E1643 – JALプロジェクト2014:公開ワークショップ<報告>

カレントアウェアネス-E

No.274 2015.01.22

 

 E1643

JALプロジェクト2014:公開ワークショップ<報告>

 

 2014年12月11日,東京国立近代美術館において「海外日本美術資料専門家(司書)の招へい・研修・交流事業」実行委員会主催の公開ワークショップ「日本美術の資料に関わる情報発信力の向上のための提言」が開催された。本実行委員会(会長:加茂川幸夫東京国立近代美術館長)は,東京国立近代美術館のほか国立西洋美術館,国立新美術館,東京国立文化財研究所の委員からなり,「平成26年度文化庁文化芸術振興費補助金(地域と共働した美術館・歴史博物館創造活動支援事業)」により,海外日本美術資料専門家(司書)(Japanese-art librarian:JAL)を招へいして,研修,交流を実施した。

 2014年の6月以降,国際図書館連盟美術図書館分科会(IFLA-ALS),北米日本研究資料調整協議会(NCC),日本資料専門家欧州協会(EAJRS)等のメーリングリストにより公募情報を告知し,9月初旬に招へい者を選考した。その結果,7名のJALが11月末に来日し,10日間の東京,京都,奈良における研修,交流を経て,本事業のまとめとして,「日本美術の資料に関わる情報発信力の向上のための提言」を試みた。

 招へいプレゼンターの氏名(所属)と「提言のタイトル」は次の通りである。長谷川-Sockeel 正子(フランス国立ギメ東洋美術館図書館)「Vĕra Linhartováの仕事と蔵書から学ぶもの」,岩瀬可奈子(ハワイ大学マノア校美術学部)「海外における日本美術画像資料の利用促進に向けて」,カワイアイエア・藤田幸代(ホノルル美術館図書館)「アメリカ側から見た日本 収集?公開?そして未来へのビジョンは?」,吉村玲子(米国スミソニアン協会フリーア美術館図書館)「北米における日本美術研究と図書館:現況と課題」,足立アン(フリーランス)「1960-1970年代の実験映画とビデオ作品のアーカイブ,保存と配布:日本に適した取り組みと問題について」,平野明(セインズベリー日本藝術研究所図書館)「日沒處の日本美術図書館」,市川義則(パリ国際大学都市日本館図書室)「研究者の視点からの『提言』」。

 招へい者の提言に先立ち,実行委員の水谷が,JALの範囲と応募資格,本プロジェクトの概要を述べ,特にその目的を,(1)日本と海外のJALのネットワークを構築する,(2)海外のJALのネットワークを促進する,(3)日本の美術情報資料の基盤を客体化する,の3点に要約した。さらに近年の日本における美術関係資料・情報の基盤整備の進行があるにもかかわらず,必ずしも有効な情報発信がなされておらず,それは今回の招へい者においても日本の美術情報の基盤について十全には知悉されていないという現状にもあらわれているという趣旨の基調報告を行った。招へい者の提言に対しては,林理恵(国際文化会館図書室長)と小出いずみ(渋沢栄一記念財団実業史研究情報センター長)がコメンテートした。

 招へい者による「日本美術の資料に関わる情報発信力の向上のための提言」において,特徴的であったのは次の3点である。第一は日本美術の概説的研究書の外国語(とりわけ英語)への翻訳の必要性(長谷川,吉村)である。いまだに1970-80年代の翻訳書が米国における日本美術研究の入門的テキストとして利用されており,以後の研究成果を含んだ翻訳書の不在が日本美術の教育研究を阻害している要因であることが指摘された。第二は画像利用に関わるアクセスとユースのための環境整備の必要性(岩瀬)である。NCCによる「海外日本研究者の画像利用事情」に関わるシンポジウム(2008)等の取り組みがあるにもかかわらず,教育目的の画像利用などにおいて多くの課題があることがVisual Resources Librarianの立場から訴求された。第三は,欧米の美術関係機関においては学芸部門も図書部門も多くは東洋美術として括られて部局が設置されており,いわゆるCJK(Chinese-Japanese-Korean)が中核となるが,その中で,Jの専門職員が今世紀に入り多くのポジションにおいてCKに替わられている実態があること,その結果として日本美術の振興および研究に相対的遅延停滞の傾向のあることが,事例をもって示された(平野)。

 以上の3点は日本美術に限らず,海外の日本研究の全般において敷衍されることはコメンテート(小出)においても指摘されたように,今日重大な課題となっている。

 ささやかではあるが,日本美術の資料に関わる情報発信力を今後とも一層強化拡大する方策の一助として,今後とも多くの地域からの招へい者を得て,本JALプロジェクトを継続できることを願っている。

 なお,本プロジェクトの概要と公開ワークショップにおける招へい者,コメンテータの報告は,冊子としてまとめて刊行し,あわせて東京国立近代美術館のJALプロジェクトのサイトに2015年3月末を目途に公開する予定である。

東京国立近代美術館情報資料室長・水谷長志

Ref:
http://www.momat.go.jp/art-library/JAL/JAL2014_WS_v01.pdf
http://www.momat.go.jp/art-library/JAL/JAL2014.html
http://www.momat.go.jp/art-library/JAL/JAL2014_JPN.pdf
http://www.bunka.go.jp/bijutsukan_hakubutsukan/shien/kyoudou/pdf/h26_saitaku.pdf
http://www.bunka.go.jp/bijutsukan_hakubutsukan/shien/kyoudou/
http://www.shibusawa.or.jp/center/network/02_ncciup-01.html
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