E2259 – CUPからのRead & Publishモデル契約の提案について

カレントアウェアネス-E

No.391 2020.05.28

 

 E2259

CUPからのRead & Publishモデル契約の提案について

大学図書館コンソーシアム連合事務局

 

●はじめに

   大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE;E1189参照)は,2019年8月29日に英・ケンブリッジ大学出版局(CUP)からのRead & Publishモデル契約を含んだ提案に合意した。この合意は,JUSTICEにとって初のRead & Publishモデルに関する合意となった。本稿では,この合意に至るまでの経緯とその提案内容について紹介する。

●OA2020関心表明への署名

   JUSTICEは,2016年8月9日付けで,学術雑誌のオープンアクセス(OA)出版への転換を目指す国際的なイニシアティブOpen Access 2020(OA2020)の関心表明(Expression of Interest:EoI)に,運営委員会委員長名で署名した。

   OA2020は,購読モデルの撤廃,OA化への迅速・円滑な転換,データやエビデンスに基づく主張などの特徴を持っている。OA2020の方針は,2015年12月8日・9日に開催されたOAに関する国際会議 Berlin 12 において議論され,上記のEoIが作成された。

   2016年3月以降,このEoIに世界の多くの組織が署名しており,JUSTICEは60番目に署名を受理された。日本からは物性グループも署名を行っている。

●OA2020ロードマップの公開

   JUSTICEではEoIへの署名を受けて,2017年5月にOA2020対応検討チーム(以下「検討チーム」)を設置し,⽇本の状況把握や海外のOAの動向について情報収集を⾏いつつ,現行の購読モデルからOA出版モデルへの転換の可能性について,検討を行った。

   日本の状況把握としては,国立情報学研究所(NII)の国際学術情報流通基盤整備事業(現・学術情報流通推進委員会(SPARC Japan))と共同で論文公表実態調査を2015年度から実施しており,この調査結果を活用した。海外の情報収集としては,Global ESAC Workshopをはじめとした国際会議等に検討チーム関係者の派遣を行った。さらに,2018年11⽉には,JUSTICEの委員を対象としたOA2020に関するワークショップを開催した。これに続き,SPARC Japanセミナー2018「オープンアクセスへのロードマップ: The Road to OA2020」をSPARC Japanと共催した(E2105参照)。このワークショップ,セミナーに,OA2020の推進に大きな役割を担っている独・Max Planck Digital Library(MPDL)からシマー(Ralf Schimmer)氏とキャンベル(Colleen Campbell)氏を講師として招くことにより,OA2020の活動に関するより深い理解と,OA出版モデルへの「転換契約(transformative agreement)」を実施する際に重要となる知見を得ることができた。これらの活動を経て,検討チームで「購読モデルから OA 出版モデルへの転換をめざして : JUSTICEのOA2020ロードマップ」(以下「ロードマップ」)の案を作成し,2019年3月の総会の議を経て,公開した。このロードマップは,「OA 出版モデル実現までの移行期を乗り越える道筋を明らかにすること」を目的としている。

●CUPからの提案

   ロードマップの公開後,各出版社にロードマップを送付するなどの働きかけを行った。その結果,2019年初頭に,CUPからRead & Publishモデルの提案について打診があった。その後,数回の交渉を経て,2019年8月29日にCUPと提案について合意するに至った。

   交渉は,Read & Publishモデルが追加されることにより,購読モデルを選択する機関に不利益が発生しないことや,Read & Publishモデルのワークフロー(著者及び図書館それぞれのフロー)がどのような手順となるかについて確認しつつ進められた。

   提案期間は2020年から2022年である。JUSTICE会員館は,購読モデルとRead & Publishモデルのいずれかを選択することができる提案となっている。Read & Publishモデルを契約する場合は,フルタイム換算値(FTE)毎に定められた購読費とOA出版のための追加経費を支払うことで,契約機関に所属する著者は契約コレクションの対象雑誌にOAで論文を出版する際,論文処理費用(APC)が無制限で免除される。

   JUSTICEはオプトイン形式のコンソーシアムであるため,この提案に基づいて契約を締結するかは各会員館の判断に任せられるが,結果として13大学がRead & Publishモデルを選択して契約している(2020年5月現在)。

   今後は,本提案についての評価のプロセスを経ながら,次の提案に向けての課題と改善点についてCUP及びJUSTICEで協議を続けていく。そのためにも,CUPからのOA論文の出版数の推移や各会員館におけるOA論文投稿の変化などの検証が必要である。また,JUSTICEではCUP以外の出版社からの同様のOAに関する提案を歓迎し,交渉を続けていく予定である。

Ref:
“Cambridge University Pressが、JUSTICEにRead & Publishモデルを新提案”. 大学図書館コンソーシアム連合. 2020-01-28.
https://www.nii.ac.jp/content/justice/news/2020/20200128.html
“Read and Publish agreement with JUSTICE”. Cambridge University Press.
https://www.cambridge.org/core/services/open-access-policies/read-and-publish-agreements/oa-agreement-justice
“Expression of Interest in the Large-scale Implementation of Open Access to Scholarly Journals”. Open Access 2020.
https://oa2020.org/mission/
“Open Access 2020の関心表明に署名しました”. 大学図書館コンソーシアム連合. 2016-08-09.
https://www.nii.ac.jp/content/justice/news/2016/20160816.html
4th Global ESAC Workshop 2019. Efficiency and Standards for Article Charges.
https://esac-initiative.org/activities/4th-global-esac-workshop-2019/
“第3回 SPARC Japan セミナー2018「オープンアクセスへのロードマップ: The Road to OA2020」”. 学術情報流通推進委員会.
https://www.nii.ac.jp/sparc/event/2018/20181109.html
大学図書館コンソーシアム連合. “購読モデルからOA出版モデルへの転換をめざして~JUSTICEのOA2020ロードマップ~”. 2019-03-05.
https://www.nii.ac.jp/content/justice/overview/JUSTICE_OA2020roadmap-JP.pdf
“JUSTICEのOA2020ロードマップを公開しました” . 大学図書館コンソーシアム連合. 2019-03-19.
https://www.nii.ac.jp/content/justice/news/2019/20190319.html
大学図書館コンソーシアム連合JUSTICEの誕生:現状とその将来. カレントアウェアネス-E. 2011, (196), E1189.
https://current.ndl.go.jp/e1189
西脇亜由子. 第3回SPARC Japanセミナー2018<報告>. カレントアウェアネス-E. 2019, (363), E2105.
https://current.ndl.go.jp/e2105