CA1925 – 大阪市立図書館デジタルアーカイブのオープンデータの利活用促進に向けた取り組み / 澤谷晃子

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カレントアウェアネス
No.336 2018年6月20日

 

CA1925

 

 

大阪市立図書館デジタルアーカイブの
オープンデータの利活用促進に向けた取り組み

大阪市立中央図書館:澤谷晃子(さわや あきこ)

 

1. はじめに

 大阪市立図書館は、2017年3月2日に当館デジタルアーカイブ画像の一部をオープンデータとして提供を開始した(1)。公共図書館では初の試みであり、新聞・雑誌等に取り上げられるなど多くの反響があった(2)。その後も、資料展示、インターネット上でのバーチャル展示「Webギャラリー」(3)での紹介、オープンデータ画像検索・加工講座の開催など、継続した取り組みを行っている。そうしたなか、2017年秋には、20年間継続してきた地域資料のデジタル化とその公開、また、今後のビジョンを示したことを評価され、Library of the Year(LoY)2017優秀賞を受賞した(4)。本稿では、LoY2017優秀賞受賞までの道のりと、以降のオープンデータ利活用促進に向けた取り組みを中心に紹介する。当館デジタルアーカイブの概要やオープンデータ化への取り組みについては、『図書館雑誌』2017年6月号および『専門図書館』2017年11月号に掲載されているので、あわせて参照していただきたい(5)(6)
 

2. 電子図書館機能の活用促進に向けた取り組み

 大阪市立図書館は、中央図書館を中枢とした情報・物流のネットワークを構築し、「いつでも、どこでも、だれもが課題解決に必要な情報にアクセス可能な“知識創造型図書館”」(7)を基本目標に掲げている。400万冊を超える蔵書と電子書籍、商用データベース、音楽配信サービス等の電子図書館機能を活用し、スケールメリットを生かしながら、市内全域に効果的かつ効率的なサービスを提供している。当館デジタルアーカイブも電子図書館機能の1つとして、市民向けの活用講座(8)の開催や、図書館や読書に親しんでもらうための期間限定イベント「としょかんポイント」(9)での関連クイズの実施等を通じて、かねてから利活用に向けて取り組んでいる。

 オープンデータ関連の展示・催し・広報については、図書館の目標はもちろんのこと、大阪市や国などの方針・動向等を見据えて戦略的に行っている。2017年2月23日、市長会見を皮切りに3月2日のオープンデータ提供開始の関連イベントとして図書展示「オープンデータ活用術」の告知を行った(10)。また、世界中の国や都市などの公共機関のオープンデータ政策をサポートし、公共データ利用を促進するために3月5日に世界で同時開催されたインターナショナル・オープンデータ・デイ大阪2017では当館オープンデータ画像を活用して、オープンデータに関心の高い参加者へのPRを行った(11)

 

図1 2017年2月23日大阪市長会見資料フリップ

 

3. LoY2017に向けて

 LoY2017の2次選考会までに、以下の2点を実施した。

 

3.1. オープンデータ利活用事例の紹介ページの公開

 2017年7月、当館オープンデータを活用した事例の蓄積を目的として、利用者からの情報収集のためのフォームを当館ウェブサイトに設置した。当館側で発見した事例の公開許可を依頼したところ、他の活用事例発見につながった例もあった(12)

 

図2 デジタルアーカイブオープンデータ利活用事例紹介ページ

 

3.2. 「「大阪市ICT戦略」に沿った図書館の今後のあり方」および「同アクションプラン」の公開

 図書館の情報化施策を大阪市の情報化施策(13)に位置付けるため、2017年6月に「「大阪市ICT戦略」に沿った図書館の今後のあり方」を策定、今後当館が取り組む内容を「同アクションプラン」により具体的なロードマップとして示した(14)

 2017年11月に第19回図書館総合展で実施されたLoY2017大賞の最終選考会では惜しくも大賞は逃したものの、選考委員からは、「大阪市ICT戦略」の方向性にあわせて実施したこと、戦略的にスピード感をもってやり遂げた実行力、20年以上にわたる継続性、「しつこく」続ける組織力などを評価していただいた。

 

