E2184 – 都城市の青少年の居場所とアイデンティティ形成の場づくり

カレントアウェアネス-E

No.378 2019.10.24

 

 E2184

都城市の青少年の居場所とアイデンティティ形成の場づくり

都城市立図書館(指定管理者:MAL運営共同事業体 代表企業 株式会社マナビノタネ)・
森田秀之(もりたひでゆき)

 

 2018年移転開館した都城市立図書館(宮崎県)には,青少年の居場所として,「ティーンズスタジオ」とその一角に「Fashion Lab.」が設けられている。本稿ではその設置の経緯と取組を紹介する。

●図書館環境と青少年の居場所

 子どもが放課後や週末に安全な場所で安心して過ごすために,児童館や公民館,それに類する施設に「子どもの居場所」がつくられてきた。ここから派生した中高生を中心とした活動の支援の場が「青少年の居場所」といわれるものである。

 2007年,筆者が「武蔵野プレイス」(東京都武蔵野市;E1829参照)の開館準備に加わった際,基本構想に図書館と併設して青少年の居場所をつくるとあった。そこで,青少年の居場所として運営されていた「ゆう杉並」(東京都杉並区)や「CAPS」(東京都調布市)を視察し,娯楽を含めた自由な活動風景や,学校に登校できない,働きに出ている親の帰りをひとりで待つといった背景となる子どもを取り巻く社会事情を知り,どのような子にも開かれていて安心して居られる場所という本質的な意味を考えた。また,専門家アドバイザーとして武蔵野市から委任されていた千葉大学教育学部准教授(当時)の新谷周平氏から,「宿題や会話,ゲームもOKで,何もしていなくても居られるような寛容さ」や「できるだけ大人と目を合わせることがない配置」などが重要だと聞き,一般的な図書館環境とは違う場づくりの考え方を持たなければならないと感じた。

 市内の中高生にヒヤリングすると,「図書館の中? 部活や塾,宿題もあって本を読む時間なんてない。行かない」といった答えが返ってきた。「本を読みなさいと言わない。宿題はもちろん,おしゃべりやゲームもいいとしたら,どう?」と聞くと「だったら行くかも」と答えてくれた。

 こうして2011年に開館した「武蔵野プレイス」には,青少年の居場所として一般図書エリアから離れた「ティーンズスタジオ」という自由な場を設置し,中高生が大勢やってくるようになった。

●都城市立図書館におけるアイデンティティ形成の場の挑戦

 2016年,都城市において,時代の波によって閉鎖された中心市街地の広大な元ショッピングモールの建物を転用し,新たな図書館とするプロジェクトに加わった。

 以前新谷氏から紹介されたロジャー・ハート著『子どもの参画』(萌文社)によれば,大人が行うような本格的な活動への参画が子どもを成長させる鍵であり,そのためには文化的なアイデンティティの表現をつくりあげることに集中する過程が必要であるという。では,本格的な活動をどうやって用意したらいいのか。同書には,自分の着る服を選んだり作ったりした経験のない子どもはコミュニティに参加する意欲に乏しいとの指摘があり,これができる場を実現したらいいのではないかと考えた。

 2018年4月,移転開館した都城市立図書館には,中高生が安心して居られるティーンズスタジオに加え,『子どもの参画』に書かれていたことを参考にした「Fashion Lab.」を実現させた。20人程度が,Tシャツやワンピース,バッグなど身につけるものの柄のデザインや,形,使い方を考え,シルクスクリーン印刷の手法を応用したプリントやミシン掛けなどができる本格的なアトリエ環境を整備した。

 「ファッションブランドデザインが生み出されていく研究工房」という設定をよりリアルにするために,手作業を活かした染めやプリントを施した服作りに定評があるファッションブランド「spoken words project」に監修を依頼した。spoken words projectは毎年「14歳のワンピース」という自身の心模様を絵柄に描いてオリジナルのワンピースをつくるワークショップを行っていて,まさに適任だった。

 開館から約1年半。Fashion Lab.では,「ファッションを作る楽しみ」「言葉を形にしてみよう ―手ぬぐいオノマトペ」といったワークショップを月2回程度のペースで開催し,自分の気持ちやさまざまな表現がプリントや洋服となって立ち現れることに目を輝かせる中高生の姿も増えてきた。しかし,すぐ横にあるティーンズスタジオにいる大勢の中高生に,ここが自分たちのアイデンティティの表現のひとつの場であること,それがひとや社会と関わり合う力につながっていくことをもっと知ってもらいたいと考えているが,なかなか容易ではない。スタッフは,目を引くような印刷物の作成,ワークショップ映像の上映,Instagramによる発信,館内の様子を見ながらの突発的なワークショップ開催など試行錯誤の日々である。活動に参加してくれた中高生同士の交流も見られるようになり,手応えは感じ始めている。

 図書館が,青少年のみならず子どもから大人まで,ひとりひとりがアイデンティティを持つことを応援していける場になるよう,スタッフとさらに挑んでいく。

Ref:
http://mallmall.info/library.html
http://mallmall.info/images/mall_pamphlet.pdf
http://www.musashino.or.jp/place.html
https://suginami-youth.jp
http://www.chofu-caps.net
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000003014056-00
http://spokenwordsproject.com
https://www.setagaya-ldc.net/program/456/
http://mallmall.info/event.html?no=1240
http://mallmall.info/event.html?no=1319
http://www.manabinotane.com
E1829

 

 

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