者とともに取り組んでいきたい。

●報告5「自治体の統廃合による地域資料の保存・継承での現状と課題」/卓彦伶(北海道大学大学院文学研究院)

  旧朝日町の朝日郷土資料室は町民が町民のために整備し運営してきた。2005年に士別市と合併したが、運営方針と運営方式は変わっていない。担い手の高齢化が進むなか、これまでの志や活動をどのように継承していくのか、手助けできることを共同研究者と考えたい。

●報告6「Hu-Gene:地域デジタルデータは白い象とともに」 /佐藤琴(山形大学附属博物館)

  地域資料のデジタルアーカイブ化に取り組む人々に、理知をつかさどる普賢菩薩の功徳があまねくもたらされるようにとの願いを込め、筆者は本事業の名称に「ふげん」を提案した。それに対して堀井は「人間が生み出した(Human-Generated)」、「人間の遺伝子(Human Gene)」の意味をもたせたいとして、表記「Hu-Gene(ふげん)」を提案し、本事業は「Hu-Gene」と命名された。

●ディスカッション

  高田良宏(金沢大学学術メディア創成センター)がコーディネイターとなり、報告者全員でディスカッションを行った。まず高田から「各地域に一つのストレージというのは不必要にコストを増大させるだけ。クラウドサービスなど、適切な基盤を二つ使うほうが現実的ではないか?」との質問があった。それに対して堀井が巨大なサービスに依拠することのデメリットとして利用者側の要望が聞き入れられにくいことや、通信環境に左右されることなどを挙げた。この他に3Dデータ生成にかかる中間生産物である膨大な画像データの取り扱いや、地域資料データが災害時のデータバックアップとなる可能性など、さまざまな観点の意見が出された。

●閉会の挨拶/佐藤琴

  2024年度は、奥会津デジタルアーカイブなどにおいて2023年度にデジタル化した資料の公開を進めるとともに、北海道の自治体所蔵資料の調査に取り組む。また、地域資料のオープン化の最も大きな課題は、オープン化にかかる仕組み作りと関係者から理解を得ることであり、このメンバーと関心のある方々と進めていきたい。

Ref:
“学術シンポジウム開催のお知らせ”. AMANE.
https://amane-project.jp/post-1461/
山形アーカイブ.
https://cherry.yum-archives.net/yamagata-archive/
“奥会津DA準備室”. 奥会津ミュージアム.
https://okuaizu.design/post_katarite/okuaizu-da-junbi/