4. LoY2017優秀賞受賞後の取り組み

4.1. OML48 チームHIKIFUDA(ひきふだ)選抜総選挙

 2017年11月からは、「OML(15)48チームHIKIFUDA(ひきふだ)選抜総選挙」を実施した。兵庫県の生野銀山の「GINZAN BOYZ」(16)にヒントを得て、引札(17)に描かれている人物等にニックネームとキャッチコピーをつけ、当館ウェブサイトからの投票を受け付けるとともに、図書館内にポスターを掲出し誰でもシールを貼って投票できるようにした。また、オープンデータ関連の講座の際に投票フォームにリンクするQRコードを紹介するなど、投票促進活動を行った。新聞・ラジオの取材もあり(18)、合計1,139票の投票があった。得票数が1位となり「センター」に選ばれた画像は、既に当館のエントランス付近で顔出しパネルとして展示しているほか、2018年のオープンデータ利活用促進のキャラクターとしてさらに活用していく予定である(19)

 

図3 OML48 チームHIKIFUDA選抜総選挙 広報ポスター

 

4.2. 総務省の地域情報化アドバイザー制度の活用

 2016年度に引き続き、地方のICT化への助言を行う総務省の地域情報化アドバイザー(20)としてアカデミック・リソース・ガイド株式会社の岡本真氏を招いた。ビジネスでのオープンデータの利活用の可能性等について助言を得たほか、本市職員向け研修で講義を行ってもらい、オープンデータはオープンガバメントを実現するための手段の一つであるということを再認識できた。また、2018年2月17日には、講演会「大阪市の図書館のオープンデータって何ですか?」(21)で、岡本氏にオープンデータの基本について、合同会社AMANE代表社員の堀井洋氏に先行事例についてそれぞれ紹介してもらい、今後の当館オープンデータの利活用の可能性について考える機会を得た。

 

4.3. 書誌情報データセットの提供開始

 デジタルアーカイブオープンデータコンテンツの書誌項目をデータセットで提供した(22)。これにより、画像表示画面の固定URLを生成することができる。

デジタルアーカイブオープンデータ以外にも、当館職員おすすめの児童図書リスト「こどものほんだな」に選んだ最新3年分の図書の書誌情報と紹介文、対象年齢等をオープンデータとして公開した(23)

 上記2種類のオープンデータは、2018年3月3日に開催されたインターナショナル・オープンデータ・デイ大阪2018での活用を見込んでの公開であった。今回は、アイデアソンを中心とした内容だったが、今後の活用の可能性を検討する良い機会になった。

 

4.4. ウィキペディアタウン・ウィキペディアエディタソンの開催

 「「大阪市ICT戦略」に沿った図書館の今後のあり方」では、市民協働の促進を目的に、ウィキペディアタウン(CA1847参照)の実施等の支援を明記した。

 LoY2017で優秀賞を受賞し、最終選考会で関わりを持ったことから、岡山県の瀬戸内市民図書館もみわ広場(E1986参照)とウィキペディアタウンの受賞館サミットとして、ウィキペディアタウン・ウィキペディアエディタソンを2018年3月に当館で実施することになった。実施に際しては、多くのウィキペディアン(Wikipediaの編集者)に助言・支援を得た。当日は多くの市民の参加があり、図書館資料はもちろん、当館デジタルアーカイブの中からたくさんのオープンデータを活用してもらい、当館オープンデータの有用性を示すことができたと考えている(24)

 

5. オープンデータ化とその反響

 当館デジタルアーカイブのオープンデータ化は、二次利用申請の事務の軽減及びコンテンツの一層の利活用推進を図ることを目的として開始した。2018年4月現在、約7,000点、画像にして約13万点を加工も商用利用も許容するクリエイティブ・コモンズ(CC)ライセンスにおけるCC BY 4.0で提供している。

 オープンデータ提供開始以降、画像データ活用についての問い合わせは増加しているものの、二次利用許諾事務処理件数は、2016年度は118件、2017年度は49件と半数以下に減少しており、大幅な事務の軽減に繋がっている。また、2017年度の当館デジタルアーカイブシステムへのアクセス件数は2016年度(4万3,495件)の約1.8倍になり、増加は顕著である(ただし、画像のダウンロード数は不明)(25)

 画像データの活用事例も広がりを見せつつある。主な事例としては、ラッピングバスや本市のイベントでの海外からの来賓への記念品、テレビ番組、イベントの広報チラシ、食品パッケージなどで利用されている。最近では、Linked Open Data チャレンジJapan 2017のデータセット部門にて最優秀賞を受賞した「小倉百人一首LOD」にも当館の画像が活用されている(26)。また、2018年4月からは読売新聞の地方面(大阪)で、週に一回、当館オープンデータを紹介する連載が始まった(27)

