カレントアウェアネス-E
No.372 2019.07.11
E2152
起業における図書館活用(2)ちいさなおはぎ屋はじめました
●1枚のチラシ(2014年)
50歳を過ぎた頃「70,80歳になっても夫婦で続けられる何かをしたい」と考えるようになった。
新たな人生目標を2人で模索していた頃,楽しみである松山千春のライブ前にふと広島市文化交流会館に立ち寄った。そこで何気なく手にした広島市立中央図書館(以下「図書館」)のビジネス相談会の1枚のチラシから「まず一歩!!」というフレーズが目に飛び込み,強く背中を押される気持になった。そのときからはじまった図書館のビジネス支援サービスとのかかわりについて紹介する。
●第一歩はビジネス相談会(2014年10月)
チラシを見て参加した相談会では,一般社団法人広島県中小企業診断協会の中小企業診断士,広島県信用保証協会職員,図書館の司書が,事業プランが不十分な状況にもかかわらず親身に相談に乗ってくれた。
・「起業に必要な準備」について
相談会では,事業のコンセプトを明確にし,事業内容を絞り込んで精査することが大切であることを学んだ。当初考えていたのは軽食店と雑貨屋が複合する事業であったため,参考にと年配女性が営む「巻きずし,おはぎ」に特化した店を,中小企業診断士から紹介してもらった。即日訪問し,やさしい味と店のあたたかい雰囲気に癒された。ニッチであるが「おはぎ」に絞り込めば成功する可能性があり,「おはぎ」で癒しを提供できると認識した。そこで,まずは「おはぎ」について調べる資料を提供してもらった。
・「事業計画の作成」について
相談会では,事業計画書の事例の提供も受けた。経営と資金の計画を見直しながら開業後のリスクが低くなるように工夫することや,市場や顧客層の分析によるターゲットの絞り込みが重要であることを学んだ。相談会で提供された『創業の手引き』(日本政策金融公庫発行)を参考に,事業計画の作成を進めた。「おはぎ」に特化した店舗で,身の丈を低く謙虚な気持ちを経営理念とし,その理念に基づいて屋号を「ちいさなおはぎ屋」と決めた。
●開業に向けて(2015年3月から7月)
55歳で早期退職し,開業に向けての本格的な準備がスタートした。
基本を学ぶ手段として,図書館の「ビジネス支援情報コーナー」で情報を得たセミナー等に参加した。開業の起点になったのが,図書館主催の「『広島で起業する!』を語ろう」というセミナーである。広島で起業し活躍している講師の奥原誠次郎氏の「創業は厳しい!しかし,そこには夢や希望が必ずある」という実体験から発せられる言葉には重みがあり,人生の夢とロマンを感じたことは無形の財産となった。
また,このセミナーをきっかけに広島市中小企業支援センター主催のセミナー「小売店の販売促進デザイン作成のコツ」(講師:納島正弘氏)に参加し,デザインの大切さと,商品の魅力を発信するために「商品の物語を作る」という具体的な手法を学んだ。
関連して,株式会社WOODPROの中本敬章氏の講演で,廃材にされる足場板を味わいある家具によみがえらせる事業から,発想の転換を学んだ。
これらをもとに,事業内容を「昭和を懐かしむレトロな雰囲気で「癒し」を提供し,風味と彩りのある品ぞろえで,こだわりの贈品にも対応する「ほっこり」としたおはぎの専門店」とした。
●立地の選定(2015年6月)
開業に向けて一番悩んで慎重に行ったのは立地選びであった。初期投資を抑え,集客がよい場所の選定は事業の展開において最重要課題である。このことで活用したのが,図書館に導入されている商用データベース「市場情報評価ナビMieNa(ミーナ)」であった。マーケット評価,居住者の年代構成,菓子類の購買力評価などの情報を得て,立地や商圏の特性を把握し,現地の視察から,「近所に幼稚園,小学校,公民館,八百屋があり,人の往来が多く活気があり親しみのある地域」であると確信し,現在の地域を選んだ。
●業界の情報収集から開業へ(2015年8月から11月)
次に,「おはぎ」の業界情報を図書館で調べて方向性を検証した。消費者支出は,抑制傾向にあるが,和菓子業界は堅調に推移している。特に「おはぎ」は健康食品としての認識が高く,手作りで作り立ての家庭的なものを食べたい人が多い。「おはぎ」には市場性があり,この選択は正しいと確信した。
そして2015年11月「ちいさなおはぎ屋」を開業した。
●地域を笑顔に(2019年6月)
開業から3年半が経ち,子どもからお年寄りまで幅広い年齢層からの来店がある。
また,広島市中小企業支援センターのサポートで,地元の大学生とおはぎの魅力を探求するため「創作おはぎの共同開発」を始めた。学生の取り組み姿勢と発想は勉強になり,地域の未来を担う若者を育てる手助けをすること,地元を盛り上げ,町の賑わいづくりに貢献するという「新たな目標」が定まった。
図書館の1枚のチラシから「第二の人生」がスタートし,一歩踏み出し,行動することで様々な人と出会い,貴重なアドバイスを得て誠実に方向を定めてきた。そして,人との繋がりが広がり「夢」が現実となった。今後は「おはぎ屋のおじいちゃん,おばあちゃん」と地元に愛され,地域が笑顔になるような店を目指して頑張りたい。
ちいさなおはぎ屋・中村明
Ref:
https://www.library.city.hiroshima.jp/search/business/
https://www.assist.ipc.city.hiroshima.jp/index.html