E1378 – 様々な創作活動を育む場所―メイカースペースを公共図書館に

カレントアウェアネス-E

No.229 2012.12.28

 

 E1378

様々な創作活動を育む場所―メイカースペースを公共図書館に

 

 「メイカースペース」を図書館に設置する動きが,米国で広がっている。メイカースペースとは,3Dプリンターなど普通にはなかなか利用できないハイテク機材も兼ね備え,立体モデルやデジタルコンテンツ,その他様々な創作活動を支援しようとする公共スペースのことである。この言葉は,日本でも導入例のあるファブラボ(FabLab)やハッカースペース(Hackerspace)なども含むものとして使われている。このメイカースペースを,一部の図書館が積極的に取り込もうとしているのである。

 最近オープンし,Library Journal誌2012年10月号の表紙を飾るなど話題になっているのは,コネチカット州のウェストポート公共図書館である。ウェストポート公共図書館では,2012年4月28日に「メイカーフェア」を開催した。このイベントには多くのスポンサーがつき,サウンドスーツのデモやGoogle SketchUpを使った3Dモデルの作り方講座などが催され,2,200人の参加があった。その予想以上の盛り上がりに,同館は地域の人々の創作活動への関心の高さを強く認識するに至ったという。そして,6月20日から7月2日にかけて図書館の閲覧室の中央に,音も筒抜けになりそうなメイカースペースを単管パイプで建造してしまった。このメイカースペース建造の様子は超高速早送りの32秒の動画にまとめられYouTubeにアップされている。この動きの中心となった同館のブライウァイス(Maxine Bleiweis)館長らは,米国図書館協会(ALA)が10月から実施しているメイカースペースをテーマとした連続ウェビナー(オンライン講座)の第1回で講師を務め,上記のような経緯や,ものづくりへの関心が改めて高まっている社会的背景を説明している。

 またデトロイト公共図書館の若者向け施設H.Y.P.E.(Helping Young People Excel)ティーンセンターのメイカースペースは,Arduinoのロボット作製キット,自転車の修理工具,デジタルカッター,はんだこてなどを揃えている。このメイカースペースは,それを活用したプログラムの提供で注目された。プログラムは,若者たちの学ぶことへの情熱を喚起することに焦点をあてたものであり,地元の専門家を講師に招き,創作活動を学ぶデイキャンプが複数開催された。そのテーマは多様であり,ロボットの作製を学ぶ「Arduinoロボット工学」,自転車の修理などを学ぶ「自転車技術キャンプ」,服飾のデザインと裁縫を学ぶ「服飾デザイン・裁縫キャンプ」などが開催された。

 このような米国の公共図書館のメイカースペース設置の動きの先駆けとなったのは,ニューヨーク州のフェイエットビル図書館である。そのきっかけは,シラキュース大学情報学大学院の学生であったブリトン(Lauren Britton Smedley)の提案型のリサーチペーパーだった。彼女は,公共図書館のイノベーションについてのクラスで3Dプリンターを知り,公共図書館に3Dプリンターなどを兼備したメイカースペースを作るというプロポーザルをまとめた。フェイエットビル図書館は,シラキュース大学にほど近く,同大学院の学生をインターン等として受け入れてきており,関係が深い。コンシダイン(Susan Considine)館長は,ブリトンの提案を気に入り,早速彼女を職員に採用してメイカースペース設置のプロジェクトにあたらせた。2011年春にメイカースペース“FabLab”を設置し,ポッドキャスティングに必要な機材などを揃え,そして研修室をラボに変え開館時間にはいつでも利用できるようにした。また,トランスリテラシー委員会を立ち上げ,メイカースペースに関連するプログラム作りや職員の研修などにあたるようにした。

 ブリトンは,メイカースペースの役割として以下の5点を指摘している。すなわち,(1)遊びと探求を促す,(2)インフォーマルラーニングを手助けする,(3)仲間同士の教え合いを育む,(4)コミュニティのメンバーを“利用者”としてではなく,“真のパートナー”として協力する,(5)消費に対立する創造の文化を築く,の5点である。その上で,メイカースペースは図書館のコミュニティとの関わり方を再考する機会だ,と述べ,シラキュース大学のランケス(David Lankes)教授の次の言葉を引用している。「ライブラリアンシップの目的は,知識と知識創造である。貴重な資源を費やすべきは,知識創造のツールであり,知識創造の結果ではない。」

 メイカースペースは,他の図書館でも導入が進み,また,カリフォルニア州の“ストーリーマップ”のようなアドヴォカシーツールの中でも現在の図書館の機能としてアピールされるなど(E1370参照),導入についての議論が起こっている。図書館の役割を情報の消費から創造へと転換させることを目指すメイカースペース設置の動向は今後も注目が必要であろう。

(関西館図書館協力課・依田紀久)

Ref:
http://fablabjapan.org/
http://www.forbes.com/sites/tjmccue/2011/11/15/first-public-library-to-create-a-maker-space/
http://www.fayettevillefreelibrary.org/about-us/services/fablab
http://www.westportlibrary.org/sites/default/files/webfm/files/attachments.restored/recommended/Library%20Journal%20article.pdf
http://www.alatechsource.org/blog/2012/10/archive-of-makerspaces-a-new-wave-of-library-services-westport-ct-public-library.html
http://www.youtube.com/watch?v=iZxaIh1H1AI
http://www.westportlibrary.org/services/maker-space
http://www.prlog.org/11983547-grant-awarded-to-the-detroit-public-library-develops-tomorrows-innovative-leaders.html
http://adlib2.com/?page_id=2
http://www.thedigitalshift.com/2012/10/public-services/the-makings-of-maker-spaces-part-1-space-for-creation-not-just-consumption/
E1370