 

6. オープンデータの更なる利活用に向けて

 オープンデータの利活用促進には、2点を考慮する必要がある。まずは、オープンデータそのものを知ってもらう機会を作るということ。オープンデータを提供するだけに留まらず、様々な活用事例や活用方法を紹介することで、「自分には関係ない情報」と思っていたものが、身近に感じられる情報となり、また、加工や編集を自由に行うことで新たな大阪の情報や資源として発信することが可能である。当館が提供しているオープンデータは、近世・近代の写真や絵などわかりやすいものが多く歴史に触れる第一歩となりえるため、市民が大阪に愛着を持ち、まちづくりや情報発信に積極的に関わるシビックプライドの醸成につながればと考える。

 もう1点は、講座や展示の企画はもちろんだが、オープンデータ化を実施する際にも、どのような場で、いつ情報をオープンにすればよいかなど、明解な目標や目的をもって戦略的に行うことである。アピールする場や対象、タイミング、方法を考慮しながら計画することで、届けたい対象により効果的に情報を伝達できる。

 今後も、オープンデータ利活用推進については、次の一手を考えながら取り組み、多くの人に知っていただけるよう、「しつこく」継続していきたい。

 

(1)“大阪市立図書館が所蔵する昔の写真・絵はがき等デジタルアーカイブの画像をオープンデータ化します”. 大阪市立図書館. 2017-02-23.
http://www.oml.city.osaka.lg.jp/index.php?key=jojeh77qp-510#_510, (参照 2018-04-03).

(2)以下の通り、新聞等で取り上げられた。
ノスタルジック大阪、無料提供 著作権切れ写真など6000点 市立図書館. 朝日新聞. 2017-02-24, 夕刊[大阪], p. 2.
岡崎大輔. 写真、絵はがき無料でどうぞ 大阪市立図書館6000点ダウンロード. 毎日新聞. 2017-03-02, 夕刊[大阪], p. 10.
大阪ゆかりの画像、好きに使ってや 市立図書館、6000点無料提供. 産経新聞. 2017-03-08, 夕刊[大阪], p. 1.
市立図書館 絵・写真データ7000点 大阪のため 自由に使って. 読売新聞. 2017-04-04, 朝刊[大阪], p. 31.

(3)“Webギャラリー インターネット上のバーチャルなテーマ展示です”. 大阪市立図書館デジタルアーカイブ.
http://image.oml.city.osaka.lg.jp/archive/gallery.do, (参照 2018-04-17).

(4)LoY2017については以下を参照のこと。
“Library of the Year 2017”. IRI 知的資源イニシアティブ.
http://www.iri-net.org/loy/loy2017.html, (参照 2018-04-17).

(5)外丸須美乃. 特集, 図書館のデジタルアーカイブ活用促進:大阪市立図書館デジタルアーカイブのオープンデータ化の取り組み. 図書館雑誌. 2017, 111(6), p. 380-381.

(6)外丸須美乃. 特集, 情報流通の今後を考える:大阪市立図書館デジタルアーカイブについて オープンデータ化への取り組み. 専門図書館. 2017, 286, p. 30-35.

(7)“平成29年度大阪市立図書館の目標について”. 大阪市立図書館.
http://www.oml.city.osaka.lg.jp/?action=common_download_main&upload_id=16433, (参照 2018-04-17).

(8)講座「電子図書館de文楽再発見」は、「文楽」を題材に、電子書籍、商用データベース、デジタルアーカイブ、ナクソス・ミュージック・ライブラリーなど、大阪市立図書館で提供している電子図書館サービスの利用方法について紹介するものである。
“第20回大阪市図書館フェスティバル電子図書館 de 文楽再発見”. 大阪市立図書館. 2017-11-04.
http://www.oml.city.osaka.lg.jp/index.php?key=jo3f8m4c3-510#_510, (参照 2018-04-03).

(9)としょかんポイントとは、来館や、貸出に応じてポイントをためることで、よりいっそう図書館や読書に親しんでもらうためにおこなう期間限定のイベント。
“としょかんポイント”. 大阪市立図書館.
http://www.oml.city.osaka.lg.jp/?page_id=1586, (参照 2018-04-03).

(10)“[終了]【中央】2階ミニ展示「オープンデータ活用術」3月3日”. 大阪市立図書館. 2017-02-23.
http://www.oml.city.osaka.lg.jp/index.php?key=jobao1i6a-510#_510, (参照 2018-04-03).

