CA1669 – Library of the Year -良い図書館を良いと言う- / 田村俊作

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カレントアウェアネス
No.297 2008年9月20日

 

CA1669

 

Library of the Year -良い図書館を良いと言う-

 

 2006年、NPO法人知的資源イニシアティブ(IRI)は「Library of the Year」(以下「LoY」という。)という事業を始めた。毎年開催される図書館総合展のフォーラムの一つとして行われているこの企画は、幸い好評を得て、第3回にあたる2008年度は、総合展初日の11月26日(水)午後3時~5時に最終選考が予定されている。また、その前後に関連企画もある。

 本稿では、LoYの概略を紹介し、図書館に対して賞を授与することの意義について、内外の事例を見ながら簡単に検討してみたい。なお、本稿で表明する見解は筆者の個人的見解であることをお断りしておく。

 

1. 学習へのアクセス賞

 公共図書館等に対する国際規模での賞としては、ビル&メリンダ・ゲイツ財団による「学習へのアクセス賞」(Access to Learning Award:ATLA)(1)がある。同財団のグローバル図書館計画(Global Libraries Initiative)の事業の一つで、米国以外の公共図書館や同種の組織のうち、コンピュータとインターネットを無料で提供し、ひとびとと情報とをつなぐための革新的な活動を行っているものを対象としている。賞金は100万ドル。過去4年間の受賞館は次のとおりで、発展途上地域や少数民族を対象とした活動に主に授与され、実質的な資金援助となっているようである。

  • 2008年 ヴァスコンセロス・プログラム(メキシコ)(2)
  • 2007年 ノーザンテリトリー図書館(オーストラリア)(E691参照)
  • 2006年 READネパール(米国のNGOであるREADのネパール支部)(E559参照)
  • 2005年 シデュライ・スワニバル・サングッサ(バングラデシュのNGO)(E374参照)

 

2. 全米博物館・図書館サービスメダル

 一方、世界各国で与えられている賞となると、あまりにも調査の範囲が広すぎて追いきれないので、ここではLoYと同名の「Library of the Year」がある米国に絞って紹介しよう。

 「全米博物館・図書館サービスメダル」(National Medals for Museum and Library Services)は米国博物館・図書館サービス機構(IMLS)が授与する全国レベルの賞である。かつては「IMLS全国賞」と呼び、1994年に始まった博物館部門と2000年に始まった図書館部門(National Award for Library Service)とを持っていたものを、改称・拡充した。賞金1万ドルが授与される。第1回となる2007年は、ジョージタウン・カウンティ図書館、フンボルト・カウンティ図書館キム・ヤートン分館、メンフィス公共図書館情報センター、ニューベリー図書館、オーシャン・カウンティ図書館の5館が図書館部門で受賞した(3)。また博物館・図書館への熱心な擁護活動を称え、ローラ・ブッシュ大統領夫人に、新しく鋳造された1枚目のメダル(The First National Medal)が贈られた。授賞式での祝辞でローラ夫人は「かつて図書館司書であり、また、現に博物館に住んでいる人間として」と笑わせた後に、本授賞式はホワイトハウスで行われる行事の中でも好きなものの一つだと語っている(4)

 

3. 米国のLibrary of the Year

 米国のLibrary of the Yearはライブラリー・ジャーナル誌と参考図書出版で知られるゲール社の共催事業として1992年に始まった。全米の公共図書館から毎年1館を選び、米国図書館協会(ALA)年次総会の場で授賞式を行う。受賞館は賞金1万ドルを受け取るとともに、ライブラリー・ジャーナル誌の表紙を飾ることになる。2008年の受賞館はワイオミング州ララミー・カウンティ図書館である(E803参照)。同賞の選考基準では、革新的なサービスの提供、利用の劇的な増加、他館の模範となるようなプログラムの開発と実施などが挙げられている(5)

 米国にはこの他に、同じくライブラリー・ジャーナル誌とビル&メリンダ・ゲイツ財団の共催事業である「最優秀小規模図書館賞」(Best Small Library in America Award)などの全国規模の賞や、各州の図書館協会が授与する賞など、実にさまざまな賞がある。

 

4. 日本のLibrary of the Year(LoY)

 わが国のLoYを企画・実施しているのはIRIの中でも図書館コンサルティング・タスクフォース(LTF)と呼ばれるチームである。IRIは図書館、博物館、文書館などを地域の知的資源ととらえ、知的資源を中核とする地域社会作りについての提案を行うことを目的としている。LTFは図書館に関する提言やコンサルティング活動を担当しており、2008年8月現在の座長は大串夏身昭和女子大学教授である。図書館を社会の知的基盤ととらえようとする点は一致しているものの、その具体的な展開方策や目指す方向について、メンバー間で見解が一致しているわけではない。むしろ、LTFの活動を通して図書館のあり方について議論してゆくこと自体も、LTFの活動の一つであると認識している。

 LoYはこうしたLTFの事業の一つである。その狙いは、これからの公共図書館のあり方を示唆するような先進的な活動を行っている機関を表彰することで、以下の3点を選考基準として示している。

