2020年4月に刊行された、米国の大学・研究図書館協会(ACRL)の“College and Research Libraries (C&RL)”のVol.81, no.3に、米国インディアナ大学-パデュー大学インディアナポリス校(IUPUI)のKyle M.L. Jones准教授を筆頭著者とする論文“A Comprehensive Primer to Library Learning Analytics Practices, Initiatives, and Privacy Issues”が掲載されています。
米国の学術図書館では、予算に見合った成果を執行部へ示す必要性と、図書館のどの取り組みやリソースが機関の使命や学生の成長に有益かを把握しようとする意図から、学生のデータを用いたラーニングアナリティクスが近年盛んに取り組まれています。ACRL等でもラーニングアナリティクスに関するイニシアチブが実施され、図書館内でのデータ収集拡大だけでなく、人口統計学的データなど他の大学内のデータと組み合わせることが奨励されています。しかし、こうした奨励は米国図書館協会(ALA)のような専門職としての倫理規定に完全に沿ったものではないことも指摘されています。
著者らはラーニングアナリティクスから得られた情報によって十分な決定を下すためには、図書館員がこの分野への基本的な理解を深め、近年の実践が図書館員の職務に及ぼす影響関係やプライバシーに関わる課題を明らかにすることが不可欠であるとし、文献レビューを試みました。文献レビューでは、実践の背景、米国を中心とした学術図書館における実施状況、新たに立ち現れた倫理上の問題、ラーニングアナリティクスに起因するプライバシーに関する課題の4つのテーマが扱われています。
著者らは文献レビューの結果に基づいて、図書館はラーニングアナリティクスから得られる利益とその実践が学生にもたらす危険を均衡させることを念頭に置くべきであるとした上で、図書館員はどのような行為が利用者のプライバシーを危険にさらすかを把握すること、分析への関心と得られる利益とを適切に均衡させるガイドラインを用意すること、適切なデータ収集・管理とラーニングアナリティクスのベストプラクティスが一致するように保証することの3点が必要である、と結論づけています。
Jones, Kyle M.L. et al. A Comprehensive Primer to Library Learning Analytics Practices, Initiatives, and Privacy Issues. College & Research Libraries, 81(3), 2020, p. 570-591.
https://doi.org/10.5860/crl.81.3.570
参考:
E2112 – 北米の研究図書館におけるラーニングアナリティクスの取組
カレントアウェアネス-E No.364 2019.02.28
https://current.ndl.go.jp/e2112
米・SPARC、高等教育機関向けに学術データとその基盤への出版業界の統制増大に対抗するためのロードマップを公開
Posted 2019年11月28日
https://current.ndl.go.jp/node/39612
EDUCAUSE、「ラーニングアナリティクスについて知っておくべき7つのこと」を公開
Posted 2011年12月20日
https://current.ndl.go.jp/node/19775
CA1654 – 情報倫理と図書館 / 後藤敏行
カレントアウェアネス No.295 2008年3月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1654