E2392 – AXIES-JPCOAR研究データワークショップ<報告>

カレントアウェアネス-E

No.414 2021.06.10

 

 E2392

AXIES-JPCOAR研究データワークショップ<報告>

大学ICT推進協議会研究データマネジメント部会・青木学聡(あおきたかあき)

 

  オープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR;E1830参照)研究データ作業部会と大学ICT推進協議会(AXIES)研究データマネジメント部会(E2308参照)は,2021年2月19日に「AXIES-JPCOAR研究データワークショップ」をオンラインで開催した。JPCOARとAXIESは,それぞれ,図書館あるいは情報基盤の立場から,大学等学術機関の教育研究支援を検討する団体である。特に,研究データマネジメント(RDM;E2241E2308CA1818参照)の組織展開に関する課題に積極的に取り組み,JPCOARが研究データ作業部会を2016年,AXIESが研究データマネジメント部会を2017年に設置している。さらに2020年7月には,両部会間の交流と連携の強化を目的とし,AXIES-JPCOAR研究データ連絡会を設置した。本ワークショップは本連絡会を中心として,企画・運営された。

  新型コロナウイルス感染症の影響もあり,ワークショップは完全オンラインで開催され,約60人が参加した。実施に当たっては,参加者が積極的に議論に参加できること,図書館と情報基盤関係者の相互交流の場となることを期待し,4つのサブテーマを設定,参加者がいずれかのサブテーマに参加することとした。

  テーマ1.「RDM用語をどのように説明するか」では,大学内外のさまざまなステークホルダー間の調整が必要とされるRDMにおいて,用語の整理や共通理解が進んでいないことを認識し,今後の方策を検討した。RDMの根幹をなす「研究データ」「研究データポリシー」「リポジトリの分類,役割」「データの公開,共有」といった見かけ上平易でありながら,概念の説明が難しい用語やトピックを取り上げ,各ステークホルダーの立場から意見が述べられた。

  テーマ2.「大学におけるRDMを進める―支援組織の活動と連携」では,大学等組織としてRDM体制を整備するために必要な取り組みについて検討した。参加者を5人から6人のグループに分割し「RDMの学内推進」「学内連携の在り方」「GakuNin RDMの利用」について議論を行った。RDMを進めるために機関内に司令塔を設置し,GakuNin RDMの利用支援・利用事例収集も含めた,各部署のRDMに対する業務内容・専門性の理解といった,組織内の相互理解,相互連携を進める体制構築が必要との意見がまとめられた。

  テーマ3.「大学が保有する研究データの利活用可能性」では,企業関係者2人による知的財産の利活用に関する情報提供を基に,大学での研究データの利活用促進にまつわる課題の整理と議論が行われた。企業研究者からの情報提供は,特に大学図書館関係者にとって新鮮であったと好意的に受け入れられた。企業内研究においても,知的財産が(金銭的利益にかぎらず何らかの)価値を生み出すには,長い時間がかかり,また死蔵された多くのデータが存在する。この課題は大学など学術機関にとってはより顕著となり,翻ってはデータ利活用の前段階としてのデータ長期保存に関する課題も併せて検討する必要があるとの指摘がなされた。これを踏まえ,データ本体にとどまらずデータが生成された背景をまとめて記録することの重要性や,利用に関する法的整備の必要性等,具体的な課題について意見が交わされた。

  テーマ4.「情報基盤スタッフ向けRDM教材の検討」では,これまでJPCOARで整備してきたRDM教材において,情報基盤関係者向けのコンテンツを追加し,拡大する方法について議論された。事前のアンケートや当日の議論では,データ管理計画(DMP;CA1983参照)作成システムや機関リポジトリシステムの運営支援等,非情報系が情報系に期待するところが多いものの,情報系の教職員はその課題を認識していない,とRDMに対する認知度のギャップが明らかになった。意見交換を進めるうち,情報セキュリティ(機密性,完全性,可用性)など,情報基盤系の用語,概念を基に研究データの取り扱いを整理することで,前述のギャップを埋められることが示唆された。併せて,既存のRDM教材の注釈,再構成により情報基盤向け教材が構成できる可能性についても検討が行われた。

  いずれのテーマにおいても,リアルタイム投票ツールや,オンライン文書編集機能を活用し,オンラインでありながら参加者が自発的な意見表明を行うなどの工夫により,活発な議論がなされた。一方,参加者間の認識合わせに時間を要し,深い議論ができなかったこと,参加者によっては,視聴環境が職場の相部屋であったため,発言により議論に参加できなかった,との報告もあった。RDMを進める上で情報交換や情報収集の場は必要である,と参加者の好意的な感想も多かったことから,今後も上記の参加者からの反応を踏まえ,AXIES-JPCOAR連絡会としてワークショップを継続的に実施していく予定である。

Ref:
“研究データ作業部会”. オープンアクセスリポジトリ推進協会.
https://jpcoar.repo.nii.ac.jp/page/124
“研究データマネジメント部会“. AXIES.
https://rdm.axies.jp/
“AXIES-JPCOARワークショップ開催のご案内”. AXIES.
https://rdm.axies.jp/sig/60/
江川和子. オープンアクセスリポジトリ推進協会の発足. カレントアウェアネス-E. 2016, (309), E1830.
https://current.ndl.go.jp/e1830
青木学聡. 「大学における研究データに関するアンケート(雛形)」の公開. カレントアウェアネス-E. 2020, (399), E2308.
https://current.ndl.go.jp/e2308
宮田怜. 優れた研究データ管理(RDM)実践の24の事例集<文献紹介>. カレントアウェアネス-E. 2020, (387), E2241.
https://current.ndl.go.jp/e2241
池内有為. 研究データ共有時代における図書館の新たな役割:研究データマネジメントとデータキュレーション. カレントアウェアネス. 2014, (319), CA1818, p. 21-26.
https://doi.org/10.11501/8484054
常川真央. Machine-actionable DMPs(maDMPs)の動向. カレントアウェアネス. 2020, (345), CA1983, p. 12-15.
https://doi.org/10.11501/11546853