E2218 – 第24回情報知識学フォーラム<報告>

カレントアウェアネス-E

No.383 2020.01.16

 

 E2218

第24回情報知識学フォーラム<報告>

合同会社AMANE・小川歩美(おがわあゆみ)

 

 2019年11月23日,第24回情報知識学フォーラムがITビジネスプラザ武蔵(金沢市)にて行われた。情報知識学フォーラムは情報知識学会が主催となり,毎年情報知識学に関わる様々なテーマを取り上げている。

 近年,特定の分野において研究データの公開・共有や再利用が進む。国内に現存する多種多様な歴史資料・文化財などの地域資料においては,研究資源だけではなく,社会的な振興・発展に資する文化資源としても注目されている一方,それらの保存・継承・活用には地域の少子高齢化・過疎化などの課題がある。これらの背景から,本年は「地域資料とオープンサイエンス~地域資料の継承と情報資源化~」をテーマにし,様々な立場から地域資料の継承と情報資源化に対する現状と課題を議論・共有した。本フォーラムでは4つの講演とディスカッション,ポスターセッションが行われた。

 堀井洋氏(合同会社AMANE)は「地域における学術資料の継承・活用の現状とオープン化への期待」をテーマに,文書資料の整理作業過程を実例とともに示し,資料の喪失を防ぐために地域資料を社会全体で共有することが大切であることを述べた。そのためにオープンサイエンスには,地域資料がいま,どのくらい存在するかという実在の把握・可視化とともに資料の価値の再定義が期待される,とした。

 次の後藤真氏(国立歴史民俗博物館)は「持続可能な地域資料のためのデータ化・オープン化を考える」をテーマに,国立歴史民俗博物館の資料保全などに関わる3つのプロジェクトとその連携基盤となる日本歴史資料データベース「khirin」を説明し,原資料とデジタルデータを残すことの重要性について述べた。大量のデータは単体の人・機関による保存ではなく,複数の機関による長期保存と相互発見のためのオープン化が必要であるとした。また,データを運用する主体は「人」であるため,今後は大量のデータを「人」が扱うモデルの構築について考えることが重要であることも説明した。

 次の講演では,黒田智氏(金沢大学)・吉岡由哲氏(岩手県文化振興事業団埋蔵文化財センター)が「地域史研究と歴史教育」をテーマに共同で発表した。黒田氏が大学で授業を担当する歴史学実習,両氏が地域で行っている研究調査について述べた。毎年行われる歴史学実習は,教員を目指す学生が実習の実施場所の研究者などから説明を受け,さらに地域住民への聞き取り調査を行う科目である。調査先へ研究データを渡すことや,紀要・講演などでの成果の公開といった地域への還元と,学生が直接歴史に触れられる教育の重要性が示された。

 最後の鳥居拓馬氏(北陸先端科学技術大学院大学)は「加賀友禅図案のデジタルアーカイブとそれを用いた学術研究」をテーマに,一点物である加賀友禅図案の下絵をスキャンし,デザイン画・意匠をアーカイブ化することについて説明した。加賀友禅図案は職人による手描きで作成される。それらをアーカイブ化することにより,技術継承の面では職人の暗黙知を知ることが可能になり,研究の面では,加賀友禅図案の文法が解明され,図案の自動生成が今後可能になるとした。機械学習・人工知能にはデータが必要なため,それらの活用が進むほどにデータの価値は高まるとした。データを集めるためには,問題意識や応用事例をデータとともに発信し,必要なデータを共有することが重要であると述べた。

 講演の後に参加者とのディスカッションが行われた。内容は(1)地域資料を取り巻く現状の認識共有と解決方法について,(2)資料の保存・継承について,(3)今後の展望,の3点である。資料喪失の具体的な現状を知ること,若い人材を育成すること,デジタルデータと原資料の両方を保存することが必要であり,それらにオープンサイエンスが生かされることが期待される,という指摘がなされた。

 今回のフォーラムでは地域資料を扱う研究者と情報の研究者の両面から地域資料の保存と継承について論じられた。そのなかで,オープンサイエンスに教育の新たな方法論が生まれる可能性があることや誰でも資料にアクセスできる公平性があることと並行して,地域資料に意識を向ける人を増やすために一度でも原資料に触れる経験が必要であることが論じられた点が印象的であった。地域資料の継承・活用のためには原資料とオープンデータのどちらか一方だけでなく,両方をともに保存・運用することが重要であると認識させられた。そのためにもこのように多様な立場からの多角的な議論ができる場が重要である。

 講演だけでなく,ポスターセッションでも地域資料と情報学など多様な分野のポスターが並んだ。これら講演,ポスターセッションの発表資料は情報知識学会のウェブページにて公開されており,ご参照いただきたい。

Ref:
http://www.jsik.jp/?forum2019
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