E1986 – 市民が計画づくりに参画した瀬戸内市民図書館もみわ広場

カレントアウェアネス-E

No.340 2018.01.25

 

 E1986

 市民が計画づくりに参画した瀬戸内市民図書館もみわ広場

 

 2017年11月,先進的な活動を実践する図書館などを表彰する“Library of the Year(LoY)2017”の大賞とオーディエンス賞に,岡山県の瀬戸内市民図書館もみわ広場(以下,当館)が選ばれた。LoY(CA1669参照)は2006年,学識経験者らでつくるNPO法人「知的資源イニシアティブ」が創設したものである。12回目の開催となる2017年は,自薦,他薦による40の機関の中から,第1次・第2次選考を経て,3機関(当館・大阪市立中央図書館・ウィキペディアタウン(CA1847参照))に優秀賞が授与された。2017年11月8日,第19回図書館総合展のフォーラムとして最終選考会が実施され,審査員5人の投票による大賞と,来場者等の投票によるオーディエンス賞を当館が受賞した。本稿では,2010年度に本格始動した瀬戸内市の図書館づくりについて振り返るとともに,授賞理由となった「6年間に及ぶ的確な図書館整備プロセスとこれからの図書館サービスのモデルを示した」ことについて紹介をしたい。なお,「もみわ広場」という愛称は,「もちより・みつけ・わけあう広場」という当館の基本理念を表すものとして,全国公募で名付けられたものである。

●子どもたちに本のある広場を

 瀬戸内市の図書館づくりは,本と親しむことが私たちの思考という世界を広げると信じる市民が,「瀬戸内市の子どもたちに本のある広場を」と願い,学校図書館への司書の配置を求めたことから始まった。その結果,学校図書館が,子どもたちがいつでも利用できる司書のいる図書館となり,利用を飛躍的に伸ばした。これが大きな一歩となり,すべての市民が本と出会える公共図書館の整備を求める活動へと展開された。

 しかし,2004年に合併して成立した新しい市にふさわしい図書館の整備は,「新市建設計画」という政策文書にも掲げられていたものの,なかなか本格的な事業としては進展しなかった。合併前の旧3町それぞれに公民館図書室があるものの,約4万人という人口規模に見合った図書館がない状況が続く中,2010年に地元県紙に「県内市町村立図書館で住民あたり蔵書冊数,貸出冊数ワースト」という記事が掲載されるに至った。

 ようやく新図書館整備事業が動き出すこととなったのは,現在3期目の武久顕也市長が,2009年に図書館整備等を公約に掲げて当選してからのことである。

●市民の声に,行政,議会が応えたこと

 「瀬戸内市に図書館を」と願う市民は2010年,「整備計画策定にかかる情報公開」,「図書館整備プロセスへの市民参加」,「館長候補者の公募」を掲げて,市長及び議会に要望書を提出した。それが議会に採択され,実現のための政策立案が真摯に進められた。

 市では,2010年に新図書館整備検討プロジェクトチームが発足し,2011年には館長候補者として筆者が着任,「新瀬戸内市立図書館整備基本構想」を策定した。また,2011年10月には移動図書館の保育園,幼稚園への巡回を開始した。2011年11月には市民の声を整備計画に活かすためのワークショップ「としょかん未来ミーティング」を開催し,「新瀬戸内市立図書館整備基本構想」への市民の意見を聞き取って,2012年の「新瀬戸内市立図書館整備基本計画」へと具体化させた。「静かな空間でゆっくりと読書を楽しみたい」という要望と,「カフェもあり,市民が交流できるにぎわいのスペースが欲しい」という相反する願いや,「おしゃべりしながらグループ学習ができる部屋が欲しい」,「Wi-Fi環境を整備して欲しい」,「親子づれでも気兼ねなく利用できる空間にして欲しい」などの具体的な要望を「新瀬戸内市立図書館整備基本計画」としてまとめていったのである。

 この計画を,設計者選定プロポーザルの要件書として提示し,2013年に設計者が決まってからは,これまでのワークショップでの意見をすべて伝えて「基本設計」を作成してもらった。その「基本設計」の図面をさらにワークショップで検討し,最終的な2014年の「実施設計」へと仕上げていった。このような過程を経て,2016年に新図書館が開館した。

●「もちより・みつけ・わけあう広場」をめざして

 市民と行政が真摯に向き合い,意見交換をし,納得のいく整備計画を積み上げていった。議会からは,新図書館だけでなく,市内他地域の図書館も含めた市立図書館全体の環境整備をという的確な指摘もなされた。市民がこの瀬戸内市で暮らし,未来を夢見て生きていく時に,なくてはならない図書館になるために,「もちより・みつけ・わけあう広場」というコンセプトを立ち上げた。市民が,それぞれに持っている知りたいことを「もちより」,そのヒントや答えを「みつけ」,その気付きや学びを他の市民とも「わけあう」,そうした知の連帯のある居場所を「もみわ広場」として育てたいと願ったのである。

 瀬戸内市では,公共図書館としての「資料提供」や全域サービス等,総合性を重視した図書館づくりを進める一方,地方自治体図書館として,まちづくり活動につながるサービスや地域の歴史や文化を大切にした資料情報提供サービスを目指してきた。それは,市民の諸課題を解決するための分かりやすいテーマ展示や,郷土の文化財を図書館資料と融合的に展示するMLAK連携として展開した。こうした取り組みが,「これからの図書館サービスのモデルを示した」との評価を受けたのだとすれば,大変ありがたいことである。

 今後も,「市民の,市民による,市民のための図書館」となるよう,協働による図書館づくり,まちづくりを進めていきたい。

瀬戸内市民図書館もみわ広場・嶋田学

Ref:
http://www.iri-net.org/loy/loy2017.html
http://lib.city.setouchi.lg.jp/setouchi_lib/index.html
http://lib.city.setouchi.lg.jp/SHISETSU/MOMIWA3.HTM
https://doi.org/10.20628/toshokankai.64.6_424
CA1669
CA1847