(11)2017年度の前半の取り組みは、以下でも紹介している。
澤谷晃子. 特集, 地方公共団体における地域IoT実装・ICT利活用の取り組み:地域資料のデジタルアーカイブ化と利活用に向けた取り組み―オープンデータ化と今後のビジョンへの位置づけ―. KICC. 2018, 15, p. 7-11.
http://www.telecon.or.jp/uploads/1522626487_1.pdf, (参照 2018-04-03).

(12)“デジタルアーカイブ オープンデータ利活用事例の紹介”. 大阪市立図書館.
http://www.oml.city.osaka.lg.jp/?page_id=1636, (参照 2018-04-03).

(13)“情報化”. 大阪市.
http://www.city.osaka.lg.jp/shisei/category/3054-1-2-32-0-0-0-0-0-0.html, (参照 2018-04-17).

(14)“「大阪市ICT戦略」に沿った図書館の今後のあり方”. 大阪市立図書館.
http://www.oml.city.osaka.lg.jp/?page_id=1639, (参照 2018-04-03).

(15)Osaka Municipal Library(大阪市立図書館の英語表記)の略。

(16)“超スーパー地下アイドル「GINZAN BOYZ」公式サイト”. 株式会社シルバー生野.
http://www.ikuno-ginzan.co.jp/ginzan-boyz/, (参照 2018-04-03).

(17)引札は、商店が開店や売り出しの宣伝のために配ったもので、現在のチラシ広告にあたる。明治から大正初期にかけて数多く作られ、縁起物や当時の世相風俗を描いたもの、暦や時刻表がついているもの等、様々な種類がある。

(18)引き札 あなたの一押しは 大阪市立図書館が「総選挙」. 読売新聞. 2018-01-30, 朝刊[大阪], p. 26.

(19)投票結果は以下のページに掲載。
“デジタルアーカイブ オープンデータ利活用事例の紹介”. 大阪市立図書館.
http://www.oml.city.osaka.lg.jp/?page_id=1636, (参照 2018-04-03).

(20)“地域情報化アドバイザー派遣制度(ICT人材派遣制度)”. 総務省.
http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ictriyou/manager.html, (参照 2018-04-17).

(21)“[終了]【中央】「大阪市の図書館のオープンデータって何ですか?」”. 大阪市立図書館. 2018-01-16.
http://www.oml.city.osaka.lg.jp/index.php?key=jo2c9j77n-6714, (参照 2018-04-17).

(22)“デジタルアーカイブ オープンデータセット”. 大阪市立図書館.
http://www.oml.city.osaka.lg.jp/?page_id=1645, (参照 2018-04-03).

(23)“こどものほんだな”. 大阪市立図書館.
http://www.oml.city.osaka.lg.jp/?page_id=411, (参照 2018-04-03).

(24)開催に至る経過や運営、当日の様子は以下のページで報告している。
澤谷晃子. Library of the Year 2017優秀賞サミット『見る!やってみる!ウィキペディアタウン』を開催して. ACADEMIC RESOURCE GUIDE. 2018, 686.
http://www.arg.ne.jp/node/9282, (参照 2018-04-03).

(25)“大阪市立図書館の統計”. 大阪市立図書館.
http://www.oml.city.osaka.lg.jp/?page_id=447, (参照 2018-04-03).

(26)“小倉百人一首のオープンデータ画像リスト”. 一般社団法人リンクデータ.
http://linkdata.org/work/rdf1s6836i, (参照 2018-04-03).

(27)「大阪 面影さがし」というシリーズ名で連載されている。
[大阪 面影さがし](1)玉江橋景 四天王寺まで見えた. 読売新聞. 2018-04-07, 朝刊[大阪], p. 27.
[大阪 面影さがし](2)さくらの宮景. 読売新聞. 2018-04-15, 朝刊[大阪], p. 27.
“面影さがし”. 読売新聞.
http://www.yomiuri.co.jp/local/osaka/feature/CO033271/, (参照 2018-04-17).

 

[受理:2018-05-02]

 


澤谷晃子. 大阪市立図書館デジタルアーカイブのオープンデータの利活用促進に向けた取り組み. カレントアウェアネス. 2018, (336), CA1925, p. 5-8.
http://current.ndl.go.jp/ca1925

DOI:
https://doi.org/10.11501/11115314

Sawaya Akiko
Initiatives for Promotion of Open Data Utilization: The Osaka Municipal Library Digital Archives