E2393 – 第3回SPARC Japanセミナー2020<報告>

カレントアウェアネス-E

No.414 2021.06.10

 

 E2393

第3回SPARC Japanセミナー2020<報告>

帯広畜産大学附属図書館・佐藤亜紀(さとうあき)

 

   2021年2月18日,第3回SPARC Japanセミナー2020「初めての研究データ」がオンライン開催された。

  開会に先立ち司会の八塚茂氏(バイオサイエンスデータベースセンター)より,研究データ管理に関する実践知を共有し,これから研究データ管理・公開を始める人を応援するという本セミナーの目的が示された。

  セミナーの構成は,研究データ管理・公開のためのインフラ(J-STAGE Data・GakuNin RDM),国内外の研究データ公開事例(北海道大学・エディンバラ大学(英国)),研究データリポジトリの評価方法と日本の現状(オープンアクセスリポジトリ連合(COAR)・オープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR))についての講演,そしてディスカッションであった。

●研究データ管理・公開のためのインフラ

  科学技術振興機構(JST)の加藤斉史氏からは,データリポジトリJ-STAGE Data(E2271参照)での研究データ公開について講演があった。導入の背景は,オープンサイエンスやデータの利活用が進んできたこと,研究不正防止の観点から研究機関や研究資金助成機関において研究データ管理や公開に係るポリシーが制定されるようになったことなどである。J-STAGE Dataに登録される研究データは,J-STAGEに収録されている論文に関する研究データで,登録されたデータは原則オープンアクセス(エンバーゴ選択可)で公開され,DOIが付与される。2020年3月から2021年3月までパイロット運用を実施しており,J-Stageの論文詳細ページに電子付録として掲載されていたデータのダウンロード数がJ-STAGE Dataにも掲載されることによって増加するなど,J-STAGE Dataに研究発信力向上の効果が見られるとした。(なお,J-STAGE Dataは2021年3月25日に本格運用を開始している。)

  国立情報学研究所(NII)の込山悠介氏からは,研究データ管理サービス提供側からの講演があった。NIIでは2015年から政府の提言を受けて研究データ基盤の構築を始め,2021年2月15日に研究データ管理サービスGakuNin RDMの本格運用を開始した。GakuNin RDMは,研究データ管理計画の策定から,研究によって得られたデータを管理し,論文として発表するまでの研究者の日常を支える研究基盤である。また,学認(GakuNin;CA1736E1482参照)による認証や,共同研究者間での共有と保存が可能で,リポジトリや文献管理サービス,大規模ストレージ等の外部ツールと連携することもできる。さらに研究データの証跡管理機能も備え研究不正防止の観点からも有用である。活用事例として,北海道大学や名古屋大学等6事例が紹介された。

●国内外の研究データ公開事例

  スイス・チューリッヒ大学アジア・オリエント研究所図書館の神谷信武氏からは,英・エディンバラ大学を例に研究データ管理サービスをどのように始めるか,展開するかについて講演があった。エディンバラ大学は2011年から研究データ管理サービスを開始し(E1481参照),研究データ管理に関する様々なトレーニングツールを提供しており研究データ管理に積極的な大学である。しかし初めから素晴らしいサービスを提供していたわけではなく,コストの算出や予算確保,どのサービスから提供するかといった課題もあった。できることから行う,教員からの同意を得る,実現可能なタイムスケジュールを設定するなどの試行錯誤を経て今のサービスとなった。このように,研究データ管理は初めから完璧なものを求めるのではなく,できるところから始めるのが肝要であるとした。

  北海道大学附属図書館の三上絢子氏からは,研究データ公開における課題について講演があった。北海道大学では機関リポジトリにて研究データを公開している。研究データの公開事例は2017年から2020年の間に14件あり,学内紀要1件を除いて投稿論文関連であった。このうち半数以上は論文出版前の登録依頼であり,さらに1件は査読時に一般公開されていることが条件であった。未公表のものを機関リポジトリに登録するにあたり,データ元の論文が公表済であることを前提とする運用ポリシーに合わず特別な対応をすることとなった。今後の課題として,投稿論文関連以外の研究データ公開への対応とその公開基準,研究データの再利用を促進するためのルール整備,研究データ公開を推進するための機関リポジトリの再定義が挙げられた。