  • 今後の公共図書館のあり方を示唆する先進的な活動を行っている。
  • 公立図書館に限らず、公開された図書館的活動をしている機関、団体、活動を対象とする。
  • 最近の1~3年間程度の活動を評価対象期間とする。(6)

 選考手順は、まずIRIのメンバーからの推薦を受けて、選考基準に合致しているかどうかについての粗い第1次選考を行う。そこで残った機関・団体について、6月下旬にLTFのメンバーが集まって第2次選考を行って優秀賞4機関・団体を選出する。図書館総合展において、優秀賞の4機関・団体を対象にフォーラムの参加者とともに最終選考を行い、大賞1機関・団体を選出する。2007年からは、大賞の他に、図書館総合展来場者の投票により、会場賞も授与されるようになった。

 過去2回の受賞機関・団体は次の通りである。

  • 2006年 大賞:鳥取県立図書館
  • 2007年 大賞:愛荘町立愛知川図書館
        会場賞:静岡市立御幸町図書館

 2008年は恵庭市立図書館、絵本カーニバル、ジュンク堂書店池袋本店、千代田区立千代田図書館の4機関・団体が優秀賞に選ばれ、最終選考に残っている。

 2008年の優秀賞受賞機関・団体が端的に示しているように、LoYの受賞対象機関・団体は公共図書館に限定されていない。公共性・公開性を備えていることを条件に、公共図書館以外の機関・団体も視野に入れている。また、評価のポイントも「今後の公共図書館のあり方に示唆を与える活動をしている」ことに置いており、単なる優秀公共図書館の表彰にはしていない。

 このように選考対象と選考基準を定めている理由は四つある。第1に、公共図書館の今後の方向性を考える上でヒントとなる活動を積極的に発掘したいと考えたこと、第2に、発掘するプロセスの中で、IRIおよびLTFのメンバー間で、今後の公共図書館のあり方について積極的かつ具体的な議論の場を持ちたいと考えたこと、第3に、こうしたIRIの議論と見解を広く関係者・国民一般に提示し、対話を通じて今後の公共図書館の方向性を明らかにしたいと考えたこと、第4に、公共図書館の今後の方向性に対して示唆を与える活動は、公共図書館界の外にもあると考えたこと。

 IRIの内部で議論する時間を大切にしたいために、現在のところ第2次選考までは非公開にしている。つまり、第2次選考まででIRI内部での見解を整理し、議論の観点を定めた上で、最終選考においてそれを提示して議論を掘り下げ、図書館総合展の参加者とともに今後の公共図書館のあり方について考えたい、ということである。

 わが国にも文部科学省による子どもの読書活動優秀実践図書館表彰や日本図書館協会建築賞など、公共図書館に関わる賞がないわけではない。しかし、LoYは公共図書館の今後に向けたIRIからの提言、という点で、独自の意義を持っていると言えよう。さらに、授賞は、図書館に対する評価と、その結果を国民一般にPRする効果を持つとも考えられる。

 図書館に対する賞は、学習へのアクセス賞のように、賞金が図書館振興にとって無視できないものとなることもあれば、顕著な実績の承認、有識者による優秀性の評価、図書館を外部にPRする絶好の機会、といったさまざまな効果を持つこともできる。賞の持つ意義を理解し、活かす知恵と工夫があれば、こうした賞は図書館界の発展にとって効果的な手段となるに違いない。

慶應義塾大学:田村俊作(たむら しゅんさく)

 

 

(1) “Access to Learning Award”. Bill & Melinda Gates Foundation.
 http://www.gatesfoundation.org/GlobalDevelopment/GlobalLibraries/AccessLearningAward/, (参照 2008-08-14).

(2) “Increasing Access and Opportunity in Rural Mexico”. Bill & Melinda Gates Foundation.
 http://www.gatesfoundation.org/GlobalDevelopment/GlobalLibraries/AccessLearningAward/2008Award/default.htm, (参照 2008-08-15).

(3) “Five Libraries Win IMLS Awards”. American Libraries. 2008-01-15.
 http://web1.ala.org/ala/alonline/currentnews/newsarchive/2008/january2008/imlsawards.cfm, (参照 2008-08-15).

(4) “Mrs. Bush’s Remarks at the National Medals for Museum and Library Services Ceremony”. White House. 2008-01-14.
 http://www.whitehouse.gov/news/releases/2008/01/20080114-4.html, (参照 2008-08-08).

(5) “Press Room: Library of the Year Award”. Gale.
 http://www.gale.cengage.com/press_room/library_of_the_year.htm, (参照 2008-08-08).

(6) “Library of the Year (LoY) とは”. NPO法人知的資源イニシアティブ.
 http://iriweb.fc2web.com/forum/loy08.html#aboutloy, (参照 2008-08-08).

 


田村俊作. Library of the Year -良い図書館を良いと言う-. カレントアウェアネス. 2008, (297), p.2-3.
http://current.ndl.go.jp/ca1669