E2185 – 2019年ALA年次大会におけるジャパンセッションの開催<報告>

カレントアウェアネス-E

No.378 2019.10.24

 

 E2185

2019年ALA年次大会におけるジャパンセッションの開催<報告>

ビジネス支援図書館推進協議会・豊田恭子(とよだきょうこ)

 

 2019年6月20日から6月25日にかけて,米国ワシントンD.C.で開催された米国図書館協会(ALA)年次大会(E2178参照)において,ビジネス支援図書館推進協議会(以下「BL協議会」)と図書館総合展運営委員会は共催で,日本の公共図書館事例の発表を行った。ALA事務局によれば,日本の公共図書館員が年次大会で自館のサービス事例を発表するのは恐らく史上初のことである。

 当日は,開始5分前には用意した120席がすべて埋まり,立ち見や座り込みが50人ほど出るという大盛況だった。漫画やアニメ,訪日などを通じて日本に関心をもつ人々が増えてきているという背景はあったと思う。しかし何より,セッション名「日本の図書館:革新的なアイディアで図書館を変革する―日本の公共図書館は,よりよいコミュニティの構築にいかに参画しているか(Japan Libraries: Transforming Libraries with Innovative Ideas – How Japanese Public Libraries Engage in Building Better Communities)」が,米国の多くの図書館関係者にダイレクトにアピールしたとみて間違いないだろう。

 これには,2年にわたる積み重ねが生きている。

 BL協議会では,2017年,2018年と2年連続でALA年次大会のポスター・セッションに参加し,日本の公共図書館における新たなサービスについて発表してきた(E1945E2054参照)。そこでは米国人をはじめとした世界の図書館関係者が,日本の実践をきわめてユニークで創意工夫に富んだものと高く評価し,「革新的だ」と表現してくれた人もいたため,私たちは日本の図書館サービスのレベルの高さに自信を深めていた。「革新的なアイディアで図書館を変革する」という「攻め」のタイトルを打ち出せたのは,こうした経験に裏打ちされてこそだった。

 またプログラム内容も,2017年からALAと協議を重ね,その関心傾向とシンクロさせるように工夫してきた。まず日本の公共図書館全体を俯瞰する総論を初めにおき,事例報告では「都道府県」「都市」「町村」の3つのレベルと,「ビジネス」「健康・医療」「街づくり」の3つの主題を組み合わせた。発表者の選定と折衝は2017年から始め,最終的には,「鳥取県立図書館の健康・医療サービス」「広島市立中央図書館のビジネス支援サービス」(E2152参照)「岩手県紫波町の街づくり」の3本を用意した。また発表は英語で行うこととし,発表者とは半年にわたり,内容の精査や準備を重ねた。

 発表ではまず,慶應義塾大学名誉教授・田村俊作氏が「イノベーションは日本の公共図書館をいかに変えたか(How Innovation Has Transformed Japanese Public Libraries)」と題して講演した。高齢化が日本の社会問題になっていること,そして予算削減や人員カットの中でも,日本の図書館ではウィキペディアタウン(CA1847参照),ビブリオバトル(CA1830参照),タヌキの分布図作成など知恵と工夫をこらした革新的取り組みが行われていることを紹介した。会場では熱心にメモをとる人や,スライド画面をスマホで撮影する人なども見られ,その関心の高さに驚かされた。ジョークにも大きな笑いが起こり,会場全体が熱い雰囲気に満ちているのが感じられた。

 次に紫波町図書館の手塚美希氏が「司書が人々をつなぎ地域のハブ(要)となる図書館を目指して(Towards a Library Where Librarians Are a Community Hub Connecting People)」として発表を行った。町の紹介ビデオを流すと,会場の目は釘付けとなった。その後も,町の人々を巻き込んだ展示のようすなどを美しい写真の数々で示し,人と情報,人と人をつなぎ,地域のデータバンクとして活動している日々を語った。ALAが推進する地域づくりの核となる図書館のモデルケースのような事例であり,しかもそれが農村地帯で行われている,ということに感銘を受けた参加者が少なくないようだった。

 3番目には,鳥取県立図書館の松田啓代氏が,「図書館を活用した認知症になっても暮らしやすい地域づくりサービス事例(Library Makes the Dementia-Friendly Community Where Everyone Lives Happily)」として登壇した。発表は,鳥取県立図書館で取り組んできた医療・健康情報サービス全般を踏まえ,特に高齢者の認知症予防サービスに焦点をあてた。これはALAから事前に日本の高齢者サービスに関心があると聞かされていたことを反映している。参加者の中にも,地元で徐々に増えてきている認知症の高齢者にどう対応するかに関心をもつ人が多かったとみられ,終了後にとったアンケートでは,紹介された「音読教室」についての反響や具体的質問が数多く見られた。

 最後に,広島市立中央図書館の土井しのぶ氏が,「夢の実現を支える図書館サービス(How Our Library Helps People To Realize Their Dreams)」について語った。市の関連部署と連携した起業支援や,高校生のビジネスプラン作成講座を紹介する内容で,手厚いサポート内容,数々の成果報告に会場から驚きの声があがった。日本のビジネス支援サービスは,米国の図書館事例をモデルとしてBL協議会が推進してきたものだが,日本の実践でも「本家」をしのぐレベルにあるものが生まれていることを印象づけた。

 いずれの発表も,周到な事前準備が実を結び,万雷の拍手で讃えられた。終了後に集めたアンケートでも,感動や称賛が伝えられた。

 今回の発表には,2つの成果があったと考える。1つは,日本の公共図書館の多様で高レベルなサービスを,米国はじめ世界の図書館関係者にアピールすることができたことである。2つめは,日本の公共図書館員自身が,国際的な会議での発表を体験し,米国の図書館や図書館員たちと実際に交わったことである。発表者にとっては,自館の取り組みを新たな目で見直すきっかけとなっただろうし,今後の図書館サービスを発展させるうえで,またとない貴重な経験を積んだことと思う。

 今回の事業はBL協議会が100万円を拠出し,不足分はクラウドファンディングを行うことで実現できた。せっかく生まれた国際交流を,今後につなげていきたいという思いはあるが,資金面の課題は残る。いつか公共図書館の国際交流が,安定的な財源のもとで,継続的に取り組まれるような日がくることを願ってやまない。

 詳しい報告会は,パシフィコ横浜で開催される「第21回図書館総合展」で,2019年11月12日に開催される。

Ref:
http://www.business-library.jp/activity/subcommittee/oversea/jbla-overseasresearch-h29reports/
https://readyfor.jp/projects/ALA2019japansession
E2178
E1945
E2054
E2152
CA1847
CA1830