E2180 – その先の,道へ:図書館総合展フォーラム2019in札幌<報告>

カレントアウェアネス-E

No.377 2019.10.10

 

 E2180

その先の,道へ:図書館総合展フォーラム2019in札幌<報告>

市立小樽図書館・鈴木浩一(すずきこういち)

 

 2019年7月6日,札幌市において2019年2回目の図書館総合展地域フォーラム(CA1944参照)が開催された。北海道で初めての開催である。会場は2018年10月にオープンした札幌市図書・情報館であり,都市部のビジネス支援に特化した同館が紹介され,実際に見学できるとあって,224人(主催者発表)の参加者があった。

 フォーラムの内容は,第1部報告「札幌市図書・情報館に学ぶ新しい図書館の方向性」,第2部「協賛社プレゼンテーション」,第3部パネルセッション「その先の,道へ。北海道の図書館」の構成であった。第1部のテーマである札幌市図書・情報館の取組については,当日の報告者である同館館長の淺野隆夫氏の詳細な報告(CA1953参照)があるので,そちらを参照してもらうとして,第3部のパネルセッションについて報告する。

 まず,司会の神代浩氏(文部科学省大臣官房付)から,地域の課題解決のための図書館の活動を考えるために,北海道庁のキャッチフレーズである「その先の、道へ。北海道」をパネルセッションのテーマとして選んだ経緯の説明があった。その後,面積の広い北海道の図書館活動を支援する北海道立図書館,地域との連携をキーワードに取り組む道内の市立小樽図書館と滝川市立図書館の取組についてその事例を参考に,今後の図書館運営を考える内容となった。

 北海道立図書館利用サービス部長の伊藤信彦氏からは,他の都府県と比べて,人口減少・高齢化が著しい北海道の現状と,北海道の市町村立図書館設置率が55.9%と全国平均よりも低い状況の報告があった。さらに,同館が行った展示の資料リストの提供や,市町村立図書館が参加してのデジタルライブラリーの構築など主として個々の事業の取組が紹介された。

 市立小樽図書館長の筆者からは,従来の貸出中心の運営から,図書館機能を生かした課題解決のための運営方針をつくり,企画グループを立ち上げたこと,そして積極的に外に出て大学,博物館・文学館等の社会教育施設,小樽市ならではの水族館・海上保安庁等との「連携」による取組に力を入れていることを報告した。事例として,小樽が舞台の漫画『聖樹のパン』に注目して小樽商科大学生との連携により実施した,漫画や映画等の舞台を活用し観光振興を図るコンテンツツーリズムとしての資料展示・冊子作製・イベント参加などの取組が,市による聖地巡礼ショートムービーの製作やパンの紹介などブレッドツーリズムの推進の施策に結びついたことを紹介した。

 滝川市立図書館長の深村清美氏からは,全国的にもめずらしい既存の市役所の2階への図書館移転について報告があった。コンパクトシティ,公共施設の集約化の流れでの移転であったが,市役所内に入ることにより,連携をキーワードに積極的に行政各部局に働きかけ,市の事業をサポートする資料展示などの連携が生まれたという。また,市の中心部への移転をきっかけに,商店・病院・大学等との連携事業が大きな広がりを見せている。年間資料展示回数212回のうち,連携によるものが120回もある。市立病院との連携では,作業療法による本のしおりづくりや,商店街との連携を図るまちなか連携では,それぞれの店の紹介と店主のおすすめの本を図書館員が取材し,展示コーナーを作成するなどまちの活性化にも取り組んでいる。人と人がつながることで,旧館に比べ,市民の利用が4倍に増えたという報告が印象的であった。

 広い北海道の図書館にとって,今回のフォーラムのように新しい図書館や活動の報告,協賛社の機器・データベースなどの最新の情報の紹介や,他の都府県との情報交換は貴重な機会であり,図書館を変えていくのはやはり人であるとも再認識をした。道内は広く,市町村間の距離があるため,市町村を超えた資料提供や,研修などの人的交流が難しいこともあり,地域ごとで,自主的な研修などの人的交流を図っている。そのなかで,北海道立図書館の果たす役割は大きい。パネルセッションのなかでは,残念ながら北海道立図書館の報告にはあまり触れられていなかったが,市町村の図書館をつなぎ,支援する今後の取組に期待したい。なお,パネルセッションの記録動画がYouTubeで公開されている。

 フォーラムの翌7日,関連行事として,道内の図書館員や関係団体が呼び掛けて立ち上げた北海道図書館研究会が開催された。内容は,「1 北海道学校図書館 実情と取組み」,「2 危機対策~今,この瞬間にこそ考えたい,胆振東部地震報告と共に熊本地震による地震対策と,夕張財政破綻による図書施設の実情と未来~」,「3 本屋のかたちがみえてきた(1万円選書で話題のいわた書店」,「4 企画と知恵で広がる・繋がる~必見の実例満載レポート(小樽市・滝川市・幕別町)」と,図書館関係者だけでなく,書店・ブックカフェ・教育関係者も参加して,9時30分から17時までの長時間にわたる充実の研修となった。詳細は北海道書店ナビウェブサイトの第435回ルポを参照してほしい。

Ref:
https://www.libraryfair.jp/news/8321
https://www.youtube.com/watch?v=NJ6vVqigNeQ&feature=youtu.be
http://www.core-nt.co.jp/syoten_nav/archives/13833
CA1944
CA1953