カレントアウェアネス-E
No.321 2017.03.09
E1893
図書館総合展における学生のための展示ブースツアー
年間1万人が司書資格を取得する一方で,司書として就職できる学生は決して多くはないことが指摘されている。もちろん資格を取ることと就職は必ずしも一対一の関係ではなく,司書資格取得を通じて教養を身につけたり,生涯学習時代に対応したスキルを身につけたりすることも,司書資格取得のメリットである。それでも資格の先にはどのような世界が広がっているのかを学生に説明することは,大学の司書課程担当者にとって悩ましい問題の一つである。
そうした問題の解決策として取り組まれている一つの活動がある。それは図書館総合展運営委員会主催の「図書館業界・出版界に関心をもつ学生のための展示ブースツアー」(以下,「学生ツアー」)である。
図書館総合展は図書館業界の主要企業,学術・専門書出版社等が一堂に会する展示会で,約100枠開催されるフォーラムと合わせ,会期中3万人以上が参加する,日本の図書館業界では最大のイベントとなっている。
図書館総合展は数多くの企業が出展しており,就職を考えている学生にとっては業界研究の格好のチャンスとなる。しかしながら図書館業界について十分知識のないまま,企業ブースを回って情報を得ることは難しい。大学によっては教員がゼミ所属の学生を連れて訪問したり,コミュニケーションブースに出展する大学教員が学生の案内を行っていたりしたこともあったが,あくまでも個別の取り組みにとどまっていた。
図書館総合展をはじめとする見本市や展示会のそもそもの目的は,ブース出展者の顧客に対するアピールである。ただし,図書館総合展ではそれと同時に図書館業界全体を盛り上げるために,訪れる学生に対してのホスピタリティにも力を入れてきた。図書館総合展運営委員会でも,図書館業界にとって将来の仲間になるかも知れない,将来の顧客になるかも知れない人たちを大切にしたいという共通認識が形成されていた。そのような流れの中で,懇親会イベント「図書館総合展大交流会」への参加を学生に積極的に呼びかける,館種別に設けられていた参加者証のカテゴリに「学生」を追加する,などの配慮が行われてきた。
これらの流れを受けて,都留文科大学の日向良和准教授から図書館総合展運営委員会の主催として「学生ツアー」を実施できないかとの提案が行われ,2014年7月および8月の図書館総合展運営委員会の会議で検討が行われた。その結果,2014年度の第16回図書館総合展において「学生ツアー」を実施することが決定された(なお,筆者は運営委員会の一員として第1回目から運営に携わっている)。以降,2015年度,2016年度ともに開催され,恒例のイベントとなっている。「学生ツアー」の目的は,下記の3点である。
- 1.図書館総合展による,学生に対するホスピタリティの確保
- 2.図書館総合展による,学生のキャリア支援
- 3.図書館総合展出展企業の社会貢献の機会の提供
実施内容は年度によって異なっているが,図書館総合展に来場する学生を対象に希望者をあらかじめ募り,申込み時点で10名から20名程度のチームを作った上で,司書課程や司書教諭課程を担当する大学の教員がボランティアとして,解説を加えながら5から6の展示ブースを引率していくという方法は共通している。大学の教員が引率することによって,図書館業界に対してそれほど経験や知識がない学生であっても,解説を聞きながらおよその全体像を把握することが可能になっている。
参加者アンケートの結果によれば,過去3年間の参加者数はそれぞれ,113名,218名,151名となっている。特に2015年度には全国60の大学からの参加者があった。1大学でまとまって10名以上が参加するパターンもあれば,1大学1名での参加のパターンもあり,特に大学のゼミが図書館情報学専攻でない学生にとってはこのツアーが図書館総合展参加のきっかけとなった例もあったようである。参加者からも,「ツアーという形で様々なブースを回ることができ,会場内を歩くきっかけとなった」,「大企業だけではなく,小さな規模の企業でもとても魅力を感じた」などの声があり,就職活動のための業界研究の場として活用している様子がうかがえる。
実施上の課題は,引率者の確保,訪問先ブースへの事前調整など数多いが,参加者の満足度が高いこともあり,図書館や出版に関わりたいと希望する学生のために,今後も「学生ツアー」を継続して実施していきたいと考えている。
最後になるが,「学生ツアー」の取り組みを図書館の広報誌等で紹介をしてくださった大学や各団体の皆様,展示ブースで快く受け入れて頂いた各企業,団体の皆様には,この場を借りて深く御礼申しあげたい。
白百合女子大学基礎教育センター・今井福司
Ref:
https://www.libraryfair.jp/news/5151
https://www.libraryfair.jp/news/3032
http://2014.libraryfair.jp/node/2460
http://librarius.hatenablog.com/entry/2015/04/01/073000
http://librarius.hatenablog.com/entry/2014/10/14/230407
http://www.jslis.jp/mm/mm-282.txt
http://repository.tku.ac.jp/dspace/bitstream/11150/10025/1/TD-07.pdf
http://libweb.toyoeiwa.ac.jp/lib/_libnews/libnews_015.html
https://www.iwate-pu.ac.jp/51%E5%8F%B7(2014.12.1).pdf