●研究データリポジトリの評価方法と日本の現状

   NIIの安原通代氏からは,国際的な協会であるCOARが公開したリポジトリのグッドプラクティスのためのコミュニティフレームワークと国内機関における研究データ管理の取り組み状況調査について講演があった。2020年10月8日に公開されたCOARコミュニティフレームワークとは,リポジトリ改善のための自己評価ツールである。グッドプラクティスに基づいて自己評価し,改善点を見つけ,機能・ポリシー・運用について検討するために活用できる。国内機関における研究データ管理の取り組み状況調査については,大学,研究機関等が対象で352機関から回答が得られた。回答をまとめた報告書は作成中と案内された。

●ディスカッション

  以上5人の発表者をパネリスト,NIIの朝岡誠氏,国際農林水産業研究センターの林賢紀氏がモデレーターとなり,パネルディスカッションを行った。ディスカッションでは,研究データ管理における機関と研究者の関係,論文根拠データの公開,研究データ管理・公開のグッドプラクティスはどのように共有すべきか,の3点について,図書館員が研究者に研究データ公開を働きかけていくことが重要であること,査読前の論文根拠データの公開は雑誌のポリシー(発行機関の判断)によること,グッドプラクティスについては国内機関の取り組み状況調査などのアンケートや個別インタビューにより共有していきたいなど,それぞれについて発表者からコメントがあった。また,参加者からのコメントがリアルタイムで共有されるクラウドサービスSlidoによる視聴者からの質問もあり活発なディスカッションとなった。

  最後に,NIIの武田英明氏より,これからの研究活動には論文を発表するだけではなく根拠になっているデータの管理・公開も必要となってくる。そのためには研究者と所属機関,学会が協働して対応することが重要である,という挨拶があった。

  以上,セミナーの内容を報告した。これまでは本学も研究データ公開事例がなく実感がない中でJPCOARのトレーニングツールを受講してきた。しかし,このSPARC Japanと前後して教員から研究データ公開の相談を受け,需要があることがわかった。本イベントにて紹介された先行事例を参考にしながら研究データ管理サービスを進めていきたい。

Ref:
“第3回 SPARC Japan セミナー2020「初めての研究データ」”. 学術情報流通推進委員会. 2021-03-19.
https://www.nii.ac.jp/sparc/event/2020/20210218.html
J-STAGE Data.
https://jstagedata.jst.go.jp/
“データリポジトリ”. J-STAGE.
https://www.jstage.jst.go.jp/static/pages/JstageServices/TAB5/-char/ja
GakuNin RDM(研究データ管理基盤).
https://rcos.nii.ac.jp/service/rdm/
“COAR Community Framework for Best Practices in Repositories”. COAR. 2020-10-08.
https://www.coar-repositories.org/news-updates/coar-community-framework-for-best-practices-in-repositories/
COAR. リポジトリのグッドプラクティスのためのCOARコミュニティフレームワーク 第1版. 南山泰之, 尾城孝一, 安原通代, 菅原光訳. オープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR). 2020, 6p.
https://doi.org/10.34477/00000534
重松麦穂. J-STAGE Data:オープンサイエンス時代の新たなサービス. カレントアウェアネス-E. 2020, (393), E2271.
https://current.ndl.go.jp/e2271
山地一禎, 中村素典. 山形大学の事例からはじまる学認の次世代認証基盤構想. カレントアウェアネス-E. 2013, (245), E1482.
https://current.ndl.go.jp/e1482
池内有為. 大学図書館による研究データ公開支援にむけて:英国調査報告. カレントアウェアネス-E. 2013, (245), E1481.
https://current.ndl.go.jp/e1481
野田英明, 吉田幸苗, 井上敏宏, 片岡真, 阿蘇品治夫. Shibboleth認証で変わる学術情報アクセス. カレントアウェアネス. 2011, (307), CA1736, p. 4-7.
https://doi.org/10.11501/3050825